正直者はバカを見るが反省はしない
日曜の午後、特にやるべきこともなくゴロゴロしてると不意に同棲している彼女が言った。
高校3年の頃から大学生になったいまでも付き合ってる彼女だ。
「そういえば君ってあたしのどこが好きなの?」
僕は正直に答えた。
「別にどこも好きじゃないよ」
正直に答えたつもりだが僕の右頬にはくっきりと赤い手形がついた。
「じゃあなんであたしと付き合ってるの?」
「君しか付き合ってくれる人が居なかったから」
これも正直に答えたつもりだが左頬にも手形がついたことは言うまでもないみたいだ。
「君は暴力的で無ければもう少し魅力的なのに」
「そう グーのほうがお好み」
ニッコリ微笑んで拳を構える、うん 恐いです。
「君はどうして僕と付き合ったの?」
実を言うと僕はめちゃくちゃ苛められていた。
高校生になると苛めなんてむちゃくちゃですごい悲惨なもんだ。
死のう、と何度も思ったものだ。
だけど、僕は生きている。
『罰ゲーム』で告白した学年1の高嶺の花の彼女があっさり「いいよ」と言ったことで、こうして。
「君が不器用過ぎて見てられなかったの」
「それは嘘だね」
僕は言う。
「そう、嘘ね」
取り繕うことなく彼女は穏やかに笑う。
「まあ初対面の人間に君は嘘つきなんだね、なんて言ったらそりゃ苛められもするわよ」
僕は間抜けな顔できょとんとしていた。
それは高2の春、茶髪に染めた男が僕に話し掛けてきたときのことだ。
何人と付き合っただとかそんな話をずっとしてた彼の横で俯いている女の子がいて、彼はその子を「あいつは淫乱だ」とか「メス豚」だとかなじった。
僕は「君は嘘つきなんだね?」と、彼に言った。
女の子はちょっとだけ嬉しそうな顔をしたけど、彼は激怒して次の日から教科書が無くなったりしはじめた訳で。
彼女は違うクラスだったから知らない物だと思い込んでた。
「知ってたんだ」
「少なくとも彼が嘘つきであなたが正直者だってことぐらいわね」
「僕には人の嘘がわかるんだ」
「それも知ってる」
「え どうして」
「だって私の嘘は君には通じないから」
「僕に嘘ついたこと、ある? さっきの以外で」
「さあね」
もしかして僕が告白した時のことかな?、と思い返してみる。
あのとき、直球で「好きです」と言った僕に「あり得ない」、だか「ごめんなさい」だかわからないけど何か言いかけた彼女は、僕の目を見た途端に動かなくなった。
そして、少しして「いいよ」と言って微笑んだ。
彼女が寄り添ってきたから僕は彼女の肩を抱き締める。
「僕は君のどこが好きなのかな?」
「私が君を好きなところが、じゃないの」
これはもしかしたら君しか付き合ってくれなかった、を根に持った彼女なりの皮肉だろうか。
「あ 1つだけわかったよ、好きなとこ」
「なに?」
「抱き心地 二の腕とかやわらかいし」
不意に彼女が立ち上がり正面に立ちニッコリ微笑む。
「どうしたの?」
言い終える前に右ストレートが綺麗に額に飛んできた。
そんな彼女をやっぱり僕は愛しいと思う