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男女'n Dungeon  作者: 凪沙一人
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#5 迷宮の白雪さん

「いい加減にしてほしいな… 。」

 五人の眼前に広がった景色を見て、勇斗は項垂れた。最初のフロア以外、続けて四度目の森。それも今回は雪道ときている。

「おや、こんな所に人とは珍しい… と思ったが月見里やまなしではないか。こんなに女性ばかり、引き連れて良い身分だな。」

「姫野? こんな所で、自分の世界の知り合いに会うとは思わなかった。」

「なんじゃ、勇斗。知り合いか? 」

「姫野白雪。うちのクラス委員… って分からないか。」

 そもそも、この世界に学校の概念があるかも怪しかった。何しろ勇斗が、この世界で出会ったのは王族に、精霊から預かった娘に、眠そうな水汲み娘に、自分をゾンビだと思い込んでいた迷子である。

「と、取り敢えず、お知り合いなんですよね? えと私、アリス=グリューンって言います。アリスって呼んでくださいね。」

「ふぁ~。自己紹介ぃ? ブライア=ローズでぇす。」

 アリスが名乗るとローズも欠伸をしながら続いた。

「わ、わたしはメイジー=ブランシェットだ。」

 メイジーは名乗りはしたが、赤い頭巾で顔を隠してしまった。本来は人見知りなのかもしれない。

「妾はリリス=フェー。この者たちを率いる王族なるぞ。」

「誰が率いてるって? 」

 勇斗が間髪入れずにツッコんだ。

「いや、その共に… いや、世話になっておる… おります… 」

 リリスの声が、だんだん小さくなる様子を見て白雪は、なんとなく、このパーティーの力関係を察した。

「月見里、ちょっといいか? 」

 白雪は勇斗と他のメンバーから離れた。

「勇斗ぉ~。恐かったよ。寒かったよ。寂しかったよぉ。」

 リリスたちの前とは態度が一変した。

「懐くな。」

「だって、目ぇ覚ましたら知らない森の雪の上だったんだよ? 心細かったよぉ~。」

 どうやら、白雪は状況が理解手来ていないと判断した勇斗は、今までの経緯を説明した。

「あのお二人、何を話してるんでしょうか? 」

「なんじゃアリス。気になるのか? 」

「ち、違いますっ! 」

 リリスに問われてアリスはムキになって否定した。

「もしかしたら、元の世界で恋人同士かもしれんぞ? 」

「誰がだ? 」

 アリスをからかおうとしてリリスは、いつの間にか戻ってきた勇斗に睨まれた。

「まったくだ。私は月見里に、この世界について聞いていただけだ。」

「おい、姫野。ここじゃ皆、勇斗で呼んでるから、そうしてくれ。」

「それなら私も白雪と呼んでもらおうか。」

「何故? 姫野でよくないか? … まぁ、いいけど。」

 正直、白雪はホッとしていた。

「それで白雪。このフロアに魔物は見かけてないか? 」

「それと、宝物じゃ。何か秘宝めいた物を見かけなんだか? 」

 やはり、リリスには先道より目の前のお宝なのだろう。勇斗は少し呆れていたが、迷宮の魔物を倒すのに役立っていたのも事実だ。手に入れておいて損は無いかもしれない。

「一応聞くが、この世界に来てから何か手に入れた物は無いか? 」

「えっ? これの事かな? 」

 そう言って白雪が見せたのは、左腕に装着された水色の石の填まったバングルだった。

「それは宝鏡スペクルム!? じゃが、妾の知っているスペクルムとは形が違うような? 」

「そう言われてもね。貴女が知っているという元の形も知らない。ただ、この白銀の世界で生き延びる為に貰っただけ。」

「貰った? 誰にじゃ? 」

「エルレーンと言ったかしら。私の黒檀のような黒髪がマルガリータという娘に似ているとか。」

 それを聞いてリリスは首を捻った。

「エルレーンやマルガリータという名前には覚えがあるのじゃが… 数百年も昔に王族に居た名じゃ。」

「私は貴女が尋ねたから答えただけ。たまたま同じ名前なのかもしれないし、偽物か幽霊かもしれない。相手が、そう言っていたから、そう伝えただけ。面倒な事を言うなら、話しかけないで。答える義理はないのだから。」

(小難しい娘じゃのう。)

 リリスは小声で白雪に聞こえないように、勇斗に言ったつもりだったのだが、白雪の視線に背筋が凍るような思いをした。

「取り敢えず、そのエルレーンって人を探そう。他に、このフロアを抜け出せるような情報は、無さそうだしな。」

「い、今、妾もそう言おうと思っていた処じゃ。」

「それならリリス。この雪原で、どうやってエルレーンを探す? 」

 当然、そんな事を考えていよう筈もない。すると白雪は呆れたように歩きだした。

「ど、何処へ行くつもりじゃ? 」

「どうせ、貴女にアテなど無いのでしょ? だったら、私が最後に会った場所に行ってみるしか、ないのではなくて? そこでエルレーンが見つかればよし。たとえ見つからなくても足跡の手掛かりくらいはあるかもしれない。もし、何も見つからなかったとしても、この雪の中、そこを起点に行動範囲の推測は出来るのではなくて? 」

「急ごう。皆も、こんな所で露営ビバークも避けたいだろ? 」

 勇斗の言葉に皆は現実に気がついた。今まで、塔の中だからと魔物の警戒さえしていれば良かったが、このフロアでは寒さの心配もしなければならない。今のところ、火に関する七宝を持つ者も居ない。勇斗も知識としては火起こしも、かまくら作りも知っていたが実践経験が無い。このままでは迷宮を脱出する前に凍死なんて事になりかねない。一同は無事にエルレーンが見つかる事を祈るしかなかった。

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