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15 地球環

 黒い空中戦艦。


 各地でデモや、さらに短時間のうちにクーデターが発生して支配体制の崩壊を知り、さらに目の前で親衛隊長がサイコダイブの盾にされたのを見てた親衛隊に動揺が広がった。


 結果、親衛隊副隊長がバースト部隊と裏取引をし、超能力黄帝を拘束することに決まった。親衛隊の本当のリーダーは副隊長である。親衛隊の決定権は副隊長にあった。


 斜陽の権力者は早めに売るに限る。機を見るに敏なり。


 ホウライは再びバスター部隊、東ドイツ部隊、さらには自分の親衛隊にとり囲まれてライブカメラで拘束される様子を中継されることになった。


 黒い空中戦艦を踏み折って全員海に叩き落とそうと考えていたところ……取り残されて浮いたアホ毛が目についた。


 サイコダイブ直前に切り離されたナノ繊維より細いアホ毛。


 地球を取り巻いている宇宙人の腕である『地球環』とつながっている、宇宙人の指先の最先端。


 それが太さを増した。


 ナノ繊維からパスタほどの太さになる。


 『地球環』から質量が押し込まれた影響だ。


 ナノ繊維の先端は人間の右腕のように指が五本ある手のひらに変化をした。


 太さが増す。


 パスタからうどんほどの太さへ。


 更に太さが増す。


 うどんからペットボトルほどの太さに。


 さらにさらに太くなる。


 ペットボトルから電柱、電柱から高層ビルほどの太さになり黒い空中戦艦の通路をふさいで膨張する。


 内側から空中戦艦をこじ開けるように膨れ上がる。


 ホウライ以下親衛隊、バスター部隊、東ドイツ部隊は黒い空中戦艦から一目散に逃げ出した。


 輸送機を着陸させていた場所へのタラップへたどり着くが、目の前で輸送機は宇宙人の腕に薙ぎ払われた。


 腕に見えたものは更に細い触手が寄り集まってできた集合体だった。


 数千本の触手がびゅんびゅん伸びて、バスター部隊の耳から脳みそをすすって吸収する。


 脳を抜かれたバスター部隊は耳から血を流して死んだ。


 触手は次の獲物を求めて東ドイツ部隊と親衛隊に襲いかかる。


 この様子はライブカメラで全世界に動画配信された。


 世界中で悲鳴が巻き起こる。


 宇宙人の腕である『地球環』の脅威がここに知れ渡った。


 動画が急速にSNSやつぶやきで拡散し、共有され、いいねが押され、まとめブログに取り上げられ、まとめ転載されて広がり、半日遅れてテレビが動画に修正を加えて放送するころにはすでに大衆に知れ渡っていた。



 軍人たちはAランクの超能力者なので、輸送機を諦めて自力で空を飛んで退避する。


 輸送機の必要性について説明すると、超能力者なら最初から飛んでこいよ。と思うだろうが、装備や予備の弾倉や機材を運ぶ用途のほか超能力者の体力の温存という目的があるため輸送機は現役なので仕方ない。


 手持ちの装備だけで本国から出撃して自力で作戦空域まで飛ぶかテレポートしていって、作戦行動を終わらせて、飛ぶかテレポートで戻ってこい。という戦法もなくはないが、それができるのはSランクと上位Aランクだけだ。


 隼人と剛剣ならベスパと鉄パイプだけで月まで行くが普通はそんな事できないのである。


 輸送機については以上。

 


 黒い空中戦艦が腕の膨張に耐えかね内側から爆発して大西洋に落下した。


 空の上には、地球を覆い尽くすような『地球環』が太陽光を反射して幻想的に白く輝いていた。


 そして、その『地球環』から太い腕が悪夢のように生えていた。


 ビルほどの太さの腕はどんどん膨張していく。際限なく広がっていく。


 宇宙人は今日この場所で、人類を消し去るつもりだ。



「おっ、超能力黄帝じゃーん。」


 眼下の海に小型のボートが出現していた。沈んでいく黒い沈没戦艦を避けて超能力で空中に浮いている。


 ボートの上には完全武装の可憐がいた。


 近海で漁業者の護衛任務をしていた所、黒い空中戦艦の浮上騒ぎがあって野次馬しにやってきたのだ。


 呆れるほどのんきである。


「パパ!ロリ美少女嫁にくださいパパ!双子とか好みです三つ子でも六つ子でもいいです!全員本気で愛します!毎朝毎晩モフモフペロペロカリカリヌチョります!キマシタワー建立します!あたしのここちんで孕ませてみせます!隼人だけ嫁くれるのは不公平でーす!どうぞあたしにもオナシャス!」


 変態淑女日本代表ここにあり。


 隼人にロリ嫁が降嫁こうかしたことをずっと羨ましく思っていたので、超能力黄帝と出会ったらまず嫁をクレメンスしたかったそうだ。


 降嫁とは、身分と格式の高い尊い血筋の家から、身分の低い家庭に嫁を与えることを指す。


 可憐は変態だが美しかった。


 セーラー服の上から戦国甲冑風の籠手と脛当て、腰には太刀と脇差。


 太もものホルスターには拳銃。おっぱいを強調するように胸の下をベルトで止めてスマホ用ホルスターを下げていた。


 腰の後ろにはマガジンポーチとダガーが格納されている。


 そして、肩からベルトで引っさげた超大型ブレード(日本刀でも西洋剣でも青龍刀でもない未来的なでかい刃物)が物騒極まりない。


 帯刀JKとして写真集が売り物になるレベルの外見だが、変態淑女だ。



 ホウライは落ちてきたライブカメラを空中でキャッチすると、可憐が超能力で浮かせているボートの上に降りた。


 ライブカメラを渡して可憐に録画を依頼する。


「我、超能力黄帝ホウライはこの二年間、ある目的があって世界の半分を指揮する立場に就いていた。それはひとえに、今、諸君らの頭上に存在している巨大な環、地球を覆い尽くさんとしている宇宙から来た生命体を諸君らと共に打倒するためである。」


 誠一郎が破れ、二番手になったホウライ。


 隼人と剛剣が月から戻るまでの間、人類を率いて宇宙人との戦いを行わなければならない。


「この宇宙人は諸君ら人類をすべて食いつくさんとする邪悪であり、諸君らはまずなにより自身が生き残るためにこの宇宙人と戦わねばならない。」


 空を指差す。


 宇宙人はすでに南アメリカ大陸とアフリカ大陸を塞ぐほど大きくなっている。


 太陽を隠して暗いので、カメラマンの可憐は超能力で明かりをつけて撮影を続行した。


「見ての通り敵は巨大で、果てしなく大きい。このまま膨らみ続ければ地球を覆いつくし、全てを闇に隠してしまうだろう。」


 実際隠している。もう真っ暗だ。


 あちこちで光があるのは空中でスマホを見ているバスター部隊の生き残りだろう。


「だが恐れることはない。我は今日まで、諸君らに超能力を与え、使い方を磨かせた。どんな巨大な敵でも立ち向かえるしびとの心を持つように指示してきた。」


 さらっと超能力を与えた事を暴露する。


 動画の再生回数が見たこともない数字になって可憐は目眩がした。


 世捨て人マインドの隼人と違ってそのへんの感覚は正常なのだ。変態だけど。


「最後に、我は今日を持って国家元首の地位を辞退する。その後継者は、頭上の宇宙人との戦いで一番の功績を得たものとする。国家、人種、思想、年齢、性別、あらゆる条件はつけない。国家元首として、またSランク最高位超能力黄帝の名前にかけて約束しよう。」


「まじ!?あ、超能力学園生徒会副会長にして上位Aランクの香住可憐が超能力黄帝の約束の証人になります!」



 世界中が沸き立った。 

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