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24-黒虎side

「此処は…?」


気が付けば暗い空間にいた。

領域外によくある黒界(こっかい)とは違う。暗く重いまるで纏わりついてくるかのようなこの空気…。


「なにやら気味が悪いな。」


呟きつつ周囲に注意を払いなにが起きてもいいように体勢を整え周囲を警戒する。私の眼をもってしても足元は見えないが、この足場は丸いものや尖ったものなど大小様々な物でできている様でとても不安定だ。足への比重を変化させる度にジャリッともゴリッとも言える音がする。


「確か主人様の作り出した光景について話をして…」


それから主人様が隣界(りんかい)から来たという話を聞いた途端、目の前が赤く染まって…


「駄目だ、思い出せない。なぜ私は此処にいるのだ?主人様やことほぎ様は何処へ?」


まさかこれも主人様の力?

それとも別な領域か?

他者をどこかへ送る技があるとは聞いた事はあるが、力をまだ使いこなせていないのにあの方が意識して行ったとは思えない。

ましてやこんな不気味な…


もしや、忌まわしいとも神々しいとも言われる隣界だが此処がそうだというのか?

いや、その前に…


「血生臭い。」


腐臭すら混ざっているのではと思うほどの濃い血の匂い。

この匂いには覚えがある。


「あっちから出向いて来たというわけか?」


主人様やことほぎ様の事は気になるがまずはこの状況をなんとかしなくては。

いつ奴が再び襲ってくるか分からない。

2度もやられてやるものか。

周囲に気を配る事少しして段々と目が慣れてきたのか周囲に赤い霧の様なものが漂っているのが見えてくる。血生臭いのはこの赤い霧のせいだろうか?


「血霧とは趣味の悪い…」


足元はまだ見えないが慎重に歩き出す。

歩みを進める度にゴリっとした音に混じりバキッと何かが折れる音がする。

この感触になんとなくその正体を察するものの正直考えたくはないな。

歩く私の体に血霧がまとわりつく様にじっとりと体を湿らせる。被毛部分は黒い為分かりにくいがそうじゃない部分はうっすらと赤みを帯び、時折雫となって下へ落ちて行く。

自分の血ではないと分かっているが、生々しく決して気持ちいいとは言えないその感触にじわじわと精神が削られて行く様な感覚になる。

どれくらい歩いただろうか、自分の出す音以外の音を耳が捉えた。


ザァァァァッ


「滝か…?」


こんな場所でこんな大きな音のする場所など罠である可能性しか考えられない。だが、なにも情報を掴めないよりはマシだろう。

今まで以上に慎重に出来るだけ音を出さないように静かに音のする方へと向かう。少し下り坂である為足を取られぬ様に気をつけて進む。その場所へ近づくにつれ血霧は濃くなり匂いも増していく。


(ここまで血の匂いが濃いと流石に辛いな。)


呼吸をする度に血霧が鼻腔を侵し口内まで血の味と匂いで満たされる。何か顔を覆うものがあれば良いのだが、生憎とそれは持っていない。

というか、前回襲われた際にそういった小物類や武器も全てどこかにいってしまった。


(飲み込まれる時に身に付けていたはずなのだがな…)


だが今更そんな事を考えても詮なし。

気を取り直しつつ進むと視界すら阻みそうな程血霧が濃くなった為一度歩みを止める。

その瞬間、今までそのそぶりも見せなかった風が吹き、霧を散らした。風の強さは軽く毛を撫でつける程度だったがあの気味の悪い霧は一気に晴れ、周囲を覆っていた暗闇をも薄らぎさせた。


(これは…ッ!!)


思わず声を出しそうになるのを抑え、目を見開く。

目の前に見えたのは赤い河と滝と周囲を囲う様に聳える骨の山。

河は骨の山の合間を縫う様に流れており、その流れは緩やかなものの、不気味過ぎてとても泳いで渡ろうとは思えない。

見える様になった足元には山と同じ無数の骨があった。

骨については薄々察していたものの、その骨の種族に多様さ、そして物言わぬそれらの眼窩からは皆一様に赤い液体を流しているその光景に背筋が凍りつきそうになる。

恐らくは血の涙であろうそれがこの河を形作っている事は容易に想像できた。


異様な光景に毛は逆立ち、鳥肌が寒気を全身に伝える。

身が竦みそうになるのを必死に堪え、硬くなった体で周囲を警戒する。


(呑まれてはいけない!そうなったら終わりだ!)


必死に自分にそう言い聞かせ、再び歩み始めてさらに滝へと近づく。河もそうだが、滝も相当大きいらしく滝壺のある辺りが見える場所に着くまで結構な距離があった。

ここまで来ると滝のてっぺんがまるで見えない。

滝の大きさに見とれているうちに気持ちも落ち着いてくる。


(よし、行こう!)


声を出し敵意のある者に気付かれると厄介なので心の中で強く自分を励まし、滝壺付近を注意深く観察する。すると滝壺を囲むように骨ではないなにかが蹲っているのが見えた。

少しずつ近づいて行くとその何かは生き物の様で、しかも一体ではなくかなりの数の存在が滝壺を中心に何かに敬意を払うかの様にこうべを垂れている。二つ足の者は片足を地につけ、四つ足の者は前足を折り、翼ある者は脚を体の中へたたんでいた。

流石にワニやイグアナの様な者たちはその様な事はしていないが、どの者達もこうべを垂れて目を閉じ微動だにしない。


(一体何に向かって…?)


訝しみながらさらに観察するとどの者達もある一点に向かってこうべを垂れている事に気付いた。

その方向を注意深く見る。


(あれは…!?)


滝の中に薄く微かに光る何かがあり、その前に何か黒い物体が浮いている。

なんとかもう少し近付いて様子を見たいがこれ以上近付いて音を立ててしまったらどうなるかわからない。


(さて、どうしたものか…?)


悩みながらゆっくりと腰を下ろし思案しようとする。

しかし疲れもあったのか片足がガクンとなり、大きな音を立てて跪く様な格好になってしまう。


(しまった…!!!!)


思わず滝壺の方を見ると全ての者達がこちらを見ているのがわかり、体が痺れる様な刺激が流れる。

同時に強烈なプレッシャーが体へとかかり、浮いていた黒い物体がゆっくりとこちらに向かってくるのが分かった。


(やるしかないか…!?)


足に力込めいつでも跳躍出来るように準備をととのえる。

すると私の体を覆うように光が集まり浮かび上がらせた。


「は?え??」


最初は攻撃かと思ったが光は暖かく嫌な感じはしない。

それどころか安心感のある優しい雰囲気を感じる。

こちらに向かっていた黒い物体はまるでこの光に怯えるように後ろに下がるのがわかった。


(あれは…!?)


そしてさらにその後ろ。

まるで私を包む光に呼応するかにように強い光を放つ存在があった。その中にあったものを確認したと思った瞬間、目の前が光に覆われ、私は主人様とことほぎ様のいる部屋へと戻る事が出来た。

何故か私は地に伏していたが、すぐにあの確認出来た事を伝えようとして


「ガゥガゥッ!」


としか声に出せない現実に戸惑う事になった。

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