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科学コラム  作者: もりを
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死んだらどうなるか?問題・8

この物質世界は、素「粒子」とは名ばかりの波動関数の計算式と、電磁気力・重力・強い力(クォーク同士に働く核力)・弱い力(ベータ崩壊を引き起こす力)という四つの力の相互作用のみでできている・・・というか、これのみで十全に説明がつくようです。

その世界像には、どこにも肝心な「実体」がありません。

これが現実なのでした。

しかしあなたは、「いやいや、あるやんここに、目の前に見えてるやん」と言うでしょう。

それは虚像ですよ、と言ったら怒ります?

ええ、あなたの見ているその像はすべて、あなたがつくり出したまぼろしなのです。

自分が世界だと思っているものは、世界そのものではなく、自分が脳の中に築いた内的世界なのであり、その創作の通りの実相があなたの外界にひらいているという保証はどこにもない・・・という話を、何章か前に狂ったふりをして書きました。

単純な例で言えば、においです。

これもまた、生物の機能による創作なのですよ。

世の中には心地よいにおいと、不愉快なにおいがあります。

鼻は、危険の中に真っ先に突っ込んでいかなければならない前衛なので、生命体の最前線に立たされています。

その鼻が、命に関わる危険な物質を「いいにおいだ、ぽわわ〜ん」と感じたら、ヤバいでしょう。

なので、ある種の生物は(確実なところでは、人類は)進化の過程で、近づいたり、口にしたらよろしくなさそうな化学物質に、嫌悪感を伴うにおいを「感じよう」と発案したのです。

つまり、元々いいにおいなるものが世界に漂っていたわけではなく、任意の化学物質に対していいにおいかいやなにおいかを決めたのは生命体側の恣意なのであって、危険から逃れるための防衛センサーのメカニズムを生理的な形に落とし込むアイデアなのでした(それを利用して、嗅がせる側も共進化したのです)。

世界が元々そうだったわけではなく、生命サイドがいちから「いいにおいといやなにおいのする世界」をつくったわけです、脳の中に。

味覚も同様に、体内に取り込むべきもの、生きるために必要なもの、この瞬間に不足している栄養素を「心地よく感じよう」と、味という概念と舌の機能を結びつけ、「おいしい」の概念を創出したのです。

逆に、毒や、傷み・腐敗が進んだものは「まずく感じよう」と。

これらの例は、完全にこっちサイドの意図的かつ技術的な問題なのであって、こうした感覚は脳の中の創作です。

ついでに言えば、子孫作成行為の快感と、死の耐えがたい苦痛も、必要に迫られての発明です。

性行為が気持ちよければ、どんどんはげもうと考えますし、死が苦しみを伴うのなら、それを回避してがんばって生きようと考えます。

また話がそれていますが、視覚の問題を論じているのでした。

あなたは「世界は見た通りのもの」と自分の目を信じていますが、目が物質そのものを映し出していると言いきれますか?

誰もが(たぶん)外世界として認識しているモデルは、科学界最高の頭脳と最先端技術がとてつもない精度で導き出した世界像と、相容れないものです(このどちらを「モデル」と呼ぶべきなのでしょうか?)。

あなたの目は、スッカスカ構造である「物質と呼ばれるもの」から発される光を網膜に張りめぐらせた視神経で受容し、電気信号にコード化して、脳内の神経系においてしかるべき形で保存します。

その過程で、あなたが理解しやすいように情報を取捨選択し、生命維持と快適な営みのために便利な解釈が行われているのです。

あなたの目の前にあるリンゴは、スッカスカの構造体に電磁気力を張り詰めさせるという、手の込んだからくりの波に過ぎないのに、まだまだわれわれはそれを脳内に明晰に再構築させる手法を知りません。

なのであなたは、データ量の上限がある頭の中で、自分が理解できるように解釈をし直す必要があるのです。

リンゴに光が当たり、いろいろな波長のスペクトルが弾かれたり吸収されたりして残った「赤色とあなたが勝手に割り振った」波長を脳内で赤色と理解し、さらにリンゴの素材感や外構造、重量感などのクオリア(頭の中であなたがつくり上げた概念)と絡み合わせて、結果あなたは「あなたがつくり上げたリンゴ像」を脳に経験させているのでした。

それは「解釈」であり「抽象描写」なのであって、リンゴの実相を「表現」しきったものとは言えません。

あなたが脳内に構築したその描像が、昆虫のものとも、ヘビのものとも、コウモリのものとも違っていることは、直感的にわかるでしょう。

誰も彼もが、まったく違う世界像を自分の中に構築しているのです。

そしてあなたもまた、世界が自分にわかりやすく見えるように、独自の神経インフラを整えたのでした。

世界は空中に化学物質を混在して漂わせていたので、人類はそれを選り分ける嗅覚機能を発達させました。

世界は空気を震わせていたので、その質と発信源を選り分ける聴覚機能を発達させました。

世界は素粒子の集合体を偏在させていたので、それが発する電荷を感知する触覚機能を発達させました。

世界は光を乱反射させていたので、その波長を選り分ける視覚機能を発達させました。

それらの感覚器が受容する「波」情報を総合させ、解釈し、脳内に描像として結び、あなたのオリジナルな内的世界は築かれます。

それは、あなたの自己都合の世界像なのであって、世界の本当の姿・・・世界そのものである、とは言えません。

あなた、あなた、とこの章では買いていますが、あなたの存在も、ぼくの創作でしかありません。

あなたが実際にこの世界に存在するかどうかは、ぼくには知りようがなく、ただぼくは自分の世界像の中にあなたを設定するしかないのでした。

ぼくの感覚器があなたの情報を噛み砕き、独自に解釈するままに。


つづく

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― 新着の感想 ―
[良い点] 普遍性は、エネルギー保存やエントロピー増大よりも上位の前提条件ですね。これらの法則は、どこでも成り立つと思われてます。他の科学法則もさまざまな条件でテストされて、まあ大丈夫そうだと確認して…
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