#4 赤頭巾ちゃん御用心
「うぉ… 何の嫌がらせだ? 」
次の階の扉を開けた勇斗の前には、またもや森が広がっていた。
「助けてくださいっ! 」
唐突に赤いフードを被った一人の少女が勇斗たちの元へ駆け寄ってきた。
「わたし、メイジー・ブランシェットって言います。お婆ちゃんの家に行こうとして迷子になっちゃって。一緒に探してもらえませんか? 」
「あ、怪我してるじゃない。ちょっと待ってて。」
アリスがメイジーの手当てをしている間に、勇斗、リリス、ローズの三人は集まって話し始めた。
「どうみても妾は怪しい思うのじゃが? 」
「て事は、あのメイジーの言う事に乗らないと、次に進めないって事だろ? 」
「うむ… まぁ、そうなるかの。」
となれば、選択肢は1つしかない。
「分かった。一緒に探してやるよ。」
「ありがとうございます! 」
勇斗の言葉にメイジーは嬉しそうに微笑んだ。メイジーが母親から持たされたという地図。確かに方角は描いていないし、見辛くはあった。だが、分からないという程の酷さではない。悪く言えば、適度に分かりにくく描いてある。そもそも迷宮の中に、お婆ちゃんの家がある。という時点で嘘臭い。罠の臭いがプンプンする。しかし、迷宮なんて火中の栗を拾わねば先には進めない事は多々ある。端から罠だと分かっていれば警戒のしようもある。一行は程なくしてメイジーの祖母の家なる所に着いた。
「勇斗、先に行け。お主ならば、いざとなればエクリプスの能力で何とかなろう? 」
「そりゃ魔物限定の話しだろ。」
文句を言いながらも、勇斗は仕方なく小屋に入った。するとベッドの上には巨大な顋と獣耳のが隠しきれない、老人向けと思われる女性衣装を纏った魔物らしきものが寝ていた。それが起き上がる前に勇斗はエクリプスを抜き放った。
「なんだ、メイジー。獲物はまだか? 」
「えっ!? 」
「彼奴に俺は見えていないよ。それより、なんで、こんな事をしている? 」
「わたしは… 一度、彼奴に食べられて死んだの。死人が魔物の言う事聞いて何か可笑しいの? それに干し肉と葡萄ジュースだって、お婆ちゃんの… お婆ちゃんのお肉と血を口にしちゃったのよ。あたしももう魔物なのっ! 」
「1人で何を騒いでる? 早く獲物を連れてこいっ! 」
苛立ったように魔物がメイジーに声を掛けた。
「・・・三つ言わせてくれ。」
「何よ? 」
「1つ、アリスの治癒魔法が効いたって事は、お前は死人じゃない。リビングデッド系なら治癒魔法でダメージを受ける筈だ。」
「えっ!? 」
言われてみれば、その通りだとメイジーも思った。この世界でも常識レベルの話しだったが、自分は死人だと信じきっていたので、気がつかなかった。
「2つ、俺が見えているって事は、お前は魔物じゃない。宝剣エクリプスを持つ者は魔物には見えないらしいからな。」
メイジーは呆然としていた。
「3つ、ここは迷宮の塔の中だ。最初から、お前の婆さんの家なんか、あるはずがない。だから、お前が口にしたのは、お前の婆さんじゃない。大方、誰かに道を聞いたら、この塔の中だとでも言われたんだろ? 」
「えっ、うん。親切そうな猟師さんに… 。」
「それから… 」
「3つじゃなかったの? 」
もうメイジーは少し泣き笑いだ。自分は魔物になっていなかった。祖母を食べてはいなかった。それが嬉しかった。
「おまけだ。エクリプスは姿は隠せても臭いは隠せない。あの、デカい鼻で俺の臭いが分からないのは、この部屋に生きた人間が他に居るからだ。つまり、お前は普通の人間だ。」
そう言うと勇斗は問答無用でベッドの上の魔物を斬り払った。すると魔物は断末魔を上げる間もなく、滅び去った。
「おやおや。困りますねぇ、勝手な事をされては。」
「猟師さんっ! 」
現れたのはメイジーを迷宮に誘い込んだ猟師だった。
「俺が見えるって事は魔物じゃないのか? 」
「いやいや、見えてませんよ。ただ、手下と違って私は臭いの個体識別が出来るものでね。だから、何処に居るのか分かりますよ。こんな風にねっ! 」
「危ないっ! 」
猟師が猟銃の引き金を引くのと同時に、勇斗の前にメイジーが飛び込んだ。誰もが、危ないと思ったが、銃弾はメイジーを避けていった。
「おぉ、ひょっとして、その頭巾、宝衣クロスか!? 」
相変わらず、七宝となるとリリスの反応が早い。
「やはり人間の作った物は役に立たぬかっ! 」
そう言うと猟師は巨大な狼人間へと姿を変えた。
「ライカンスロープ… ウルフロードか? まぁ、俺からすれば、的がデカくなっただけだけどな。ローズっ! アリスっ! 」
「はいっ! 」
ローズの水の宝瓶アクアリウスから放たれた水流と、アリスの風の宝杖パーセムの巻き起こした突風がウルフロードの嗅覚と聴覚を遮った。元々、勇斗の姿は闇の宝剣エクリプスによって見えていないのだから、ウルフロードは手も足も出ずに敗北するしかなかった。すると扉の開く音が聞こえてきた。
「ふぁ~。でも、あの狼男、外と出入りしてたんでしょ? なんで出口聞かなかったかなぁ。」
大欠伸をしながらローズが聞いてきた。
「ま、まぁ良いではないか。倒してしまったものは仕方ない。先へ進むぞっ! 」
「仕方ないですよ… ね? 」
アリスは苦笑するしかなかった。
「あれは… 出口が分からなくてラッキーって顔だったよねぇ。」
今回は一番元気なリリスの背中を四人は仕方なく追っていった。