第三話「冷蔵庫」
ガタガタッ!
異様な物音で、僕は目を覚ました。
「あっ……」
いつのまにか、僕は寝落ちしていたらしい。顔を上げると、パソコンの画面はスリープ状態で、真っ暗になっている。マウスを動かすと明るくなったが、復帰した画面の中では、僕のゲームのキャラが、無残に殺された状態で停止していた。
「あーあ。やり直しだ……」
それよりも。
あの『ガタガタッ』という音は、まだ続いている。
恐る恐る振り返ると……。
「ひっ!」
冷蔵庫が、激しく揺れていた。この物音は、冷蔵庫の振動音だったのだ。
いや電気製品である以上、冷蔵庫は少しくらい振動もするのだろうが、それは「ブーン」という程度だろう。これは「ガタガタッ」なのだ。明らかに異常ではないか!
「まるで……。中で何者かが暴れているかのような……」
子供の頃に聞いた話を思い出す。怪談だったか、ホラーだったか、定かではないが……。とにかく、冷蔵庫というものは、中からは開けられないのだという。間違って入ってしまうと、一生閉じ込められてしまうのだ、という恐怖譚だった。だから隠れんぼなどで入ったりしてはいけない、という教訓話だったのかもしれない。
大きくなってから「それは嘘だ」とか「そういう仕組みの冷蔵庫もあるが、中からでも開閉可能なタイプの方が多い」とか、そんな情報も耳にした気がする。だが僕は「どうせ冷蔵庫に入る機会などない」と聞き流していた。
そんな話を思い出しつつ、
「誰かいますか? 入ってますか?」
つい、冷蔵庫に声をかけてしまった。
冷静に考えるならば、僕の部屋の冷蔵庫に、僕が知らぬ間に誰か入っているならば、それは不法侵入者ということになる。僕が留守にしていたならばまだしも、眠っていたとはいえ在宅だったのだから、泥棒が入ってきたとも思えないのだが……。
そんな僕の思考を裏切って、まるで僕の呼びかけに返事するかのように、冷蔵庫の「ガタガタッ」は、いっそう大きくなった。
「おいおい、何だっていうんだよ……」
いやいや、僕の冷蔵庫は、一人暮らし用の冷蔵庫だ。大の大人が隠れられるような大きさではない。「中に誰か入っている」としても、子供か、あるいは犬や猫のような動物だろう。
それならば。
僕は冷蔵庫に近づき……。
「開けるぞ! 開けてやるぞ!」
自分に言い聞かせるように呟きながら、扉を開いた。
その瞬間。
中から、それが飛び出してきた。




