#28 ウーラー
勇斗とコッペリアが掘っ建て小屋の外へと出るとハーメルンが火を放った。燃え盛る炎の中からフーマーの言った通り木偶が炎を纏って出てくると、ローズが水を浴びせかけた。炭化して脆くなった木偶たちをペロが長靴で踏んで回ると粉々になって土へと化していった。
「片付いたにゃ。」
ここまでは簡単に事が運んだ。掘っ建て小屋の焼け跡の後ろには煉瓦造りの小屋が建っていた。
「どうやら、オークマジシャンじゃない奴が城を使ってるみたいだな。」
藁と木の小屋が無くなって見えてきたのは小屋のように見えていたのは城の前に在ったオークマジシャンたちの小屋の所為で城そのものは、少なくとも外観は大きな変化は無いという事だった。さすがに煉瓦の小屋を燃やすという訳にはいかない。かといって一気に破壊しようとすれば城をも壊しかねない。するとゴゴゴと唸りをあげて煉瓦の小屋が変形して巨大な煉瓦ゴーレムへと変形した。
「みんな、ちょっと待っててにゃ。」
そう言うとペロは突然、走り出した。猫らしく軽快なステップで煉瓦ゴーレムの周りを駆け抜ける。やがて追いきれずに足の縺れた煉瓦ゴーレムは座り込んでしまった。
「今にゃっ! 」
ペロが足でドンと踏み込むと煉瓦ゴーレムの周囲が沈みだし、地割れが起きた。
「必殺、落としあにゃっ! 」
ペロは宝靴ラテールの能力で、まんまと煉瓦ゴーレムの足元を崩してみせた。かろうじて穴の淵に煉瓦ゴーレムの指が掛かり、その腕をウーラーがよじ登っていた。そして、もう少しで登りきろうとした瞬間、ウーラーの目の前でペロは手を打った。不意を突かれて一瞬、ウーラーの動きが止まった。
「にゃは。猫騙しからの猫パンチにゃっ! 」
ペロが煉瓦ゴーレムの指をちょんと叩くと、煉瓦ゴーレムはそのまま落とし穴に落ちていった。
「おのれ、ちょこまかと。」
ウーラーは、どうにか煉瓦ゴーレムが落ちる前に外へと降りていた。
「おぉ~さすがマジシャン、大脱出なのにゃ。」
「舐めおって。食らえっ! 」
ペロ目掛けて放たれた魔法をメイジーが宝衣クロスで防いだ。
「助かったにゃ。後でお礼するにゃ。」
「そ、それじゃ肉球と尻尾を触らせてください。あとモフモフも♪ 」
何故か珍しくメイジーはテンションが高めだった。
「うっ… い、命の恩人だから… ちょっとだけなら、いいにゃ。」
「ヤタ♥️ 」
俄然、ヤル気を出したメイジーはウーラーとの距離を徐々に詰めると、クロスを被せて縛り上げた。魔力を放てなければオークマジシャンも普通のオークと変わらない。
「何か、意外な一面を見たな。」
ペロにしろ、メイジーにしろ、目立った活躍も無かったので自分から行動した事が勇斗には意外だった。クロスを掛けられてもがいていたが諦めたのかウーラーもおとなしくなった。
「ウーラー。城の中にブーマー、フーマーの他に誰が居る? 」
「兄者たちが城の中に居るのに迂闊な事は言えないな。」
そう簡単に答えるとは思っていなかったが、少々気にもなった。
「素直に答えて、今後悪さをしないなら三匹とも今回は見逃してやってもいいんだけどな? 」
「信じられるもんか。どうせ、あの魔女の所には辿り着けやしないっ! 」
言ってからウーラーはしまったという顔をした。
「なるほどな。城の中に居るのは魔女か。迂闊な事は言えないって事は、何か弱みでも握られてんだろ? こっちには七宝も魔女も妖女も居る。王族だって居る。話してみな。」
王族と言われてリリスが胸を張ったが、歩みでたのはジークだった。
「君たちは我ら兄弟を白鳥に変えたが殺しはしなかった。何か事情があるんじゃないのか? 」
ジークの問に沈黙していたウーラーだが、そんな様子を見ていたラフィネスクが白雪に声を掛けた。
「すまないが、此奴をスペクルムに映してくれるか? 」
白雪は言われるままにウーラーにスペクルムを翳すと、そこには人間の青年が映っていた。
「・・・ なんかフツー。」
思わず白雪の口を突いた第一声だった。
「・・・ フツーだにゃぁ。」
宝鏡を覗き込んだペロにも、そう見えたらしい。
「・・・ フツーですねぇ。」
アリスもしみじみと言った。
「ほんに普通じゃのぉ。」
「リリス。お前だけ何かニュアンス違わないか? 」
そんなやり取りにウーラーも痺れを切らした。
「フツーで悪かったな。俺達兄弟は普通の人間だったんだよ。俺達があんたらを白鳥にしたみたいにオークにされちまったんだ。元に戻りたかったら言うことを聞けって言われて魔法を仕込まれて、この城を襲った。それ以上の事は何も知らねぇよ。」
「よく話した。礼だ。」
そう言ってラフィネスクは指をパチンと鳴らすと普通の手鏡を渡した。
「うぉぉぉっ!? も、元に戻ってる? あの魔女、魔法を掛けた本人にしか解けないって言ってたのに。」
「普通はな。」
ラフィネスクはクスリと笑った。
「それじゃ。ラフィネスクは普通ではないからの。」
「うんうん、普通じゃないない。」
リリスの言葉にハーメルンも悪乗りした。
「何か刺がないか? 塔の魔法使いをバカにすると後で恐い思いをするぞ? それもフツーじゃない恐さを。」
「なんか俺、フツーでいい気がしてきた。」
こうしてウーラーも連れて城に乗り込む事にした。元に戻った弟を見せた方がブーマーやフーマーも納得するだろう。




