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男女'n Dungeon  作者: 凪沙一人
37/39

#37 時間経過

 ウノはゆっくりと身構えた。絨毯に目を落とすと足跡が動いた様子はない。たとえ足跡通りに戻ろうが、宙に浮こうが、勇斗の居場所が動けば、そこに掛かっていた体重が無くなるのだから、ふかふかの長い毛足は元に戻ろうとする。高級絨毯は伊達ではない。と、その時、頭取の部屋に繋がる階段付近の絨毯の端が燃え上がる。

「と、頭取が!? 消せっ! け・・・」

 慌てて消火の指示をしたウノの身体を勇斗の宝剣エクリプスが捉えていた。火はすぐにローズが宝瓶アクアリウスを使って消し止めていた。

「な、なるほど。あの火は… 宝笛パイドですか。卑怯… とは申しますまい。見事な連携です。やはり、先にお仲間を見つけておくべきでした。そうそう、頭取の時を刻まぬ時計は頭取室の隠し金庫にございます。」

「何故、それを? 」

 さすがに唐突ではあるし、疑いの目を向けた。

「信じる、信じないは、お任せいたします。ただ、どうせ消え行く身でしたら内部告発。最期くらいは自分に正直でもいいではありませんか? お急ぎください。時間とき経過すぎれば、大金庫の貯時間を失った時間銀行は建物の時間を消費します。経年劣化というやつでございます。そろそろ、私はお時間のよ… 」

 最後まで言い終わる前にウノも煙りのように消えていった。物陰から出てきた一行と合流すると、全員で頭取室に乗り込んだ。

「よくぞ、ここまで来たな、盗人ども。」

「おいおい、盗人は、貴様の方だろ。」

 そう言いながら勇斗は部屋を見渡した。

「ちょっと贅沢が過ぎたな。桃、隠し金庫は何処だ? 」

「壁の絵画の裏ですっ! 」

 白雪のスペクルムの中から元気な返事が返ってきた。すると慌てて頭取は絵画の前に立ち塞がった。

「どうやらウノの言った通りみたいだな。おとなしく時を刻まぬ時計を渡して貰おうか。」

「じ、時間は全て儂の物だ。儂の物を儂がどうしようと勝手であろうっ! 」

 するとラフィネスクが溜め息を吐いた。

「はぁ・・・爺さん、私も若返りの魔法を作ろうとラプンツェル母子を軟禁してたから偉そうな事は言えないけど、私が欲しかったのは、何度切っても翌日には元の長さに伸びる髪だけ。人様の時間を自分の為に使うってのはいけないね。」

「確かに偉そうな事は言えんのぉ。」

「リリス。その魔法を欲しがったあんたも同罪だよね? 」

 突っ込んだつもりが、突っ込み返されてリリスはスゴスゴと下がった。

「だから言っておろう。人様の時間ではなく儂の時間だと。そもそも誰が爺さ… 」

 頭取は鏡を覗き込んで絶句した。

「だ、誰だ!? 」

「誰って… 貴様だろ。」

「嘘だ嘘だ嘘だっ! 儂がこんな醜い老人の訳がない… 」

 分かってはいても信じられない。信じたくない。そんな様子がありありと出ていた。

「かくなる上は、貴様らの時間を奪って時を繋ぎ、再び世界中の時間を集めてやるっ! 」

「桃、隠し金庫の金庫の開け方は分かるな? 」

「はいっ! 」

 勇斗は桃の返事を確認すると頭取を切り捨ててエクリプスを鞘に収めた。

「ぐっ・・・どんな奴かと思えば… まだガキではないか… こんな奴に… この… この儂が… 」

 時間銀行頭取は崩れるように倒れると煙りのように消えていった。唸りをあげて建物が揺れ始めた。

「迷宮の塔といい、時間銀行といい、まるでお約束じゃな。」

「悠長な事、言ってる場合かっ! コッペリア、建物の中はお前が一番詳しい筈だ。皆を連れて逃げろ。白雪、俺にスペクルムを。」

「嫌よ。宝鏡スペクルムは私のなんだから、付き合うわ。」

 更に揺れが激しくなる。

「月見里… じゃなかった、勇斗の言うとおりだよ。姫ちゃ… 白雪、逃げようよ。」

 真魚が説得しようとしても白雪は首を縦には振らなかった。

「仕方ないな。時間が無い。コッペリア、皆を頼むっ! 」

「… はい、マスター。外で… 外でお待ちしております。」

 何かを言いたげなコッペリアだったが、今は勇斗から託された皆を守る事にした。

「桃、明け方は? 」

「ダイヤルキーを右に三回、左に七回、右に五回。それから左のレバーです。右のレバーはフェイクで鍵がロックされるので気をつけてください。」

「ちょっと待って。」

 ダイヤルを回そうとした勇斗を白雪が止めた。

「どうした? 」

「桃が見たのって鏡なんだから左右逆じゃないの? 」

 すると勇斗は首を横に振った。

「桃が見たのは鏡に映った物じゃなくて、鏡の中から見た物だ。ガラスと一緒で映った物は左右逆でも内側から見た物は左右そのままの筈さ。」

 そう言って勇斗が鍵を回しレバーを捻ると隠し金庫の扉が開いた。

「さすが。」

「感心してる場合じゃない。走るぞ。」

 轟音と共に崩壊を始める時間銀行。その材質は入った時と同じ建物とは思えぬ程、老朽化し朽ちていた。外で待つ一同からすれば、まるで既視感を感じる景色だった。そして砂塵の中に勇斗と白雪の姿を見つけるとコッペリアとアリスが走り出し、皆がそれに続いた。

「何で月見里が、あんな人気者な訳? これじゃ、あちきが白雪姫に近づけないッスよ、まったく。」

「そうむくれるでない。あれが、この世界で築いた信頼というものじゃ。」

 珍しくリリスが真魚を諭していた。

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