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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死出山怪奇譚集

死出山怪奇譚集番外編 ルイザの師匠

作者: 無名人


 日本から遥か離れた荒地の国、そこの小さな町にルイザとボルトは住んでいた。ルイザとボルトは死神だったが、訳あって今は現世に暮らしている。



 二人は元々姿を隠して暮らしていたが、今はレベッカという親切な女性の家に住まわせてもらっている。レベッカにはルイスという小さな息子が居て、二人はその子とも仲良くなった。


 また、二人は町の子供達とも会うようになった。特に二人は死神で奇形持ちだった。ボルトは人の生気を吸っていて、ルイザは蛇の髪の毛をしていた。

以前エメルダから香炉を貰った事で人を襲わなくなったボルトだったが、ルイザの髪の毛だけはどうにもならなかった。


 ボルトはルイザの髪の毛をどうしようかと悩んでいた。人間達は皆ルイザの髪の毛を見ては怖がっていたからだ。最初は、人前では隠そうかとボルトは考えていた。

 ところが、最初の頃は怖がっていた子供達は、いつの間にかルイザの髪の毛の蛇達とも仲良くなっていた。人と関わるようになってから凶暴さも少しずつだが収まってきた。




 そんな二人の元に、ある日死神のフィクマがやって来た。フィクマは荒地の死神で、この地の周辺を回っている。

「二人とも元気そうだね」

「フィクマさんこんにちは!」

フィクマはレベッカに出されたお茶を飲みながら、ルイザ達と話していた。

「フィクマさんはどうして俺達の所に来たのですか?」

「君達の両親に頼まれてね」

「今、俺達は人間達とも仲良くしてます」

「生きている人間と触れ合うのはいい事だよ」

フィクマはそう笑いながら言った。フィクマは以前、智に人間と関わり合う事の大切さを教えて貰っていた。それを思い出したのもあるのだろう。



 そして、フィクマは帰る間際に二人にこう伝えた。

「今のところ被害は無いが、この周辺にある泉に時折怪が現れているらしい。二人とも気をつけるように」

「怪って、どんな怪ですか?」

「噂によると、ルイザのような蛇の髪をした女性らしい。この地に昔から居るそうだが、最近は人里に近づいている。僕もその怪には気をつけておくよ。」

フィクマはそう言い残して帰ってしまった。ルイザは、その怪の事が気になるようで、ボルトにこう言った。

「私、その人に会ってみたい」

「会ってみたいと言うが、怪って事を忘れてないか?」

「そうだとしても、会ってみたいの」

ルイザは、自分と同じ蛇の頭をした人が居ると知って、是非会って話してみたいと思っていた。フィクマはその人が怪だと言っていたが、ルイザには関係ない。

「…そうか、なら今度時間がある時に行ったらいい。俺は付いて行けないけどな。ただ、何しろ怪は、俺達死神も喰う危険性があるからな。何かあったらすぐに逃げろよ。」

「うん、ありがとう」

ルイザはそう言うと、すぐさま出掛ける準備を始めた。そして、翌日リュックを背負って出掛けて行った。



 その怪が居るのは、この町から少し離れた泉だった。その泉の周囲には森があって、そこには多くの動物が集まっているらしい。ルイザはそこへ向かって歩いていた。ルイザの蛇達もずっと大人しくしていた。


 そして、その泉が見えると、畔に誰かが座っているのが見えた。その人はルイザと同じような蛇の髪の毛をしていて、背中には黄金の翼が生えている。

「あなたは…?」

「こんな所にまで人が来るなんて、珍しいわね」

その女性は振り向いてルイザにこう言った。その目は黄金で猫目水晶のようである。

「私はルイザ、死神です。あなたに会いに来ました」

「私はアリシアって言うの。私と同じように蛇の髪の毛をした人には初めて会ったわ」

アリシアは、蛇達と一緒にルイザの事を見ていた。

「アリシアさんは、蛇達をコントロール出来たりしますか?」

「そんな事はないわよ、一時期は私を食べようとしたり、人里に行けば人間を食べたり、喧嘩をしたりしてるわ。」

アリシアの蛇達は早速ルイザの蛇達を狙っている。どうやら、ルイザと同じように蛇達には主人と独立した意思があるらしい。



 アリシアはルイザの事をじっと見て何かを考えていた。そして、急にいい事を思いついたと言わんばかりにこう言った。

「そうだ、私ルイザちゃんの事が気に入ったわ。弟子になってくださらない?」

「弟子に、ですか?」

「とは言っても、私から教えられるのは砂の魔法だけだけど」

「でもアリシアさんなら、石化の術とかありますよね?」

「石化の呪眼は退化してしまって、今はもうないのよ。」

アリシアはそう言って自身の目を指さした。



 蛇頭で有名な神話のメデューサには生物を石化する能力があったとされ、ルイザの霊を石化する能力もそれに由来している。最も、ルイザもアリシアもメデューサには直接関係ないが、アリシアも神話と同じように石化の呪眼を持っていたという。

「アリシアさんの砂の魔法見たいです!」

「分かったわ」

アリシアはそう言って一度泉の畔から出た。そして、砂を一掴み持って自身の力を込めた後でそれを投げた。すると、砂は文様を描きながらゆっくりと落ちていった。ルイザはそれに見とれている。

「ルイザちゃんも練習すれば出来るわよ」

ルイザは早速自分でも砂を掴んで霊力を込めたが、上手くいかない。

「戦い以外に霊術を使うのは初めてで、中々上手くいかないです…」

「ルイザちゃん、戦うの?」

「怪や霊とはよく戦ってますよ!」

ルイザは死神である事からよく怪と戦っていた。それは、人里にやってくる怪から人間を守る為でもあった。

「アリシアさんは戦いますか?」

「鬼界に居た頃は怪と戦っていたけど、あまり戦いたいとは思わないわ」

アリシアはそう言いながらまた砂を投げていた。


 かつてアリシアは鬼界の怪だった。その頃は今よりも醜い姿で理性もなく暴れ回っていたが、理性を手に入れるうちにだんだんそのような生活が嫌になった。そして、現世を訪れるようになったが、人間を始め他の種族とはあまり関わるような事はなく、泉の畔で静かに暮らしていた。


 ルイザはしばらく砂の魔法の練習をしていたが、日が暮れるのを見て、アリシアにこう言った。

「アリシアさん、また明日も来ますね」

「ええ、また明日ね」

ルイザはアリシアに手を振りながら、家に帰って行った。



 そして翌日、ルイザはまたアリシアの元へ向かった。今度は、ルイザはアリシアのお土産に自身の霊力が込められた霊水晶の瓶を持っていった。

 アリシアは、ルイザの事を待っていた。アリシアはルイザの為に泉の畔に咲いている花で冠を作っていた。

「あら、ルイザちゃんいらっしゃい」

「こんにちは、アリシアさん」

アリシアはその冠をルイザに被せた。

「女の子は可愛くないとね」

「ありがとうございます!」

ルイザはそう言ってまた練習を始めた。ところが、どう頑張っても上手くいかない。それを見たアリシアは、ルイザにこう言った。

「どうしたのかしら?」

「砂の魔法が上手くいかなくて…」

「この砂達はね、自分の身体だと思うの。そうすれば出来るわよ」

アリシアはルイザの目の前で小さな砂嵐を起こした。ルイザもそれを真似する。すると、ルイザの目の前に小さな砂嵐が出来ていた。

「ほら、出来るじゃない」

「本当だ…」

次にルイザは、昨日アリシアが見せてくれた砂の文様の練習を始めていた。




 その時だった。遠くから地響きが聞こえていた。見ると、二足歩行の巨大な牡牛の怪が近づいている。ルイザは鎌を取り出して、それに巻きついている蛇に声を掛ける。

「ジェイ、いくよ!」

「おう!」

ルイザは牡牛に鎌を向け、走っていった。そして、鎌で斬りつける。ところが、牡牛はビクともしない。

「参ったな、こいつ固いぞ」

「うん、斬るだけじゃだめなのかも」

ルイザは一度、牡牛から離れて霊術で岩をぶつけた。ところが、牡牛はそれに構わず暴れている。アリシアも、砂を操って戦っていたが、間に合わないようだ。

「この姿に戻るのは何百年振りかしらね…」

アリシアがそう呟くと、その身体が変化していた。眼光は鋭くなり、牙も太く鋭くなる。そして、大きく翼を広げて砂嵐を巻き起こす。

 ところが、牡牛は変化したアリシアをものともせず跳び上がって強靭な爪で切り裂いた。アリシアは砂に叩きつけられて倒れてしまう。ルイザは、倒れてしまったアリシアを心配しながら、牡牛をどう倒そうか考えていた。

「ルイザ、あの魔法ここで使えないか?」

「砂の魔法をって事?やってみる」

ルイザは砂嵐を鎌に集め、牡牛にぶつけた。すると、牡牛は目元を抑えて苦しみ出す。そして、ルイザは目を光らせて牡牛を睨みつけた。すると、牡牛は石になって崩れ落ちる。

「凄いなルイザ、遂には怪も石化出来るなんて」

「うん、自分でもよく分からないんだけど」

ルイザはもう牡牛が動かなくなったのを確認した後、アリシアの所へ向かった。




 ルイザはアリシアに自分の瓶を飲ませた。すると、アリシアは黒い髪の人間の女性に変わる。そういえば、怪は人間や死神の霊力を取り込むと時折人間に近い姿になる事があるらしい。アリシアは怪の中でも精神も成熟していたから、特にそうなりやすかったのだろう。

「人間の姿になったとはいえ、目を覚まさないんじゃどうしようもないよ…」

「ルイザ、俺にも瓶の中身を飲ませてくれ」

「ジェイ、いいけどどうしたの?」

「俺だって蛇の怪だぞ、俺も人間になれるかもしれない」

ルイザはジェイに霊力の瓶を飲ませた。すると、ジェイはルイザよりも一回り背の高い男性の姿になる。ジェイは人間の姿になったアリシアを背負った。

「随分と魔力を消耗している。ボルトに見てもらった方が良いな。」

「良いけど、どうしてボルトに?」

「ボルトの方が怪の力について詳しいと思ってな」

ジェイは、アリシアを背負いながらボルトが居る町の家まで向かっていった。



 そして、ジェイはベッドにアリシアを寝かせた。アリシアはしばらく人間の姿で眠っている。ルイザは、別の部屋に居るボルトを呼び出して、アリシアを見せた。

「お帰りルイザ、どうしたんだ?」

「アリシアさん、私の師匠が倒れてしまって…」

ボルトはアリシアを見ると、自分の霊力の瓶をアリシアに飲ませた。

 すると、アリシアの姿は元に戻り、髪の毛の蛇達が目を覚ます。蛇達はボルトを見て人間だと思ったのか襲ってきた。すると、ボルトは台所から卵を持ってきて、一匹ずつ食べさせた。そして、アリシアも目を覚ました。

「随分とその蛇達はお腹を空かせていたな」

「ええ、ありがとう…」

アリシアはベッドから起き上がると、髪を茶色い布で隠した。

「でも私、戻らなきゃ…」

「やっぱり、人間とは暮らせないのですか?」

「ええ、ルイザちゃん達は死神だけど私は怪、人を襲う存在って事には変わりないから…。一時は人間と暮らしたいって思った事はあるし、人間になった時もそう思ったけど、やっぱり諦めるわ…。」

アリシアはそう言って一人泉へ戻ってしまう。ルイザは、そんなアリシアに声を掛けた。

「また私、アリシアさんの所へ行きますから!私は、アリシアさんの事が好きですし、また色々教えてもらいたいです!」

「ルイザちゃん、千年生きてて私の事が好きって言われたのはあなたが初めてよ」

アリシアはルイザに向かってそう言うと、ルイザの目の前から消えてしまった。


 ルイザとジェイ、それからボルトはアリシアの方を見ていた。するとジェイは、蛇の姿に戻ってこう言った。

「俺、アリシアの所へ行こうかな」

「ジェイ、急にどうしたの?」

「ルイザが見に行くのもいいけどずっと側に居た方がいいかなって。俺の後はケイに任せるよ。」

ジェイはルイザの鎌に巻きついているもう一匹の蛇に声を掛けた。ケイはジェイの決断に驚いていたが、すぐに頷いた。

「ああ、行っておいで」

「ケイ?いつの間に喋るようになってたの?」

「成長しないと望めば数千年もそのままの姿でずっとでいられるし、成長したいと望めば他の生物達よりも早く姿を変える事が出来る。それが怪だよ。」

ジェイは人間の姿になってアリシアを追い掛けた。それをルイザはじっと見守っている。

 

 思えば、ジェイはルイザが産まれた時に生えていた髪の毛から分離した蛇の怪だった。自分と同じように成長したと思っていたが、いつの間にか自分を追い越してしまったようだ。

「ジェイが居なくなって寂しくなるね…」

「でも、ルイザ、師匠に会う次いでにまた会えるじゃないか?」

「うん、そうだね…」

ケイはルイザの鎌から出て、ルイザの膝の上に乗った。

「僕も人間の姿になれるかな?」

「やってみる?」

ルイザはジェイと同じようにルイザの霊力の瓶を飲んだ。するとジェイと同じように人間の姿に変わる。成長度合いが違うのか、ケイはルイザよりも背の低い少年のような姿をしていた。

「また、アリシアさんとジェイに会いに行こうね」

「ルイザ、今度は俺も行きたい」

「うん、ボルトも一緒に行こうね!」

ルイザとボルト、それからケイはそう言い合った後しばらく家で休んでいた。すると、レベッカが帰って来る。そして、三人は日常へと戻って行った。






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