第62話 ロシアプログラム
長らくお待たせしました。
その日、宮野ゆりは、学校の帰り1人でサントリーホールに向かっていた。読売交響楽団が演奏する定期演奏会でオールロシアプログラムだ。今回の演奏会ゆりが聞くのはチャイコフスキーのイタリア奇想曲、そして今回の演奏会でやる1番メインの楽曲。チャイコフスキーの初期の傑作、「ロミオとジュリエット」ロ短調。ゆりが特に好きな劇的な序曲だ。
そう今回彼女が、特に注意して聞くのは、ティンパニーの音色だ。ロミオとジュリエット。そして今回の演奏会のメインでもある交響的幻想曲「テンペスト」。幻想曲「フランチェスカダミリニ」。
入口でゆりは興奮を抑えられなかった。ゆりはチャイコフスキーの序曲が異常に好きであった。三大序曲と言われているロミオとジュリエット。テンペスト。そしてハムレット。
この曲がきっかけでシェイクスピアの戯曲を読み始め、文学に興味を持ったと言われても過言ではない。
「やったあ。貰った。チケット。楽しみだなぁ。」
座席はC席だ。5000円ほどの良い席である。特にフランチェスカダミリニにおいて劇的な序奏を聞く際には、この座席が1番なのだ。
そして拍手が鳴り響きオーケストラが入ってくると、指揮者が現れて、コラールのような序奏が開始される。嬰ヘ短調。
修道僧ロレンスを表す重い序奏が6分ほど現れる。クラリネットとファゴットの重い音色が、奏でていく。最初はいきなりロミオとジュリエットだ。
(堪んないわ。この序奏。私!!素晴らしい音色だわ。流石プロ。)
重々しい序奏が終わると劇的な主部に突入する。モンタギュー家とキャピュレット家の争いを現す、かっこいい場面だ。
ゆりは初めてこの場面を聞いたときにあまりにかっこよすぎて失神しそうになったという。流石チャイコフスキー。転調をしながら、様々な楽器にフレーズを繋げていく。プロの技だ。木管楽器が次第にでクレッシェンドしていくと、遂にあの主題が姿を現す。変ニ長調。チャイコフスキー屈指の名メロディーと言われている第2主題。
(来た!!来た!!!第2主題。私が最も好きな主題。堪らないよ。綺麗すぎるよ。)
ゆりはこの主題を初めて聴いた時に涙が止まらなかった。元カレとの破局してからもこの曲を聴いて気持ちを抑えようと必死であった。激しい展開部を終え、怒涛の再現部では美しく昇華された第2主題がニ長調で大変美しくダイナミックに響き渡る。切ない恋が終わってしまう。愛し合ったロミオとジュリエットはここで死という永遠の愛を受け入れて天国へと旅立ってしまう。思わずゆりは涙を流すのであった。彼女は今複雑な気持ちであった。スカイツリーで圭一に告白されて時に彼の事を本当に好きなのか気になってしまった。圭一はゆりを本気で好きになったのにそれも叶わず終わってしまうのか。このロミオとジュリエットのようにはなりたくない。彼を離したくないという気持ちが強くなった。
(田口君は本気で私の事を好きって言ってくれた。私だって田口君の事嫌いじゃないはずなのに、、、前向きになれない!チャイコフスキーの音楽を聴くといつもこうなんだな。)
ゆりはシェイクスピアの劇を観にいった時に本気で泣いた。元カレに振られた後シェイクスピアのロミオとジュリエットを劇団四季のミュージカルで観に行った。ゆりを振った元カレが好きであった。劇団四季のロミオとジュリエットのミュージカル。元カレはミュージカル俳優を目指して高校の時に演劇専門の高校へと進学した。そして高校進学して3ヶ月圭一と付き合う1ヶ月前に別れたばかりであった。あの日理央と圭一がお台場でデートをしているのを目撃した日こそが彼氏との別れを切り出した日であった。元カレと出会ったのもミュージカルを観に行った時であった。これは運命的な出会いであったのかもしれない。
ふとLINEがなった。
圭一からであった。
「この後会える??」
私に連絡をくれた。ゆりはマナーモードに設定してある携帯の通知がなったのに気が付いた。いよいよ次回の定期演奏会でゆりが演奏するチャイコフスキーのテンペストが始まった。冒頭静かなヘ短調の和音を鳴らして静かに海の描写が現れてゆく。ゆりは原作のテンペストのシーンを思い浮かべた。そして音楽は激しく盛り上がり、船を激しい嵐で沈没させる場面へと移ってゆく。あまりの迫力にゆりは言葉を失った。タイタニックの一場面を思い出したのであった。一途な愛は愛する2人を沈没する直前まで引き裂かなかった。
そして美しく現れる第2主題の激動のクライマックスはロミオとジュリエットの最後を思わせながらもより壮大に描かれてゆく。余韻を残さない独特な終わり方にゆりは納得がいかなかった。
(やっぱり恋愛は、、美しく消えるんだね。私はラフマニノフの交響曲みたいなラブストーリーがいいな、、、。それにしてもティンパニのアーティキュレーション、、私には合わなかったなあ。まるでただ力任せに演奏しているみたい、、、)
ゆりは盛大に拍手をした。私はもっと磨かなきゃ、ゆりは強く思ったのであった。
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