第二話「橋」
コンビニからの帰り道。
アパートまでは、わずか五分。だが、途中に川があり、一つ橋を渡ることになる。もちろん、コンビニへ行く時も通った橋だが……。
「……えっ?」
渡ろうとしたところで、思わず声を上げてしまった。
橋の途中に、何か置かれているのだ。行きにはなかったシロモノが。
それは、遠目では、脱ぎ捨てられた靴のように見えて……。
雨で水かさの増した川、その上にかかる橋。そこに脱いだ靴を置いておくといえば、投身自殺!
そう思った僕は、
「まさか!」
急ぐ必要もなかったのに、駆け寄ってしまった。
しかし。
「なんだよ、人騒がせな!」
近づいたところで、自分の誤解に気づく。
自殺なんて大間違い。そもそも、それは『靴』ではなかった。
卵のパックだったのだ。一パック十個入りの、きれいな白い卵だ。
「でも、なんでこんなところに……?」
未開封の卵パック。誰かが落としていったのだろうか? いや、それならば割れてしまうはず。それに、橋の向きに揃えて置かれていることからも、とても落とした卵とは思えない。
不思議な出来事だ。まるで、RPGの途中で出てくる、謎イベントのような……。
RPGといえば。
僕が今やっているネットゲームは、いわゆるオープンワールド形式の、自由度の高いRPG。他ユーザーとの協力プレイも推奨されているRPGだが、リアルな人付き合いも厭う僕が、ゲームという遊びの中で他人と関わりたいはずもない。だから僕は、一人で淡々と頑張っていた。
そして、ソロプレイを進める上で大切なのが、途中で入手できる様々なアイテム。特にステータス向上に関わるアイテムは、そのゲームの中では、卵の形をしているのだった。
ひたすら卵をかき集めるというプレイスタイルもあるくらいで、一部では『たまごプレイ』と呼ばれているのだが……。
「ちょうど現実で、謎の卵に出くわす……。これも何かの縁かな?」
ゲーム気分の好奇心で。
僕は、その卵パックを拾って、持ち帰ることにした。
家に帰った僕は、好奇心よりも、まずは食欲。
拾った卵は、パック未開封のまま冷蔵庫に入れて、弁当を食べ始めた。
パソコンの画面は点けっぱなしだったので「さあゲームの続きを!」と僕を誘っている。
視界から消えた時点で、卵に関する関心も小さくなっており……。
僕は弁当を食べながら、ゲームに戻るのだった。