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五大陸大動乱戦記

一本足の漁師

作者: ドラキュラ

どうも、ドラキュラです。


今作は「老人と海」、そして「宝島」の2作のキャラをモチーフにした作品です。


老人と海はサンチャゴ、宝島はジョン・シルバー、白鯨のエイブラハムをモデルとしましたが「灰色の聖騎士」の番外編でも書いた東スコプルス帝国とも関係があるキャラとしております。


まだ、そちらの作品は序章すら書き上げていない状況ですが何とか書き上げた末に投稿したいと思います。


ですが、こちらの方が先に出来上がったので投稿した所存ですので読んで下さると幸いです。

 静かな波に揺られながら一隻の帆船が海を漂っていた。


 縦長の船体に高いマストを装備した小型の帆船は典型的な「捕鯨ボート」だった。


 その捕鯨ボートには一人の漁師が居た。


 古い帆布と防水布を繋ぎ合わせたような上下の服と、古びた革製のベルト、錆び付いた真鍮のバックルから如何にも「典型的な船乗り」を物語っていた。


 しかし、それとは対照的に日焼けした肌と、肩まである髪は白くアンバランスだが、その白髪こそ男が今まで・・・・今も船に乗っていると教えた。


 いや・・・・髪だけじゃない。


 男の左足は太股より下が無く、代わりに「白い義足」をしていた。


 白い義足は鯨の骨辺りで作ったのかもしれない。


 その白い義足が妙に輝いていたが、それこそ漁師が今なお「老いて盛ん」な船乗りであると訴えているようにも見える。


 しかし・・・・何を狙っているのか?


 「・・・・・・・・」


 老いた漁師はジッと麦で編んだ帽子を深く被った部分からは分からない。


 ただ一人しか乗船していない点と、母船が無い事を鑑みれば捕鯨が目的でないのは明らかだ。


 「・・・・・・・・」


 老いた一本足の漁師は照り輝く太陽に身を晒したまま身じろぎ一つしない。


 ただ、釣り糸は海中にあるから・・・・待っているのだろう。


 小物ではない・・・・真の「大物」が餌に食い付くのを。


 それは片隅に転がっている食べ物の滓を見れば明らかだ。


 恐らく数日間は・・・・この海に一人で居るに違いない。


 「・・・・・・・・」


 漁師がチラッと麦で作った帽子のツバを僅かに上げ、牛肉みたいに分厚い顔を僅かに見せた。


 その顔に宿った瞳は、まさに歴戦の戦士と言われるような力強さがあった。


 刹那・・・・・・・・


 糸が勢いよく海中に引き摺り込まれ、捕鯨ボートが引っ張られた。


 「・・・・・・・・」


 漁師は糸を両手で掴むと勢いよく立ち上がり両足を踏ん張らせると力一杯に糸を手繰り寄せた。


 しかし海中に居る大物も負けじと漁師を海中に引き摺り込もうと潜る姿勢を見せた。


 「はんっ!この俺を引き摺り込もうとしているのか?甘いぜ!!」


 漁師はカッと笑い糸を更に手繰り寄せながら引っ張った。


 その力は並外れていたのか・・・・海中から餌に食い付いた「敵」の姿を露わにした。


 敵は巨大な魚だった。


 全長が10メートルを優に超える巨体と、海蛇のような長く細長い胴に黒くて尖った背びれ、それとは対照的に丸みを帯びた胸びれ、そして鮫のような鋭い歯が特徴の「ペレグリーヌス」だ。


 古代語で「奇妙」という意味を持つ、この魚は名前通りと言って良かった。


 これは研究家も口を揃えて言う程で未だに解明されていない部分も数多い。


 だが簡単に捕まえられる生物ではない。


 何せ非常に獰猛で貪欲な「捕食者」として数多くいる海の魔物の中でも頂点に立っているからだ。


 ただし捕食するのは大型の魚または鯨やアザラシ、果ては鮫や同じ魔物でさえも襲う。


 だが稀に人間も襲う事がある。


 お陰で人間達から報復される事もあるが・・・・老いた漁師は知っている。


 『こいつは人間を故意に襲ったりはしない』


 人間が彼等に餌と思わせる行為あるいは縄張りに入るから襲うのだ。


 もっとも漁師はこの大物を狙っていた。


 それは賭けをしたからだ。


 『爺さん、あんたが俺達の獲ってきた獲物より大きい奴を獲ってきたら”ラム酒”を浴びるほど飲ませてやるよ。そして”泣き虫坊主”には土下座してやる』


 数日前に漁師が出入りしている酒場で言われた言葉だが・・・・その賭けに漁師は勝つ為に数日前から海を漂っていたのだ。


 しかし賭けとは別の意味もあった。


 「俺は、まだ・・・・やれるんだ。そうさ、年は食っても俺は元気だ。だから、あんな餓鬼に負けて堪るかっ。改めて見せてやるんだ・・・・あの“2代目泣き虫小僧”に俺の凄さを!!」


 漁師は自分を奮い立たせる台詞を叫びつつ糸を手繰り寄せ続けながらを見た。


 ペレグリーヌスは鮫のような鋭い歯で糸を食い千切ろうとしているが・・・・糸は千切れない。


 「悪いな?そいつは魔術師に大枚を叩いて編ませた特注品なんだ。おめぇ御自慢の歯でも無理さ!!」

  

 漁師は笑いながら糸を手繰り寄せるがペレグリーヌスは反撃に出て来た。


 10メートルは優に超える巨体を捕鯨ボートに当ててきたのだ。


 その衝撃は凄まじくマスト等が悲鳴を上げて今にも折れそうに歪む。


 そして漁師も危うく海中へ落ちそうになったが・・・・その状況を楽しむように笑った。


 「おおっと・・・・へへへへへっ!やるじゃねぇか!!」


 漁師は踏ん張らせている足に更なる力を込めながら近くに置いた銛を見る。


 銛は一本のみだ。


 しかし仕留める事は可能だ。


 だが・・・・仮に失敗したら?


 腰に吊している平水夫時代から使っている古女房(カトラス)のみだ。


 こんな古女房では奴を仕留める事は出来ない。


 銛で急所を力一杯に突いて仕留める他ない。


 『俺に出来るのか・・・・・・・・?』


 漁師は突如として不安に自問した。


 もし一突きで仕留める事が出来なければ奴は逆襲してくるのは明白だ。


 奴は色々と武器を持っている。


 対して自分の武器は限られている。


 何より見渡せど船の影すら無い。


 つまり助けは無い。


 出来るのか・・・・・・・・?


 一昔前より年を食っている自分に・・・・・・・・


 いや・・・・・・・・


 「やってやる!!」


 漁師はギラッと眼を鋭くさせると糸を手繰り寄せ銛を打ち込む機会を窺った。


 だがペレグリーヌスは体力があるのだろう。


 疲れた素振りすら見せなかった。


 寧ろ漁師の方を疲労させようとばかりに縦横無尽に動き出した。


 「ちっ・・・・互いに”我慢比べ”か?ああ、良いぜ。とことん付き合ってやるよ!!」


 昔から「腕相撲」は強いんだと漁師は言い、老いて干乾びている両手に力を込めた。

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 どれくらいの時間が経過しただろうか?


 日は完全に沈んでいる事を考えれば・・・・半刻以上は経っているのかもしれない。


 しかし漁師の体勢は変わらない。


 対してペレグリーヌスの方は静寂を保っている。


 「ちっ・・・・また、これかよ」


 漁師は呆れたように嘆息するが、その口元には疲労が明らかに見えた。


 だが漁師は屁でもないとばかりに独白する。


 「まったく・・・・もう15年も経っているのに・・・・また同じ状況になるとは・・・・な」


 俺ぁ「こう着状態」が嫌いだと漁師は言った。


 そんな漁師の脳裏には何度か起こった、こう着状態の様子が鮮明に浮かんだ。


 「初めての時は腕っ節が自慢の水夫だったな・・・・・・・・」


 平水夫として初めて貰った給料全額を互いに賭けた腕相撲で、開始から3時間ほど互いに動けない状態が続いた。


 いや、あの時の自分は若かくて今より「ひ弱」だった。


 だから死ぬ物狂いで耐えたんだ。


 対して腕っ節が自慢だった水夫仲間は自分が粘るとは思わなかったのだろう。


 歯軋りしながら自分の腕ごと折る勢いで力を込めてきたが・・・・・・・・


 「あん時から・・・・俺ぁ、腕相撲で無敵になったんだったな」


 漁師は口端を上げて笑ったが、その次に出会った、こう着状態には苦笑を浮かべざるを得ない様子だった。


 「2度目・・・・まったく、あん時は本当に死ぬと思ったぜ」


 漁師は自分の左脚を見た。


 「”捕鯨船”に乗っていながら鯨に足を食い千切られるなんて世話ねぇぜ」


 2度目のこう着状態で自分は狩るべき獲物だった鯨に足を食い千切られた。


 それこそ子供の鯨にである。


 しかし自分と、当時の仲間達から親を護ったんだと漁師は思っている。


 もっとも親子そろって狩ったが・・・・それから直ぐ捕鯨船から降りたんだと漁師は呟く。


 別に片足が無くても捕鯨船には乗れた。


 寧ろ仲間達は残るように言ってくれたものだ。


 だが・・・・あれを一時の「潮時」と自分は捉えたと漁師は当時を振り返る。


 「・・・・女房が妊娠したから・・・・だったな」


 漁師は半年前に死別した妻の事を今度は思い出した。


 「へへへへ・・・・俺みたいな野郎には勿体ない女だったな」


 見た眼は中の下か、中の中くらいだが海に出る自分の帰りを家でジッとなんては待たず自ら宿屋を経営して自分が持って来た金を増やす術に長けていた。


 そして自分が何時も帰ると好物の舌が火傷する事で知られたシチューを大量に作って出迎えてくれたのだ。


 そんな女との間に出来た子供は男の子だったが・・・・・・・・


 「・・・・なぁ、おめぇには子供が居るか?」


 漁師は沈黙を保ち水中で動かずにいるペレグリーヌスに問いを投げた。


 もちろんペレグリーヌスは答えないが漁師は言い続けた。


 「子供が居るなら大事にしな。さもないと俺みたいに・・・・失う事になるぜ」


 妻も子も・・・・2人揃って・・・・・・・・


 「まぁ・・・・それで俺ぁ、また海に出たんだがな」


 妻と子を失った事で自分は再び海に出たが、流石に「操舵手」まで登り詰めただけあってだろうか?


 ブランクを感じさせない活躍を自分はした。


 だが・・・・ここで3度目のこう着状態に陥ったのである。


 「まったく・・・・あん時も参ったな」


 「元祖泣き虫小僧」にしてやられたと漁師は笑ったが、その笑みは一種の「少年」のような幼さを宿していた。


 「この俺様を出し抜いたと思いきや俺を縛り首から助けやがって・・・・たくっ。馬鹿野郎が」


 言った筈だと漁師は呟く。


 「世の中ってのは”狡賢い”奴が勝って、正直者は”アホウドリ”なんだよ」


 そう・・・・まさに、世の中はそんなものだ。


 だが元祖泣き虫小僧は違うと漁師は改めて思う。


 「あそこまで律儀で、馬鹿正直で、御人好しな野郎はそう居ないが・・・・あいつが見逃したから俺は、まだ生きているのも事実だ」


 もっとも・・・・・・・・


 「あの宝は8~9割は俺が頂く手筈だったのに・・・・ちくしょうめ。1割にも満たない額しか得られなかったのは痛いぜ」


 愚痴を漁師は零すが・・・・ふと海中に動きがあったので注意深く眼を細める。


 そして腕と足に力を込めるが・・・・ペレグリーヌスは動かない。


 またしてもかと漁師は思ったが、待てと自分に告げる。


 『今まで動かなかった相手が動いたって事は・・・・何かをやる”前振り”だ』


 自分が腕相撲で無敵となる為に倒した腕っ節が自慢の水夫仲間も勝負を決しようとした際・・・・それまで固く閉じていた唇を僅かに開けた。


 左足を食い千切った鯨の子供も何かを決心したように水中で動きを止めたではないか。


 そして元祖泣き虫小僧も・・・・自分を出し抜く前に拳を握り締めた。


 つまり・・・・・・・・


 「・・・・・・・・」


 ここで漁師は左の義足で銛を静かに持ち上げ、そして左肩に投げるようにして掛けると慎重に右手で銛を握った。


 そして何時でも銛を突けるように構えようとした瞬間・・・・・・・・


 ペレグリーヌスは海中に巨体を沈ませた。


 しかし漁師はグッと踏ん張りつつ・・・・左の義足一本で器用に舵を操り捕鯨ボートを横へ移動させた。  

 次の瞬間だった。


 ペレグリーヌスは思い切り海中から飛び上がった。


 もっとも捕鯨ボートは移動していたので渾身の力を込めた体当たりは・・・・虚しく空を切るだけになった。


 逆に・・・・漁師には「瞬間」となった。


 「・・・・・・・・!!」


 カッと漁師は目を見開かせた瞬間・・・・右手に持った銛を何ら躊躇する事無くペレグリーヌスのえら目掛けて突き刺した。


 ペレグリーヌスの眼がカッと開くのを漁師は見たがこれでもかと位に銛を押し込んで行く。


 その間もペレグリーヌスは巨体を揺らし、捕鯨ボートを転覆させようとしたが・・・・・・・・


 「俺の・・・・勝ちだ」


 ニヤリと漁師は完全に事切れたペレグリーヌスに告げる。


 そう・・・・ペレグリーヌスは体力が尽きて、ついには生命すら尽きてピクリとも動かない。


 「へ、へへへへ・・・・どんなもんだっ!!」


 漁師は大声で叫んだ。


 「これでラム酒は飲み放題だ!あの糞餓鬼共が2代目泣き虫小僧に土下座するのを肴にな!!」


 高笑いする猟師を朝日が照らしたが、それを見て漁師は仕留めたペレグリーヌスの身体を捕鯨ボートのマストに取り付けた獲物を釣り下げるフックに結び付ける作業に取り掛かった。


 「血の臭いを嗅いで鮫は直ぐ来るからな・・・・誰にも渡さねぇぞ」


 こいつは俺が仕留めたんだと漁師は言いながらフックにペレグリーヌスを結びつけると次にマストに上がって畳んでいた帆を広げた。


 すると・・・・忽ち風を捕えて捕鯨ボートは水上を高速で進み始めた。


 「あぁ・・・・良い風だ。この風は”東スコプルス帝国”からだな。へっ・・・・あの人が良いように見えて実は”食えない爺”が吹かせたか?」


 あり得るなと漁師は笑いながら捕鯨ボートの舵を切った。


 その姿は荒々しい大海原に何度も出ては帰って来た海の男らしいが・・・・漁師が若かりし頃はこう呼ばれていたのを知っている者は居るだろうか?


 「冒険紳士」と・・・・・・・・


                                            完

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