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男女'n Dungeon  作者: 凪沙一人
21/39

#21 人形姫

「勇斗ぉ~怖いよぉ~。」

 残り人数が少なくなって、うっかり白雪は地が出てしまった。

「後が詰まる。早く降りろ。」

「先に降りて支えてくれるとか… 。」

「俺が先だと丸見えだぞ? 」

 勇斗に言われて思わず白雪はスカートを押さえた。

「そ、それはなし。先に降りる。」

 渋々と白雪も降りていった。

「次はコッペリアだな。」

 勇斗の言葉にコッペリアは首を傾げた。

「? 解けないよう… 」

 監視すると言いかけたコッペリアを勇斗は止めた。

「コッペリアが降りてくれないと、ハーメルンが降りないからな。」

 するとコッペリアはハーメルンの方に向き直った。

「マスターの安全確保の為、先に降りてください。」

「コッペリアちゃんが一緒ならね。これは何点減点されても譲れない。」

 ハーメルンの、この答えが予想出来たからこそ、勇斗はコッペリアに次に降りるように言ったのだが、コッペリアにはそんな融通を利かせるつもりはない。だが、ハーメルンも退く気はない。

「俺様にとってはコッペリアだけが姫様なんだ。その姫様を置いてきぼりにする訳にはいかないんだよ。」

「だとさ。分かってやれ… と言っても無理かもしれないけど、降りてくれないか? 」

「姫様… 私にとってのマスターのような存在と認識。」

 コッペリアの答えにハーメルンは頭を掻いた。

「なるほど、そういう事か。俺の想いをコッペリアちゃんに押しつけていたから気づかなかったのか。俺がコッペリアちゃんが降りないと降りないように、コッペリアちゃんは勇斗が降りないと降りない。なら、勇斗が先に降りればよさそうなんだが… そうもいかないんだろ? 」

「じゃ、ハーメルン。そこの魔女を連れ出して貰えないか? コッペリアの命綱になる筈だ。」

「なんだ。気づいていたのか。」

 柱の陰から姿を現したのはラフィネスクだった。

「こんなAIどころかコンピューターも電気も無い世界で感情を持った機械人形を動かす事が出来るものは魔法ぐらいだろ? コッペリアが最後までと言い出した時から、俺の言うとおり先に降りない理由なんて見当がつく。」

「そのAIだのコンピューターだのというのは分からんが、よく周りを見ているな。」

 勇斗とラフィネスクの会話が飲み込めず、ハーメルンは戸惑っていた。

「そりゃ、仲間だからな。」

「だが、我々を… 」

 何かを言いかけたラフィネスクだったが、勇斗の眼を見て止めた。

「ほれ、ハーメルン。コッペリア。降りるぞ。」

 一度、窓際まで行ったコッペリアが勇斗の元に戻って来た。

「マスター。必ず降りてきてください。… 仲間としてのお願いです。」

 勇斗はコッペリアの頭を撫でると、笑顔で頷いた。するとコッペリアは一礼をして窓から降りて行った。すると地響きのような唸りが聞こえ始めた。そこへマルファスがライムとやって来た。

「まったく… 儂の造った塔を… 。まぁ、七宝が持ち出されてしまえば、その役目もおしまいか。すまないが、ライムも逃してやってもらえるかな? 」

「うちの息子もお願い出来ますか? 」

 今度はチシャ姫がヘルゼンと現れた。

「4人とも、早く降りろ。時間が無いぞ。」

「いや、儂は息子の塔と… 」

「私は母親として… 」

「グダグダ言ってないで、とっとと降りろ。俺には孫も子も居ないから、あんたらの気持ちは分からねぇ。でも、この二人にはあんたらが必要だと思うし、泣かせたくなけりゃ一緒に降りろ。剣一本の存在で、いつまでもつか保証出来ねぇぞ。」

 そもそも、この迷宮の塔は遥かなる太古、七人の英雄が魔王を倒した時に用いたとされる七宝を魔物たちが盗みだして隠した、マルファス・クロウが建てた魔王の居城である。長い年月の間に、自由に出入り出来る魔物が住み着いたり、魔物に誘い込まれた者や魔力、妖力を持つ者やリリスのように強引に侵入する者も居たが、七宝在っての塔である。永続的に塔を管理させようとしたコッペリウス博士はコッペリアを創り出したが、コンピューターのプログラムのようにはいかない機械人形は全てを教え込む前にコッペリウス博士が力尽きてしまった。建築物としての寿命はとうに過ぎていた。七宝とコッペリアが不在となった塔は瓦解を始めようとしていた。それをかろうじて食い止めているのが勇斗の宝剣エクリプスの存在である。勇斗が窓から出た瞬間に塔が崩れる恐れもある。だからといってリリスの事を考えるとエクリプスを置いて行くと云う選択は出来なかった。

「おやおや、長居は無用の塔の中。消えるに消えぬ塔の中。」

 頭だけの猫が勇斗の周りを飛び回る。

「チェシャ、スペクルムに戻らないと巻き添えくうぞ。」

「無問題。ここに居るけど居ない。」

「お前みたいな体質なら、脱出も簡単だったろうにな。」

「虚像実像有象無象。鏡は沢山。扉も沢山。鏡の国は一つだけ。」

 チェシャ猫の言葉を聞いた勇斗は突然走り出した。その後ろ姿をチェシャは耳まで裂けたような口から白い歯を見せてニヤリと笑って消えていった。勇斗は、まず鳥を探した。

「水晶持ってついてこいっ! 」

「この水晶はくれてやるよ。この崩れる塔の中で走れぬ鳥は逃げようがない。」

「つべこべ言ってんじゃないっ! 」

 そう言うと勇斗は鳥を水晶に押し込めた。

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