#27 藁人形の家
「ここが、ジークたちの… 城? 」
勇斗たちの目の前に現れたのは城というより小屋のようだった。
「オークたちにとっては、この方が暮らし易いらしいが… 我々の生まれ育った城が、こうも成ると、やはりショックだな。エリザや弟たちを連れて来なくて正解だったよ。」
かく言うジーク自身、ショックが隠しきれていなかった。城の入り口には藁が積み上げられ、その後ろには木造の掘っ建て小屋が立っていた。
「これでは、どちらが貧乏貴族か、わからぬのぉ。」
「いや、お前だろ。」
揶揄したリリスに勇斗は即答した。
「な、な、ムグッ。」
何故と問おうとしたリリスの口を勇斗が押さえた。入り口に積み上げられた藁がモソモソと動きだし人の形のようになっていった。
「ほぉら、リリスがデカい声出すから気づかれたじゃないか。」
人形の藁は次々と増えていた。
「こいつらに剣は通用しない。一端、退きましょう。」
攻め込まれた時の経験からジークは退却を提案したが、勇斗にはその気は全く無かった。
「ローズ、消火の準備。アリスは水と火の向きをコントロール。ハーメルン、今日こそは出番だ。」
勇斗の言葉に水の宝瓶アクアリウスを構え、アリスも風の宝杖パーセムを構えた。
「コッペリアちゃん、見ててくれ。これが俺様の焔の宝笛パイドの能力だっ! 」
ハーメルンがパイドを吹き鳴らすと、巻き起こった焔が藁人形たちを飲み込んでいった。激しい焔ではあったが、アリスが風向きをコントロールし、ローズが引火を防いでいた。残ったのは藁の灰だけだった。
「掘っ建て小屋まで燃やすと城門まで燃えそうだしな。先に行くぞ。」
勇斗はエクリプスを抜くと掘っ建て小屋へと向かった。相手がオークだと、わかっていればエクリプスで姿を消すのが早いだろう。
「一人で行かせていいのかい? 」
「現在、マスターはエクリプスの能力でオークから視認出来ない状態にあります。我々がついていっては、こちらの位置を知らせる事になりますので指示があるまで待機します。」
ジークの疑問にコッペリアが答えた。
「しかし、この距離では指示が伝わらないのではないか? 」
「私の聴覚及び視覚の感度を上げれば問題ありません。」
ジークはコッペリアの答えに感心した。
「なるほど。七宝を持たぬ者にも役割があるのですね。」
と言いつつジークが振り向いた。
「そこで何故、妾を見るのじゃ!? ジークとて、今回は、まんまとオークマジシャンに白鳥に変えられて妹の手を煩わせただけではないかっ! 」
視線に気づいたリリスは反論した。
「確かに。反論の余地はないな。ならば今日こそは汚名を返上し、名誉を挽回せねばなるまい。」
素直にリリスの言い分を聞くとジークも自嘲した。
「ほう。捲土重来という訳か。ならば妾も… 」
「リリスには返上したい汚名はあっても挽回する名誉は無いでしょ? おとなしくしてなさい。」
やっと、やる気を見せようとしたリリスは白雪に出鼻を挫かれた。といっても、見せようとしただけで、見せる事は無いのだが。
「なら、何故、妾を連れてきた? 」
「そりゃ一人で置いてくると碌な事にならないからでしょ。」
さらりと答えられたが、過去を振り返れば文句も言えなかった。その頃、勇斗はと云えば木造の掘っ建て小屋に居た。
「兄者。だから藁など心許ないと言ったではないか。」
「何を言うかフーマー。軽くて持ち運ぶのも楽。何より、この城攻めには藁人形たちも大活躍だったではないかっ! 」
二匹の会話を勇斗はエクリプスを片手に聞いていた。同じ部屋に居るのに気づく様子はなかった。思っていたより匂いに敏感ではないらしい。
「だが、燃やされては、どうにもならないだろ。」
「それはフーマーの木偶でも変わらんだろうが。」
確かに藁も木も火を着ければ燃えてしまう。
「いやいや、木偶たちは火を放たれれば薪として炎を纏い、炭となり灰になるまで戦える。直ぐに燃え尽きてしまう藁とは訳が違う。」
「なるほど、少しはマシだと云うわけだ。」
「誰だっ! 」
ブーマーとフーマーは辺りを見回すがエクリプスによって隠された勇斗の姿を魔物に見つける事は出来ない。
「質問に答えたら見逃してやってもいいぞ。三人目の兄弟の能力は何だ? お前らの他に誰が居る? この城を襲った目的と兄弟を白鳥にした理由、それにエリザを白鳥にしなかった理由は何だ? 」
「そんな事、答えたら貴様に見逃されても、あの方に消されてしまうわっ! 出でよ木偶っ! 」
木偶を呼び出すと、その隙にブーマーとフーマーは奥へと消えていった。藁人形同様に生物ではないので斬っても痛みもなく怯む事もない。決して強い相手ではないが、剣だけで戦うには面倒な相手でもあった。
「ちっ、逃がしたか。」
「らしくないねぇ。」
ハーメルンの声だった。
「マスター、援護します。小屋の外へ出ましょう。」
いつの間にかコッペリアが来ていた。
「指示したっけ? 」
「お叱りがあれば後程。マスターの声のトーンが通常時と違うと判断し、参りました。」
人間の声のトーンは状況によって変化するという。その差を察知して駆けつけたのだ。




