#26 三匹のcobra
「七宝を!? それは心強い。」
やはり、この世界で七宝とは特別な物のようだった。
「して、その魔法使いとは、どのような輩なのじゃ? 」
「オークマジシャンのブーマー、フーマー、ウーラーという三匹です。」
リリスの問いにエリザが答えた。
「あいつらっ! 」
三匹の名前を聞いてアンナとラフィネスクが同時に声を上げた。
「なんだ、二人とも。知り合いか? 」
「知り合いなんて冗談じゃないっ! 」
勇斗の質問に、やはり同時に返事をした。
「今日は、やけに息ピッタリだな。で、何者なんだ、その三匹は? 」
アンナとラフィネスクは顔を見合せ、一端譲り合ったが結局ラフィネスクが説明を始めた。
「魔物ってくらいだから元々あいつらは魔力を持っているんだ。ただ理が解らないから魔法が使えない。元々こそ泥だった三匹は、自分たちの豚ののような姿にコンプレックスを持っていて人間から動物を人にする魔法を盗もうとした。何しろ自分たちの姿が嫌だからって三匹のコブラを旗印にしていたくらいだ。オークとしては、あの姿は普通だと思うけどね。ともかく、なんとか魔法を盗み出したはいいが、それは動物を人にする魔法じゃなくて人を動物にする魔法だった。それを使ったんだね。」
「そもそも、動物を人じゃなくて魔物を人にする魔法を盗むべきだったんじゃないか? っていうか、魔法って盗めるものなのか? 」
すると今度はアンナが説明を始めた。
「その辺りは抜けているんでしょう。普通、人間は魔力を身につける処から始めますが、あいつらは元々魔力を持っていたので使い方さえ解ればよかったのです。そこで、魔法書を警備の手薄な貧乏貴族の屋敷から盗み出したらしいのですよ。」
そこで皆の視線は自然と一人に注がれる。
「な、なんじゃ。なぜ妾を見るのじゃ!? 」
「リリス、正直に話せば悪いようにはしないぞ? 」
勇斗の刺すような視線に耐えかねてリリスが話し出した。
「あの塔に行くのにだな。安い給金ではろくな兵も集まらず、護身用に魔法を身につけようと思ったのじゃ。古本屋から安い魔法書を買い漁り明日から覚えようという矢先に盗まれたのじゃ。警備に割く予算など兵を雇うだけで精一杯でな。それで、たまたま床に落ちていて残っていたのが召喚魔法の本じゃった。」
「つまり、あいつらが一冊残らず盗んでいれば、俺はこの世界に来る事はなかったって事か。こいつは文句の一つも言ってやりたくなってきたな。ジーク、案内を頼む。」
勇斗は腹立たしかったのかもしれないが、意外と内心、他の皆は感謝していた。あの塔での一連の出来事は勇斗がいなければ、切り抜けられなかったと皆が思っていた。リリスはベヒモスに襲われていたかもしれない。アリスはドリアードの元で樹木の中に居たかもしれない。ローズは延々と水汲みをしていたかもしれない。メイジーはウルフロードに騙されたままだっただろう。白雪は見知らぬ世界に一人ぼっちだったし、アンナは雪の中で売れないマッチの在庫を抱えていたに違いない。ペロの長靴は見つかっていないかもしれないし、ハーメルンはコッペリアと旅をするなどという事はなかっただろう。ラフィネスクだって塔と運命を共にしていたかもしれない。塔で別れた人々も似たようなものだ。そんな経緯は一切知らないジークたちだが、七宝の持ち主たちが揃って力を貸してくれるのであれば、オークマジシャンたちを追い出せる筈だと思っていた。かくして一行はジークやエリザたちが生まれ育った城へと向かった。勇斗たちが11人、ジークたちが12人、計23人の大所帯である。目立つなという方が無理である。遠くに見えてきた城には三匹のコブラの旗が翻っていた。
「分かりやすいな。桃、城の中の様子は分かるか? 」
「はいはぁい。貴方の桃ちゃんです。残念ながら自分たちの見た目にコンプレックスがある所為か、三匹の周りに鏡がないの。でもでもでもでも新情報。あのお城には三匹のオークマジシャン以外も居るよ。」
「お前、一応女王だろ? 」
「まぁまぁ。堅いこと言わないで。もう一人については、分かったらまた連絡するね。」
そう言うと桃は下がっていった。
「い、今のは… ? 」
ジークが不思議そうに勇斗に尋ねた。
「今のは鏡の国の桃の女王。鏡があれば、外側の世界を見てこられるらしいんでね。オークマジシャン以外に何が居るのやら。」
それはジークにも分からなかった。ジークたちが白鳥に変えられた時にはオークマジシャンしか見ていない。そのもう一人がオークマジシャンより強いのか弱いのか。立場が上なのか下なのか。魔物なのか人なのか。存在が知れているだけの未知数というのは必要以上に警戒せざるを得ない。城の近くに小屋を見つけると一端、立ち寄った。
「エリザとお前たちは、ここで待っていてくれ。私は勇斗たちと城に行ってくる。城の内部に詳しい者が必要だろう。」
「では、妾は残るかの。行っても役には立つまい。」
「リリス。役には立たなくても責任はあるだろ? 」
「何故じゃ? 妾は魔法書を盗まれた被害… えぇい、行けばいいのじゃろ、行けば。」
七宝を手に入れるまでは我慢するしかないとリリスは自分に言い聞かせた。