第70話 朱色のオーケストラ 前編
クリスマス、一緒に過ごす相手、、もちろんいませんよ。
演奏会当日。俺は、学校帰りに代々木ホールに向かっていた。電車から降り、辺りを見回すと、レストランのイルミネーションが綺麗すぎて、感動した。こんな事あるだろうか、クリスマス近いわけでもないのになんか周りを歩いているカップルが凄く腹立って見えてくる。
「演奏会本番は18時からだよ。絶対来てね。」
ゆりからのLINEを見る。そうだ。せっかくなので友達誘うと思い、茜を誘ってみた。駅で待ち合わせて茜と2人で、ホールに向かう。
(ねー、、ねー、、今どこ???)
俺はスマホの画面を見るとLINEの通知が来ている。茜のLINEにはびっくりマークが絶対付く。女子あるあるだ。しかも時には、びっくりマークを5個くらい付けてくるのはさらに厄介だ。
(代々木のホールの近く、、なあ、、先ホール行ってていい??)
俺はそう返信する。差し入れを買いたいのだが、中々、決まらない時は、誰かと一緒に選ぶようにしている。ありきたりのお菓子やチョコなどでは飽きるのではと考えてしまう。
(えー、、一緒に行こうよ。もうすぐ私も駅に着くよ。今日ね、彼氏バイトなんだー)
茜は今日は彼氏と来ないようだ。茜の彼氏は、確か両国かなんかの高校に通っているんだっけ。もうすぐ駅に茜が来て、きっと来るだろう。きっと普段とは違う私服姿のあいつが見れるんだろう。昔から、よくコーデには気を遣っていたのは知っているけど。そういえば、私服姿一回も見た事ないかも。
頭の中に妄想が膨らんだのであった。
駅の改札の前に来てそこで待ち合わせた。LINEが入ると、茜がやってくる。私服姿は、演奏会に合わせた青っぽいノースリーブを着ていて、清楚な格好であり、可愛らしかった。
「圭一、、ごめんね。少し遅くなっちゃった!!!
え??圭一、今日はおしゃれじゃない??
その柄といい、暑くないの?だけど、、本当に暑いよねー。っていうか、差し入れ買ってたんだー。ミックスウィッチのベリー&キャラメルナッツ、、デパ地下で買っちゃったわよ。」
「いや、、普段私服とかにあんまりセンスないとか言うくせに今日は褒めてくれるんだな。演奏会に変な格好する奴なんかいないぜ。ほら差し入れも買っておいた。俺は勿論花束だよ。さっき、花屋で買ったんだー。」
「ねね、、私も楽しみなの。演奏会、、オーケストラの生の演奏を聴けるなんて、、しかもチャイコフスキーでしょ。
あの有名な、、なんて曲だっけ??白鳥の湖だっけ??」
「白鳥の湖は物凄く有名だけど、今回やるのは別の曲だよ。
まあ聞けば分かるさ。。ゆりがやる曲がいかに凄いかって。
幻想序曲だぜ。」
そうゆりがやる曲は、チャイコフスキーの初期の傑作、幻想序曲「テンペスト」だ。シェイクスピアのテンペストを元に描かれた序曲。影が隠れた影の名曲だ。
「へーー、、詳しいのねー。確かチャイコフスキープログラムだったよね。あっ、白鳥の湖もやるんだー。良いなあー。ロミオとジュリエット、、それにハムレット、、それに、、フランチェスカダミリニ、、イタリア奇想曲。。弦楽セレナーデ、、知らないわ。ねね??イタリア奇想曲ってどんな曲なの??」
「イタリア奇想曲っていうのはチャイコフスキーがイタリア旅行した際に聞いた民謡や舞曲を元に書いた曲なのさ。結婚に失敗して、憔悴しきったチャイコは、イタリアに旅行したのさ。そう失恋した末に生まれた最高に明るい曲なのさ。
チャイコは暗い曲が多いけど、イタリア奇想曲は違う。」
そんな話をしている内に、ホールに到着した。ホールのロビーにいる受け付けの人に花束とお菓子を渡す。ホールでの緊張感がやばい。独特なこの緊張感は、ホールあるあるなのか。
「ねえねえ、白鳥さんだよ。あれA組の吹奏楽部のほらサックスパートでコンミスの、めちゃくちゃ上手いって話題のさ。えーー??制服で来ちゃったのー。見て見て、、意外と制服の人いっぱい来てるよ。」
「白鳥さんって、、吹奏楽部の鬼厳しいって言われてる。へー、、美人だな。
お前、、あんまり、ジロジロ見んなよ。」
「うるさいなー、、いいでしょう。。もう緊張がやばいんだからー。あたしは音楽とは無縁だったからホールとか慣れてなくて。ねね、、終わった後のなんかさ、友達集まってわあわあやるみたいなあれとかどうしても苦手で、、困っちゃうよねー。」
「まあ、、俺も嫌いだけど、まあ大体そういうのは吹部の定演終わった後とかにやるやつだからあんまリ気にしなくていいんじゃねえの??俺らだって、、知り合い少ないしさ。
開場すると緊張感が入り口の中に入ると、そこには様々な年齢層のお客さんがいた。お年寄りから、若い人。強いては、中年のおっさん、おばさんなど、まあクラシック好きな人ばっかりだ。
「ねーねー、、見て、、ゆりちゃんの名前入ってるよ。ティンパニって。凄い、、パンフレットに名前が載ってるよ。しかも、、木琴、鉄琴まで、、、」
茜が感心している中、俺が前の席を見ると、、演奏会に見覚えのある男の姿があった。それは山田ルビーと御影だ。
(あれって山田、、それに、、あいつは、、パーティーにいた、、)
「あれってヨゼフ学園の御影君じゃん、え??凄い、おぼっちゃまだからクラシックとかを聴くのねー。素敵ね。」
「山田、、御影と付き合っていたのか、、、ヨゼフ学園ってゆりの元カレがいた所の、、、」
そんな中ブザーが鳴った。ホールが暗くなり辺りが静まりオケが入場してくる。ライトが輝き真っ暗なホールのステージが黄色に光出す。美しくも幻想的なオレンジ色に変わるとそんな中にゆりが入場する。そんな彼女の姿はいつのより一層輝いて見えた。
「ゆり、、、頑張れ、、、」
俺が応援する中、指揮者がタクトを振り、最初の音楽が鳴る。チャイコフスキー作曲の幻想序曲ハムレットの鋭いティンパニが鳴り響く。ゆりは、力強くロールがホール一体に響き劇的なホ長調の和音で弦楽の前奏が響く。
(なんて、、劇的な始まりなんだ。これは、、まさに嵐、、チャイコフスキー作曲、、三大幻想序曲の中の一曲、、、ハムレット、、、。。)
劇的なクライマックスが築き上げ、レチタティーヴォのように響く中ヘ短調の嵐のような主部に突入する。まるで音楽は、激しい戦闘のような部分になってゆく。
(この曲は、まるで凍えた大地を走り去る軍隊のような、、、
そんな感じがする。そしてなんて美しいんだろうか、でもおかしい、、なんか、、まさかピッチがズレているのか。
全体的にオケの音が、、弱いのか。金管が強くて打楽器が聞こえないのか。)
横を見ると、茜も食いつくようにオケを見つめている。
そしていよいよメインの曲、テンペストに繋がってゆく。
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