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男女'n Dungeon  作者: 凪沙一人
18/39

#18 塔の上の髪長姫

 勇斗としては、どちらも選ばないつもりだったのだが、二人の女王は、そうは取らなかった。

「でしたら、二人の夫に。」

「勇者様が王になってくださるなら、一夫多妻でも我慢いたします。」

 急に二人は意気投合した。

「マスター、帰還路を検知しました。」

 これは勇斗にとっては渡りに舟だ。

「コッペリア、頼むっ! 」

「メイジー様、我々とクロウさんたちをクロスで包んでください。ペロ様、ラテールの踵を三回鳴らして水晶の外へと念じてください。」

「了解にゃっ! 」

 コッペリアの言うとおり、ペロが踵を三回鳴らして水晶の外へと念じると、一行の姿は瞬く間に消えてしまった。

「逃がしたか。」

「逃げられたわね。」

「忘却の森で勇者の事、忘れてくる。」

「私も付き合うわ。」

 この時ばかりは、赤の女王と白の女王も肩を並べて忘却の森の反対へと向かった。一方の勇斗たちはと云えば無事に水晶からは脱出した。

「どうやら、無事に欠片を取り戻したみたいですね。」

 待っていたのか、鳥が白雪のスペクルムを見てそう言った。

「ジャバウォックを倒した上に、マルファスまで連れて帰って来るなんて凄いじゃないっすか。」

「おぉ、大鳥じゃないか。あのチシャ姫は元気かな? 」

 ペロが首を捻る。

「チェシャ? 」

「いや、チシャ姫は髪の長い姫様でな。この塔に軟禁されておる。厳重な監視と鍵で塔内を彷徨く事は出来ぬのだが、その長い髪を使って塔の外には自由に出入りしているのだ。」

「つまり、そのチシャ姫を助け出せれば外に出られるのか。だが、その姫はどうして逃げ出さずに戻ってくるんだ? 」

「それは子供を人質を取られているからだ。外の夫であるカンパニュラ王子と策を練っているのだが、中々上手くいかない。まぁ、上手くいかないのが分かっているからチシャ姫の出入りを見逃しているのかもしれん。」

「カンパニュラ? あやつめ、子供どころか結婚の知らせさえ寄越しておらぬ。まったく、妾をぞんざいにしおって。」

 どうやらカンパニュラ王子と付くだけあってリリスの知り合いなのだろう。だが、今は塔の外に居るのであれば、ひとまず置いておいても良さそうだ。マルファスの話しからすれば、チシャ姫の前に子供を助けるのが先だろう。勇斗たちはマルファス、ライムに別れを告げて鳥の案内で小さな階段の入り口に着いた。

「鳥が案内出来るのは、ここまで。この小さな通路じゃ、いざって時に飛んで逃げるって訳にはいかないからな。」

「いや、充分だ。礼を言う。」

「それじゃ、ご無事で。」

 鳥が飛び去るとリリスが口を開いた。

「もしかして鳥は最初からチシャ姫の事を知っておったのではないか? 」

「そうだとしても、スペクルムの欠片を取り戻さなきゃならなかったんなら、やる事は変わらないだろ? 寧ろ欠片の情報をくれただけ感謝しとけ。」

 一行の中で一番、七宝に執心なのは皮肉にも七宝を一つも持たないリリスである。勇斗の言葉に頷かざるをえなかった。問題はここからだ。この小さな入り口の先が分からない。チシャ姫を幽閉しているのが魔物であればエクリプスを持つ勇斗が様子を見に行くのが妥当なのだが、その保証はない。防御力でいえばクロスを纏うメイジーが一番だが、人質の事もある。

「ここは俺様、このハーメルン・パイパーの出番のようだな。」

 ハーメルンが宝笛パイドを吹き鳴らすと、一匹の鼠の魔物が走ってきた。反射的に飛び掛かろうとしたペロをアンナとアリスが止めた。鼠は勢いよく入り口から階段を駆け登っていった。だが、暫くするとハーメルンが肩を落とした。

「どうした? 見つかったのか? 」

 勇斗の言葉にハーメルンは首を小さく横に振った。

「いや… 普通に鼠取りに掛かったらしい。」

「減点。」

 ハーメルンには失敗した事よりコッペリアの減点の方が響いた。すると今度は白雪のスペクルムが、カタカタと鳴ったかと思うと煙が噴き出した。

「驚き、樅ノ木、漫遊記。目の前に居ないが、ここに居る。」

 噴き出した煙は耳から耳に届きそうな口でニヤニヤと笑う猫の頭に変わった。平然とした勇斗たちの様子を見て猫の頭は不満そうな顔になった。

「おい、こら。驚け戦け。轟けチェシャの名、もののけチェシャ。」

「それは前にも聞いた。相変わらずの言語明瞭意味不明だな。なんでもいいから、上の様子、見てこい。」

「命令するなら、転けまくれっ! 」

「チェシャ? 」

「ふぇ~ぃ。」

 騒いでいたチェシャ猫も宝鏡スペクルムを持つ白雪の言葉に素直に従って入り口へと姿を消した。

「白雪、それで女王まで出てくるとか、ないだろうな? 」

「それはないじゃろ。チェシャは特殊なようじゃからな。」

 白雪の代わりに返事をしたのはリリスだった。暫くするとチェシャは帰って来た。

「子供は壁の子?筍?元気な子。ラプンシリスは水の中、ラプンクルスは塔の外、ラプンツェルは塔の上。」

 それだけ言うとチェシャは面倒臭そうにスペクルムの中に帰っていった。

「勇斗。これ、行かせた意味あった? 」

 自分の宝鏡から出たとはいえ、白雪にはチェシャの言っている意味が分からなかった。

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