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男女'n Dungeon  作者: 凪沙一人
38/39

#38 別れの時間

「それで、ホラ。どうすればいいんだ? 」

 ようやく手に入れた時を刻まぬ時計を手に勇斗は宝鏡スペクルムの中のホラに尋ねた。

「それがだね。桃の女王が永遠の時を刻む時計を渡してくれんのだ。」

 困り果てたようにホラの返事が返ってきた。

「桃? 」

「だって!これを渡したら、勇斗様、お帰りになるんでしょ? 」

 勇斗の声に桃の女王の本音が聞こえた。

「元々、この世界の人間じゃないからな。」

「それは… 」

 わかっている。そう答えようとした桃の手からホラが永遠の時を刻む時計を奪い取った。

「何をっ! 」

「嫌われ役は年寄りが引き受けよう。憎んでくれても構わん。だが、中のカレンダーを含めて二つの時計が一致する瞬間は一度きり。悩んでいる暇は無いんだよ。」

 ホラが二つの時計を合わせると長針は逆に回り始め、短針は通常方向に回りだし、やがて12時を指して文字盤から放たれた光が時の扉を開いた。

「ささ。早く行くがよい。面倒な事に巻き込んですまなんだな。」

「まったくだ。」

 勇斗はリリスに宝剣エクリプスを差し出した。

「向こうじゃ、使い道無いからな。」

「はい、これも。」

 白雪も宝鏡スペクルムをリリスに手渡した。

「それじゃ、元気でな。」

 名残を惜しむ暇もなく勇斗と白雪は時の扉に飛び込んだ。

「あ、あちきを忘れてるッス! 」

 真魚も慌てて後を追って扉に飛び込んだ。

「勇斗様ぁ。」

「御主人様ぁ。」

 桃とアンナが次々に嘆く。

「あっさりしたもんね。」

 閉じ始めた時の扉を見ながらラフィネスクが呟いた。

「時間をかけては名残り惜しくて別れが辛くなろう? あやつなりの優しさじゃ。」

 隣に立ったリリスが答えた。その横で何やらローズとメイジーが手短に相談をすると、いきなりアリスの背中を押した。

「えっ!? 」

「アリスってぇ、ドリアードに塔の中でドリアードに育てて貰ったって事は、帰る所無いんでしょ? 」

「こ、後悔しないでください。」

 アリスにもローズとメイジーの言いたい事は伝わった。

「まぁ、向こうから来れたなら、こちらから行けぬ道理も無いかのぉ。」

「ありがとうっ! 」

 アリスも扉に飛び込んでいった。その様子を見ていたラフィネスクはコッペリアに近付いた。

「はい。」

 そう言って一つの指輪を渡した。

「これは? 」

「これを使えば人になれる。私の側で機械人形として暮らすもよし、人として自由に生きるもよし。まぁ、人になると老化もするし寿命も来ちゃうけどね。」

「人に… なれるのですか? 」

「急がないと扉が閉じるわよ? 」

 ラフィネスクの言葉にコッペリアは力強く頷くと扉の中に飛び込んだ。

「ラフィネスク、今のは? 」

「そう。これで私の魔力は打ち止めよ。これからファー家に茶飲み友達として住み込んであげるわ。」

「な、何故、そうなる!? 」

「あんたが迷宮の塔で良からぬ事をして勇斗を召喚したのが事の発端でしょ? いわば私が魔力を失ったのもあんたの所為なんだから責任、とるのは当然でしょ? 」

「何故そうなる? あ、いや、ちょっと待て。」

 リリスがキョロキョロとしているのでラフィネスクも辺りを見回すと、二人の足元に七宝が置かれて誰もいなかった。少し遠くで三人の人影が手を振っていた。

「ペロさん良かったんですかぁ? 」

 眠そうにローズが尋ねた。

「宝靴ラテールの事かにゃ? カラバ侯爵には僕からごめんなさいするから大丈夫にゃ。」

 脇でメイジーが不安そうに首を捻っていた。

「なんか、圧倒的に人数が合わなくないかの? 」

 リリスが不服そうに呟いた。

「若いっていいわよねぇ。七宝も手に入ったんだし貧乏貴族脱出なんでしょ? 早くお城に帰ってお茶にしましょ。」

 ラフィネスクはスタスタと歩き始めた。

「これ、待たぬか。というか持たぬか? 」

「あなたの物でしょ? 杖より重い物を持たない魔女が魔力を失ったら、ただの綺麗なお姉さん。そんなの持てる訳、ないでしょ? 美魔女は力仕事なんてしないのよ。」

「なんじゃ、その変な理屈は? えぇい、桃っ! 七宝を宝鏡スペクルムの中に入れてくれぬか? 桃? おい、桃? 」

 、だが桃の声はせず、代わりにホラの声が聞こえてきた。

「仕方ないから七宝は取り込んでやるが、桃なら此所には居らんぞ。」

「まったく今時の若いもんはっ! 」

 リリスには桃の行き先の見当がついていた。ぼやきながら七宝のうち六つをスペクルムに入れるとラフィネスクの後を追った。

「天知る、地知る、狸汁。蜘蛛の子、蜂の子、ちらし寿司。旅は道連れ、余はお酒。」

「出たな、化け猫め。まぁ、いい気晴らしくらいにはなろう。ついてまいれ。」

 チェシャも大あくびをしながらリリスの頭の上に頭だけの姿をちょこんと乗せた。といっても重さは無いのだが。

「あれぇ? リリスさん? 」

 海岸で廃材を集めるローズたちとリリスたちはあっさり再会した。

「まぁ、海を渡るには船が要るわな。ローズ、一度アクアリウスを返すから運んでくれぬか? 」

「えぇ? リリスさんが運んでくれるんじゃないんですかぁ? 」

「ローズ、遭難したくなかったら、言うとおりにした方が無難だよ。」

 ラフィネスクの言葉に今までのリリスの様子を思いだし、ローズも首を縦に振った。

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