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17 世界の終わり

 宇宙人のアホ毛は広がり続け、地球を覆い隠していた。


 太陽光は遮断され夜のように真っ暗。物理的に天井を塞がれているので星の光も届いてこない。


 地上から上を照らしても天井まで届く強い光はそうそうない。


 もしも地上から光が届いたとしても、クラゲの傘を下から覗き込むように触手の束が見えるだけだったろう。

 

 地上から見上げる『天』とはすでに宇宙人のことだった。


 天から降りてくる触手が人類の脳みそを喰らい尽くす。


 山や島のように太い触手が成層圏より高い所から降りてくる。


 地上に突き刺さると、そこからさらに無数の触手を枝分かれさせて人間一人ひとりの耳から入り込み、数秒かからず脳を吸い殺す。


 地下に逃げても、アリクイがアリの巣に細長い舌を突き入れてアリを捕食するように触手が追ってきた。


 無人の荒野にも触手が這い回り、人間を探した。


 人間以外の動物には一切手を触れなかった。


 世界のどこでも同じ光景だった。とても平等に人が死んだ。


 これが、ホウライが予見した宇宙人の恐怖と暴力のカタチだった。



 人間は宇宙人の恐怖に立ち向かえていますか?


 答えは否。

 

 誠一郎の教えた死に起き。


 ホウライは国へ、隼人は超能力学園へ、剛剣は超能力対策庁と西側諸国へトレーニングを指示あるいは提示した。


 しかし、まともにとりあっていたものはごくごく少数に過ぎなかった。


 そもそも、死を見ること帰するが如し(帰宅するがごとく落ち着いて死ぬ)をできる者などそうそういない。

 

 ホウライの所では政府の方針を庶民が表面上は従いつつも裏で知恵を絞って回避するのが賢くクールで世渡り上手という風潮があったため、サラリと無視されて広場ダンスのようには流行しなかった。


 地方政府が監査制度を導入したがランダムに民家に押しかけて監査料をせびったり、イメトレをやっているという監査結果が裏で売買されて新しい利権が発生した程度だ。


 アメリカをはじめ西側ではジョークとして受け取られアイス・バケツ・チャレンジほど流行しなかった。


 動画全盛期の人類には派手さがないイメトレは路傍の石より価値がなかった。


 しかも忙しい現代に毎日イメトレして時間を捨てるような事は民衆ウケしなかった。


 恐怖を克服するなら酒やカヴァ(胡椒科の植物の粉末を水で戻したもの)でも飲んだほうが楽しい分ましと切り捨てられた。


 続けるものもいたが、トレーニングして日数が経つうちに気分が悪くなったり、精神の変調を訴えたり、気が狂いかけるものもいた。


 性格が変わって物に執着がなくなってミニマリスト化したり、喧嘩早く無鉄砲になるものも居た。


 ここにきて無名な心理学者が売名行為のために実例を数件上げてイメトレの危険性を指摘、死を思うことは生に対する執着を失わせ、知能を低下させると避難した。


 それが話題になると有名な大学の心理学者が尻馬に乗って番組に出演したり本を出版してイメトレを否定、脳トレして生きる喜びブームを起こした。


 ちなみに脳トレ生きる喜びブームは西側だけでホウライの国では政府主導なので表面上は徹底されていた。


 上記の悪質なデマを流すものは行方不明になった。


 結果として、失敗である。


 ホウライが見込んだ誠一郎ようにいつでも命を捨てることのできるしびとはほとんど育たなかった。


 理由としては誠一郎は幼少からしびとになるように老練の師匠から訓練されていたというのもあるが、ホウライと隼人は訓練方法を今風にアレンジすることを怠り、失敗した。


 ホウライは昔ながらの修行をしていた影響で、修行内容を今風に変える発想がなかった。


 そもそも修行はつらいものであり脱落者がでるのもホウライの中では常識だった。


 伊達に蓬莱山最後の一人ではない。


 修行についてこれないものは容赦なく捨てているのだ。


 隼人は人生経験が浅すぎた。


 二年前の時点では直感と反射で動いてるロボットに等しい。


 建設的な意見など何も出せなかった。


 剛剣は予見していたがあえてスルーしていた。


 人間は追い詰めてからが本番なので、最初から土壇場で頑張ってもらおうと考えていた。



 ゆえに、人類のメンタルは超能力が覚醒する前と殆ど変わっていなかった。


 超能力によって人類は飢餓と疾病を克服し、環境汚染も激減したが、戦争と平和と貧富の差はそのままだった。



 人は相変わらず嫉妬し誤解し陶酔し憎しみ合って正義を信じてどこまでも残酷になれて武器を売るため戦争はなくならなかったし、支配者層が労働力を買い叩いて意図的に貧乏を作り出し貧富の差は拡大し続けた。経済はコンピューターやAIと同じように超能力を取り込んでさらに成長した。



 人々は勇敢に戦うことはなかった。



 闇に包まれた地球。


 南半球の貧しい地域では街や木々に火を放って明かりを確保し、隣人が触手に脳みそを吸われてる隣で財布をあさり、火事場ドロに精を出して、触手の通り過ぎた家から死体を引きずり出して売り払いさえした。


 北半球の平和な地域では、平和ボケが度を過ぎて世界の終わりに気が付かず引きこもり続けたり、疲れて帰ってきて仕事の準備をして就寝するものも居た。滅亡開始から半日程度の時間までは……。


 空が宇宙人で覆い尽くされ真っ暗になっても仕事はなくならない。


 バイクや超能力で新聞や出前を運ぶものがいた。


 外が暗くなっても自宅のパソコンに向かい続けて納期までに仕事を進めるものがいた。


 役所に提出する書類を書き続けるものがいた。


 毎朝変わらずにパンを焼くものがいた。


 掃除洗濯するものがいた。


 バスと電車は一部止まったが、歩いてでも、超能力で飛んででも仕事にいった。


 空が真っ暗い程度で仕事を止める理由にはならなかった。


 配達した。店を開けた。会社を続けた。


 半日が過ぎてから、人々はようやく異常事態を受け入れ始めた。


 空を覆い尽くす宇宙人に対して反応は様々だ。


 真面目に向き合うと気が狂うのでたいていの人間は宇宙人を無視し、できることをした。それが楽だった。


 泣き叫んで現実逃避してもどこにも逃げられず、やがて諦めた。受け入れずに無視した。


 自殺するものもいたし、集団で天や触手に攻撃するものもいたが、触手に近寄ると喰われるので逃げたほうが良いという情報が出回ると戦う者は激減した。


 要は触手に脳を吸われなければいいので、触手が降ってくると遠くへ避難し、超能力で家を建てて発電し食料を調達して触手が通り過ぎるのを待った。


 逃げることもせず、触手が襲ってくるまで日常を手放さなかったのもいたが、少数派だ。

 

 たいていは逃げ延びた。地球は広い。


 触手が地球を覆い尽くすまで逃げるスペースはまだあった。

 

 人々は逃げることができるうちは悲壮ながらも楽観的で、いつか、いつか触手は去って必ず元の世界が戻るだろうと考えていた。


 明けない夜はないのだ。


 この夜もいつかは明けると根拠なく信じられていた。



 触手が本当に人類の逃げ場がないほど地表も海中も覆い尽くす質量があるとはまだ知られてなかった。




 超能力黄帝に対するクーデターが起きた都市では、地方政府は市民の保護より鎮圧を優先して人間同士殺し合った。


 都市に触手が降ってきたら都市を放棄し、付近の街へ難民として散っていった。そして難民に混じってクーデターも広く拡散した。広く広く根深く全土へ散っていった。


 ホウライが剛剣から極秘裏に入手した高崎家の脳改造マニュアルで隼人と同様の処置をされ、恐怖心を失った兵士たちも一部いたが、クーデター側と鎮圧側でひたすら殺し合った。


 恐怖を感じない脳改造兵士は、宇宙人とは戦わなかった。


 平和な都市では対策会議を開いていたがAランクが不足しているのでSランクに任せるという結論になった。


 どこの国でもSランクなら何とかできると根拠なく決めつけた。


 アメリカEU連合の軍人は戦わなかった。宇宙人との戦いには規定がなく、戦死しても事故死になり遺族年金が出なかったからである。


 ホウライの支配してた所はクーデターの鎮圧や内戦で手一杯だった。


 ドイツでは家に入り込んだ触手の退治について師匠が徒弟に思いっきりぶっ叩けと見本をみせた後、食い殺された。徒弟も同じことをして脳を吸われた。


 ロシアでは触手を見て酔いが足りなかったかとウォッカを飲み、脳を吸われた。


 イタリアでは触手見つけて持ち帰り、斬新なプレイでマンネリを克服しようとして脳を吸われた。


 トルコではパイプと間違えて触手を吸って脳を吸われた。


 フィリピンでは夜な夜な妊婦に舌を突き入れて胎児を吸い殺す吸血鬼伝説があったので、杭とニンニクを片手に立ち向かって脳を吸われた。


 バヌアツでは大ウナギは災厄を運んでくる悪魔だったので山に逃げて脳を吸われた。



 触手と挨拶しようとして喰われるものがいた。


 触手と握手しようとして喰われるものがいた。


 触手を観察しようとして喰われるものがいた。


 触手を撮影しようとして喰われるものがいた。


 触手を撲殺しようとして喰われるものがいた。


 触手を解剖しようとして喰われるものがいた。


 触手を爆破しようとして喰われるものがいた。


 触手を調理しようとして喰われるものがいた。


 触手を煮沸しようとして喰われるものがいた。


 触手を咀嚼しようとして喰われるものがいた。

 

 ネットではホウライが全人類に超能力を与えたことが認知されると、超能力黄帝の公式アカウントに「差別主義者」「ケチケチしないで俺にもSランクくれよ。宇宙人と戦ってあげないよ?いいねしてあげないよ?」「いいねがほしかったらSランクはよ」「ぱぱにAランクをくださいCじゃかわいそうですおしごともやすいのしかありません」「CランクもCランクの子供も最底辺に一生居続けるしかない哀れな生き物だし新しい差別を生み出してるよね」「宇宙最悪の指導者」「世紀の極悪人」「諸悪の根源」「こいつが黒幕」などのよくないねが相次ぎ、サーバーが停止するほどだった。


 インターネット実名制で国家元首に対しよくないねを押したら職を失い買い物ができなくなり家もなくしてしまうものだが、各地でクーデターが起こっている上に引退宣言のため監視する側も次の利権探しに忙しくサーバーの電源を抜いて放置した。

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