プロローグ
『一時と三時の方向から敵が接近中です……』
耳につけたインカムから聞こえてくる静かな声。周りにも注意を払いつつ、指示された方向に体を向けると、いた。
迫り来る敵の数は二つ。手に持っているのはスポンジ製の打棒。
「俺が敵を引き付けるから、その間に神崎さんは敵の旗を」
『あんたに言われないでもわかってるわよ!』と二つの声が返ってくる。まだまだ俺の小隊は纏まらない。
その事に内心でため息をつきつつ、右手に収まる打棒の柄を強く握り締めた。今は、ここで敵を引き止めるのが先決だ。
さあ、来い――挑発するように相手を見据える。上手い事相手が突っ込んできてくれた。
(あと少しで、俺達の勝利――)
直後、間抜けな電子音が廊下に鳴り響いた。
まただ。また負けた。
そんな事実に俺はまた嘆息する。
これで一体何度目だ? 何度目の敗北だ?
俺達第五小隊が負け犬小隊と呼ばれるようになって……どれくらい経ったんだ?
どうして勝てない?
勝つ気が無いのか? いいや、あるさ。あるに決まってる。
じゃあ、どうして……。
『まあ、所詮は負け犬小隊だからな』
『やってらんないわ』
『無茶をしても、しょうがないです』
『伊庭の言うとおりだ。こんなもので怪我してもつまらないしな』
他の隊員達の声が聞こえてくる。
皆、負けに慣れてしまっていた。
それがどうしても悔しくて、俺は拳を握って俯いた。
俺には、この状況を変えることは出来ないのか?
自問しても、答えは返って来はしない。