第60話 チャイコフスキーの激情
チャイコフスキーの弦楽セレナーデは最高です。
その日俺は、久しぶりにipodを開いてチャイコフスキーの交響詩集を聴き始めた。チャイコフスキーの中でも特に好きな曲集だ。その中に幻想曲「テンペスト」、幻想序曲「ロミオとジュリエット」、そして幻想序曲「ハムレット」。更には、初期に書かれた序曲「嵐」や序曲「運命」なども入っていた。
「懐かしいな。チャイコフスキーの中でもよく聞いた曲集だ。」
中学生の時、3年間、地元のオーケストラに入っており、ヴィオラを習っていた経験がある。その時にチャイコフスキー好きの地元の先輩にCDを貸してもらい、一時期ものすごくハマっていた。チャイコフスキーの中でも最もハマっている曲が1812年であるのだが、特に他の序曲は、特にかっこよい。
「確か、1812年の最後は、大砲が登場するんだよな。あのラ・マルセイエーズの主題が出てくるところ俺めちゃくちゃ好きなんだよな。」
それ以外にもクラシックの音楽はかなり好きだ。ラフマニノフの交響曲2番。チャイコフスキーの交響曲第5番。
そしてモシュコフスキーのピアノ協奏曲。
高校生になった今でも聴くクラシックの曲の数は、えげつない。
そんなことはどうでもいいのだが、やはり1812年の、合唱付きの序奏から始まり、ハ短調冒頭の激烈なクライマックスへと向かっている所は何度も聞いてと素晴らしい。そして俺は特にベルリンフィルの演奏を超える演奏に出会ったことはない。音色とフレーズの取り方、全てが強烈だ。なぜこれ程までにベルリンフィルは素晴らしい演奏をするのだろうか。
「お兄ちゃん!!何聞いてーんの??」
明美が聞いてきた。こいつは何かとよく聞いてくる。そんなに俺が聞いている音楽が気になんのかよ。かまちょなのかよって思う。
「明美か、、あれだよ。チャイコだよ。お前も知ってるだろ。1812とかロミオとジュリエットとか入ってるやつ。」
「うわあ、、お兄ちゃんがすごいハマってた曲じゃん。私も好きだなあ。あそこまで激情を表現した曲はないよね。まるでお父さんみたい。」
明美は再婚した父親の連れ子だった。そして明美を殴りつけた虐待に限りを尽くしていた最低の父親だったのだ。俺は、何度も妹に暴力を振るう父親を守ろうとした。その度に殴られて、何度も。ついに母親は離婚した。
「あんなやつのことは忘れろ。あいつはお前の事を最低に扱ったんだ。あいつがお前に何をしたか、お前忘れたわけじゃ
ないよな。お前は虐待されてたんだぞ。忘れろって、今は幸せだろ。彼氏もいるし。」
俺は、話題を変えるべく、話を逸らした。やはりこの話題は避けたい。どうしてもだ。
「でもね、思い出すの。お父さんの事。あんな酷いことされたに私は、、。」
「いつだって家族は4人だ。俺に母さん。お前に、愛美。ずっと4人でやってきたじゃねえか。俺は、、あんなやつを家族として認めない。俺の記憶から抹消したいくらいだ。いいか。チャイコフスキーだってな、自分が同性愛だって事受け入れて前に進んだんだよ。結婚破綻した時だって前に乗り切って、作曲し続けたんだ。だから、皆過去に思い出しくない嫌な思い出があるもんだよ。俺だってそうだしな。まあ元気だせよ。ほら、CD。お前が聞きたいって言ってたチャイコの弦楽セレナーデさ。この曲はいいぞ。心を浄化してくれる。」
「うわぁ!!私、欲しかったんだ。これもカラヤンの指揮の」
チャイコフスキーの弦楽セレナーデ、大変美しい楽曲だ。2楽章のワルツは大変有名だ。弦楽セレナーデは、CMでも使われた事でも大変有名な曲だ。カラヤンは20世記を代表する指揮者でレナード・バーンスタインと共に非常に有名だ。
明美はCDを眺めると開封した。そしてステレオで流し始めた。冒頭の大変有名な序奏が流れると明美の頭の中に情景が浮かんだ。雄大な景色と大自然だ。
「お兄ちゃん、これってもしかしてプレゼント??」
「そうだよ。俺からのな。お前がオーケストラヴィオラで入りたいって言ってたからさ。ヴィオラも小ちゃい頃から頑張ってたしさ。なあお前も一緒に行かねえか?今度な彼女がオールチャイコフスキープログラムって演奏会に出るんだよ。一緒に行かねえか?」
俺は明美に誘った。確かに周りにクラシック好きな友達がいないのだ。もう一人の妹の愛美は、ジャズ専門でクラシックに全く興味がないのだ。
「うわあ!!!何そのコンサートめちゃくちゃ楽しみだなあ!!っていうか彼女と別れたんだ??理央ちゃん振っちゃたの???」
「あいつの話はしないでくれ!!頼む!!」
思い出したく無いのだから極力話題を必死に変えた。
「何よ。私に言えない事でもあんの??さては隠し事???」
「違うんだ。思い出したくないんだ。理央の事は、あいつの事はもう。話す時がきたらお前にも話すからさ。だから、心配すんなよ。な!!!!」
俺の言っていることを明美は理解した。今まで起こった事を私や愛美に殆ど話していた兄が話さない。よっぽど嫌な事なのだろう。こういう時は兄にそっとしておくのがいつもの私だ。
「わかった。ごめんね。お兄ちゃんが話したくないのに聴いちゃった私が馬鹿だったよね。いつも私はお兄ちゃんの相談相手になれれば良いってそう思って後先考えずに言っちゃうからさ。一緒に行こう。私と二人で。私もお兄ちゃんの彼女のティンパニの演奏聴いてみたいからさ!!」
明美はにこりと笑った。明美は良い子だ。だからこそ、心配を書けたくなかった。
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