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「え、えぇっと?どちらからの筋肉ですか?」
「ほほう、少年よ、我らが筋肉の由来を聞きたいとなっ!?」
そうかそうかと自身の肉体の一部を指差しながらこれはどのように鍛えただのなんだの話し始める。
流れ落ちた涙を拭い、目の前の塊と向き合う。が、相手のテンションが高すぎるのか会話が噛み合わない。
(おかしいな、今日は満月じゃない筈なのにな。あれ?そもそも此処に月ってあったっけ?)
確かに俺は瓶に集中してその出来具合に興奮して周りが見えなくなっていた事は認める。
でも、でもさ?こんな筋肉の塊が近づいてきて気づかない訳ないじゃん?どうやったって自己主張をしてくるこの塊に気づかない方が無理じゃん?
なのに、どうしてだよ、なんでだよ。
こんなせっまい領域で隠れられる物なんて少し大きいくらいのりんごの木と家の影くらいじゃん?
こんな怖い集団が近づいてきたら絶対分からない筈がないんだ。。。
「あ、あの、その…」
「…であって、ようやく上腕二頭筋が今の形と…ん?どうした?もしかして今の話に感動して言葉を失ってしまったか?さもありなん!ハッハッハッハ!!」
再び会話を試みる為、指差した部分(おそらく上腕二頭筋)の由来が終わりそうな所を見計らい声を掛ける。
いつの間にか筋肉は葉巻が似合いそうなグラサンをどこからともなく出して装着しこちらを見る。
(こえぇぇ…)
これが完全体だと言われたらしっくりくる程似合うグラサン姿の筋肉とその後ろからの無言の圧力を感じながらなんとか続きの言葉を押し出す。
「えっと、その、皆様のその素敵な筋肉はどこで鍛えてどの様に使って私達の所までおいでになられたのかなぁ?と思いまして…」
「おぉ!少年よ!!そうだな!自己紹介がまだだったな!私の名前はサー・マスタング!軍曹と呼んでくれ!!」
話が逸れがちになる筋肉の塊から筋肉というワードを使いなんとか聞き出そうすると無駄に熱いポージング付きの自己紹介。
「そして後ろにいるあの者たちだが、今は私の配下となっている者たちだ。私を含め20名になる。」
自身の熱い自己紹介に対して割とあっさりとした筋肉の群れの説明。俺の冷静に続けられた。
と思ったら、
「我らの故郷はマッスルインザシティ!!マッスルによるマッスルのためのマッスルだけの領域っ!!!…」
自己紹介に勝る熱気と圧力で領域の名前が語られ…………。
その後どうしてどうやってここに来たかが説明された。
すごい熱気でウザかったので簡潔に書く。
ここに来たのは<領域の住人一人につき一つの筋トレ用具>があるからだと言う。この条件が揃った領域が出来るとマッスルインザシティの神殿が光るのだそうだ。神殿が光るとその条件が整った領域に距離関係なしにワープ出来るようになる。
住人1人につき一つの筋トレ用具=マッスルという法則に基づき(謎)マッスルの交流をはかるため使節団が作られ派遣される。それが目の前の筋肉の塊達との事だった。
「着いた瞬間に姿が見えたのでお声をお掛けしようと思ったのだが、なにやら大事な話をしているようだったからな。盗み聞きするつもりはなかったのだが聞こえてしまったのだ。許されよ!はっはっはっは!!」
「あぁ、いえ、大丈夫です。」
「ところで、ここの主人はどちらに?肉がないとはさぞかしお嘆きの事だろう。せっかくのマシンも肉が無ければ…肉が無ければ意味がな…」
そう言うとがっくりと膝をつき両手を置き四つん這いになった。一体何事かと様子を伺うとポタポタと何かが地面を濡らしブツブツと呟いているのがわかった。
「あの、どうかされましたか?」
「…うっうっ…辛すぎる…」
どうやら筋トレが出来ない状況を想像してその辛さに涙しているようだ。
周りを見ると聞こえていたのか、筋肉の群れも声を押し殺して泣いているのが見えた。
(分かりやすいが、ついていけん…)
その様子に引きながら少し距離を置いて落ち着くのを待つ俺。彼らが落ち着いたのは5分程してからだった。