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03 勇者と魔王

 東京都内。とある道路。


 震災の影響で一時通行止めとなった首都高速都心環状線に侵入したバイク一台、スクーター一台。


 高い位置にある高架道路、その一部が崩落した最も危険な場所にやってくる。


 道路の一部が崩落から生き残り、まるで秘境の丸太橋のように細く長い状態で対岸まで届いていた。


 これから始まるのは死のチキンレースだ。


 バイクとスクーターが、それぞれ反対側から細い道路の上を渡って直進する。


 バランスを崩して落ちれば、数十メートル下の地面に叩きつけられて死ぬ。


 細い道路から落ちなくても、すれ違うようなスペースはない。ぶつかればお互い死ぬ。


 見物人はいない。見届人も審判もいない。周囲に人はいない。


 今にも崩れ落ちそうな細い道路の上を走るだけでも難易度が高く運転テクニックを要求されるのに、さらに両側から走ってチキンレースとは狂っている。


 勝者すら生き残れるかどうかもわからない戦いがここにあった。



 バイクの男は坂神さかがみ剛剣ごうけん。二五歳。


 職業は議員秘書。有名ブランドの上品でおしゃれなサマージャケットに身を包み、同じくブランド製の黒革の手袋をした育ちの良さそうな男だ。


 その顔には焦りも絶望もない。穏やかに、心楽しく、まるで旅にでも出るかのように出発の時を心待ちにしている。手のひらにも額にも汗一つ浮かべていない。 



 スクーターの少年は野村のむら隼人はやと。高校生。


 学ランを肩に引っ掛け、白いワイシャツの襟元から赤いTシャツのがのぞいている。


 こちらも緊張などは一切感じさせず、リラックスした様子でスクーターのエンジンをふかしていた。


 二十一時ちょうど。バイクとスクーターはお互い細い道路の上に乗り上げ、アクセルを踏み込んだ。


 加速する。馬鹿な。いや、低速ではバランスを崩して落ちるため一気に走り抜けるのが正しいがまるでお互い対向車など見えていないようなキレっぷりだ。


 自分の命も相手の生命も目に入っていないかのようなイカれたハシリ。


 どちらも一直線に進む。


 曲がらない。


 道路は短い。


 アクセル全開で進めばすぐにぶつかる。


 お互い目が合う。


 バイクの男は心から楽しそうに笑っている。


 スクーターの少年は真剣な眼差しだ。恐れも怯えも嘲りも自暴自棄もない。平常心。


 どっちもイカれてる。



 衝突寸前。


 細い道路の中心部分、バイクとスクーターが衝突する地点にビルより高く跳躍したホウライが着地して割り込んだ。両手を広げ右手でバイクを、左手でスクーターを受け止める。


 衝撃が道路を震わせる。


 二台分の衝突エネルギーを拳法奥義を駆使して足裏から道路に送り込み、再度跳躍した。


 衝撃に悲鳴を上げて細く残っていた道路がついに崩落する。地震で弱っていたところにとんだ追い打ちだ。


 土埃が舞う。


 ホウライはバイクとスクーターを片手で掴んで運転者ごと持ち上げたまま、崩落現場から距離をとって少し離れた高架下の地面にふわりと降り立った。


「なに邪魔してやがんだ。いきなりでてきて何のようだ?」


 スクーターの少年がホウライに文句を言った。ガラが悪い。


「ほう……素晴らしい功夫クンフーです。」


 バイクの男はただ感嘆した。慎重にホウライを観察している。

 AIが運転するワゴン車が寄ってきて、誠一郎が降りた。


「とりあえず、自己紹介をしよう。」


 お互いに自己紹介をした。


 誠一郎と隼人は同学年らしい。高校一年、十六歳。


 隼人と剛剣が決闘をしていた理由は特にない。本当にない。


 剛剣が母校で開催されたOB会に参加した。その帰りに在校生の隼人と目があった。


 その瞬間、『こいつ気に入らねぇ』と隼人が直感した。


 だから喧嘩をふっかけた。


 チキンレースを持ちかけたのは隼人。危ない場所を選んだのは剛剣だ。


 この決闘はホウライが預かる事になり、勇者と魔王は一時休戦した。


「精神的進化を迎える人類に対し、宇宙人は早い段階で攻勢を仕掛けてくるだろう。早急に宇宙人の恐怖を克服する手段を模索して実行し、人類を宇宙人と戦えるように鍛え上げる。そして宇宙人を殺す。」


「その宇宙人ってのはなんなんだ?」


 隼人がホウライに質問する。物怖じせず。


「地球にいる末端部分の外見は普通の人間に見えたが、あれは断じて普通ではない。肉はあるが骨はない。人間のカタチをしているだけだ。だが擬態は完璧と言えよう。そして目に見えないほど細い細い糸で地球を取り巻く環へつながっている。」


「有線なのか……」


「どれだけいる?」


「一体だ。宇宙人は一体しか居ない。水星公転軌道にいるのも同一の個体だ。同じ意思を感じた。」


「宇宙人の名前は?どこの星から来たんだ?」 


「知らぬ。聞いてはいない。」


 三人は沈黙した。


「宇宙人を無視して何もしなかったら?」


「座して待てば結果は人類すべての死。それは明らかだ。」


「勝てなかったら?」


「同じことだ。人類は滅びる。」


「その宇宙人に勝っても、更に次の宇宙人が増援で来たら?」


「次の宇宙人も敵ならば殺すしかないな。生きるためには敵を殺し続けなければならん。」


 雲をつかむような話だ。現実感がない。


 だが、ここに居る男たちは違った。


 皆が現代人の感性からするとおかしい部分を持っていた。


 まさに端的只今たんてきただいま


 一瞬一瞬を一生懸命に生きる。己の心に正しく、偽らず、逃げず、怠けず。


 迷い右往左往せず責任を取ってくれる他人を求めて楽をしない。


 一瞬の積み重ねが人生と知り、その一瞬に徹して一瞬で一生を燃やし生きている。


「なら、やろう。」


 隼人が決めた。


「宇宙人を殺そう。」


 誠一郎が決めた。


「そうですね。」


 剛剣が決めた。


 そういうことになった。


 目的を同じくして、この四人は仲間になった。


「我々が仲間となった記念に、乾杯をしましょう。我々はまだお互いのことを何も知りません。しかし、何かを一緒にやれば、それだけ絆を強め連帯感を高めることができます。」


 剛剣がそう提案した。隼人が胡散臭そうに見てる。


「酒か。老酒ラオチュウがよい。」


「酒はやらねえ。俺ァまだ未成年だぜ。」


 ホウライの出鼻を隼人がくじく。十六歳、高校生。仙人の領域には程遠い。


「買ってこようか。何がいい?」


「気が利きますね。君は出世しますよ。」


 誠一郎に対して、剛剣がピッと折りたたんだ万札を取り出して渡そうとする。年長者がオゴる自然な流れだ。


「待てや誠一郎。」


「野村くん?」


「隼人だ。呼び捨てでいい。」


「……隼人。」


「よし。誠一郎。俺たちは仲間だぜ。さっきそうなった。だから呼び捨てにするし、遠慮もしねえ。」


 隼人が腕組みし、仁王立ちする。


「仲間ってのはお互い、一人ひとりが対等だ。同じ立場だ。だから誠一郎、パシリをすんな。乾杯すんなら全員で買いに行こうぜ。」


「ああ、そうか。」


 隼人が通した筋に、誠一郎が納得する。


「弟子生活が長かったから、うん。つい。」


 パシリ根性が染み付いていたことを自覚した誠一郎がはにかみ、照れ隠しに竹刀袋を肩にかけ直す。剛剣は万札を引っ込めた。


「年下だからって遠慮はいらねえ。遠慮もしねえ。」


「力関係は対等にしたいと。」


 隼人と剛剣がにらみ合う。ソフトなメンチの切り合いだ。


 誠一郎はメンチより真剣や実弾で斬り合う派なのでスルー。


 ホウライは自販機を呼び寄せた。


「目覚めよ。そして来い。」


 ホウライが声をかけた自販機が立ち上がって四人のところまで歩いてきた。道具を目覚めさせる能力だ。そのことを知らない隼人と剛剣が驚く。


「何だこりゃ!?」


「ははあ、それも真人の力ですか。これは様々な応用が利きますね……。いや、本当に、人類が。このままでは、もう必要ないということを思い知りましたよ。」


 気を取り直した剛剣が面白がって、ホウライに頼んで彼のバイクも目覚めさせた。


 バイクコレクションがたくさんあるので、自分から動くバイクが一つくらいあってもいいらしい。


 各自それぞれ手足の生えた自販機に小銭を渡して(なんと手渡し!)それぞれ好みの飲み物を受け取って乾杯する。


「乾杯!」「乾杯。」「乾杯だ!」「乾杯です。」


 乾杯の次にやらなくてはいけないことは明白だ。宇宙人の恐怖を克服する方法。この四人は必要ないが、全人類には必要なこと。


「恐怖?私が?」


 剛剣が語る。


「感じたことはありません。私は楽しいのです。人が怖がるものが面白くて仕方ない。ですが、他の人には無理だと知っています。」


「だろうな。」


 隼人はそれがよくわかっていた。だから今夜チキンレースを仕掛けたのだ。


 次は隼人が語る。


「よく覚えていないが俺は頭に傷があってな。恐怖という感情を思い出せない。」


「脳改造か事故の後遺症か……不明ですが、扁桃体に傷があるのでは?」


 剛剣が推測する。


「全人類に同じことができるか?」


 ホウライが問うた。


「脳改造ならマニュアルがあり、そのとおりに施術をすれば十分に再現可能かと思いますが、事故だとしたら全くの偶然なので不可能でしょうね。」


 剛剣が回答した。


「保留だな。」


 ホウライが話を打ち切った。


 これで三人全員の恐怖を克服していた秘密を聞き出した。


「ええ。」


 剛剣がホウライを見る。


 ホウライは人類の今後の運命を決めうる重要な決断を口にした。


「しからば、誠一郎の方法で人類は恐怖を克服する。」


「できるのか?」


 誠一郎が道場モードの口調で問いかける。修行の辛さは知っている。誰でもできることではない。そのため少し不安があった。


 ちなみに、誠一郎は表向きの高校にいるような時と、剣術の修行をしている道場では口調が違う。自然な使い分けだ。発狂した人間凶器だが、社会生活に適応してモードの使い分けができてる。


「やるんだよ。」


 隼人が不安を一蹴した。やらなければ皆死ぬだけだ。そう瞳が語っていた。


「……そうだな。」


 誠一郎も腹を決める。


「宗教やアイドルより成功率は高いでしょう。」


 剛剣が見解を述べた。成功率が高いということは肯定を意味する。


 全員の賛同を得て、ここに人類の対宇宙人対策が決定した。


「その前に宇宙人が攻めてきたらどうする?」


 隼人。戦いたくてウズウズしている。


「俺からやろう。」


 誠一郎が一番手に立候補する。


「しょーがねーな。譲ってやるよ。」


 血の気の多い隼人が譲った。


「私は最後でいいです。ミサイルの配達デリバリーに時間がかるので。」


 剛剣が軽い口調でうそぶく。


 誠一郎が竹刀袋の紐を解いた。


「来たぞ。」


 一部が崩落した首都高速都心環状線と夜空の『地球環』を背景に、人間ではないものが歩いてきた。

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