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「さぁ、少年、準備はいいか?」
テカテカと黒光りしたヒゲの濃いパンイチの漢とヒゲの濃い漢女からなる集団が思い思いのポージングを決めて俺に話しかけてくる。
いや、漢女の方は絆創膏くらいの布切れがついた紐を胸に装着して更に見るに耐えない事になっているな。
俺は頭を抱え蹲り、その集団が視界に入らないように背を向ける。しかし、背を向けたはずなのに目の前には再び同じメンツが違うポーズで立っている。
何度背を向けても同じ事が起こり、目を瞑れば『フンッ!!』という声とも音とも言えない掛け声のようなものとと同時にとてつもない熱気と湿気に襲われる。
どうやっても現実逃避が許されない状況に俺は天を仰ぎ…
(なんでだ?どうしてだ?何がどうなってこうなった??)
動揺を隠し切れず涙を流す。
嗚呼、事の発端は一体なんだったか…
そう、あれは…
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ことほぎが忘れていた窓の修復と俺の休憩が終わり、残っていた瓶の課題に手をつける。
どういう訳か不思議な事に瓶の中の粉にエネルギーを感じる事が出来るようになっていて自由自在に動かす事が出来た。
そして色も完璧。
頭の中に思い描いた物を紙に描くよりも簡単で、魔法補正なのか出来上がるのはまさに‘そうそう、目指してたのはこんな感じ’状態の完成品を作る事が出来た。
作業中に黒虎も目を覚ましたので二人で少し興奮気味に完成品を眺める。
ちなみに作ったのは鉄アレイ。
別に題材に困ってた訳じゃない。
たまたま、そう、たまたまである。
その後、調子に乗ってテレビでしか見た事のないバタフライマシンやランニングマシンと続いたのもたまたま偶然である。
「なんでか知らないけどあっという間に出来た!」
そのままテンション高めにことほぎを呼び、完成品を見せつける。
「素晴らしいですー!やっぱり結びの儀が済んでいるとスムーズですね〜!」
興奮しているのかまるで猫のように毛を逆立ててよりボリューミーでモコモコの毛となっている。
いや、待て。
「おい、やっぱりって何だ?」
「やだなー、決まっているじゃないです…うげぇぁっ!?」
まるで俺が無駄な努力をしていた事を匂わせる言い様に思わず手を首下に突っ込みネックブリーカーをかましてしまった。
「ち、違うんですよー!?決して…決して悪気があった訳ではー…っ!!」
「ほほう?悪気ではなく他の何かがあったと?」
「がうがう」
目を細めてことほぎをさらに追求していると黒虎が俺を宥めるように足元をちょいちょいしてきた。
ネックブリーカーの手はそのままに黒虎を見ると、黒虎はことほぎを見やり俺を見やり、そして首を振った。
その様子に何を言いたいのかよくわからなかったが、とりあえず手を離した方が良さげな雰囲気に手を離す。
「うぅ…、黒虎、ありがとうございますー。もう少しで天国の…」
「ガウッ!」
三文芝居なことほぎの様子に一喝するような黒虎のツッコミ。そのツッコミにことほぎは一瞬ビクッとしながら話し出す。
「先に結びの儀をしなかったのには二つ理由がございますー。」
曰く、
一つ目
まだ領域の事も目指す先もまだ明確でない状態だった事。何が出来るかも分からないまま急いで決めていい物ではない為、修行を先に何が出来るかを実感させたかった。
二つ目
イレギュラーな状態(肉がない事)
結びの儀の際に生じるエネルギーに耐えれるか不安があった為、少しでもエネルギーの扱いに慣れさせたかった。
「なるほど、それなら仕方がないな」
「がうが……」
「「「話は聞かせてもらった」」」
「なっ!?」
「がうっ!?」
「ひぇ!?」
俺と黒虎とことほぎは三者三様に驚きながら突然聞こえた声の方を向く。
そこにはもう見るだけで暑苦しい筋肉の塊があった。
「「「…」」」
その塊を前にただ黙り込む俺達。
すげぇな、ことほぎですらなんの反応も示せてないぞ。
ん?少し俺の後ろに隠れてないか?
あれ?心なしか黒虎も後ろに…?
ガシッ!
「っ!?」
「肉がないなら作ればいい!」
自然ろ俺が先頭になっている体制に気を取られている内に塊の一部が俺の肩を勢いよく掴み話しかけてくる。
残された塊は全て腕を組み後ろで頷きまくっている。
「へ?あ、作るって??」
未だ事態を把握しきれない俺達をよそに塊はさらに続ける。
「作れないなら創造ればいい!」
「「「YAEHHH!!!」」」
そして後ろの塊とともにマッスルポーズを決め叫ぶ。
そして冒頭の場面となったのだ。