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「うーん、やっぱり駄目かぁ。」
「惜しい所まで来ているんですけれどね。」
あれから俺が夢の世界から帰還したのは翌日の昼になる少し手前くらいだった。幸い食事の要らない身体なのですぐに次の瓶に取り掛かった。ゆっくり休んだし力も使いこなせつつあるので楽勝だったら良かったのだが、実際はなかなか上手くいかず、こうやって黒虎と二人で頭を悩ませている。
形を作る所までは上手くいくんだ。でも、何故か色がつかない。
前回上手くいった時の青っぽい至高のベットの上にことほぎが眠っている色付きの完成形を目指してみたりもしたがダメだった。その他色々と形を変えながら何度も試しているのだが粉は粉の色のまま。逆転の発想でシャボン玉のようにきらめく砂漠という題で砂漠を形作って合格を狙ってみたがダメだった。…解せぬ。
それからも数々の粉による砂浜アートが出来上がりそして消えていく。
夕方頃までぶっ通しで作り続けたが一向に色の付く気配は感じられなかった。
「くそっ!!」
砂浜アートから抜け出せないジレンマに思わず毒づいてしまう。
その毒づきに前回と同様眠っていることほぎの毛を編んでいた黒虎がビクッと体を震わせるのが見えた。
「あ、す、すみません。つい…」
そんな風に謝る俺の方を見て黒虎は軽くかぶりを振り、「いいえ、大丈夫です。お気持ちは分かります。」と慰めの言葉を掛けてくれた。そしてそのまま続けて
「主人様、今度は前回上手くいった時の感覚ではなく状況を思い出してみましょう。」
と提案してきた。
「状況ですか?」
そう言いつつ首をひねりながら当時の状況を思い出しながら口に出す。
「確かあの時は物凄く疲れてて…それからことほぎのいびきが聞こえて羨ましいと思って…そのまま眠りたいと思っていたような…?」
「なるほど、他には何かありませんか?」
そう言われてさらに思い出そうとする。
「他に…そう言えばことほぎに電撃をくらっ…」
「それかも知れません!」
俺が言い終えないうちに黒虎が食い気味に言葉を被せて来る。さらには「ことほぎ様、ことほぎ様、主人様に雷撃を…」とことほぎを揺らして起こそうとしている。
「え?いや、ちょっと待って!雷撃はまだ…!まだいいので!!もう一回さっきの状況を思い出しながらやってみるので雷撃はちょっと待ってください!」
・・・・・
・・・
・・
意外と一直線なところがあるのかことほぎを起こそうとする黒虎を宥めるのに結構手間取った。
この時ばかりはことほぎの目覚めの悪さに助けられた。もし目覚めが良かったらと思うと…
「危なかった。」
落ち着きを取り戻した黒虎は少し恥ずかしそうな雰囲気が見える無表情で外を見回りに行くと言って外に出て行った。といっても全く広くないこの領域ですぐに戻って来ないところを見るともしかしたら気まずさもあるのかも知れない。
なんとなくこういう所も猫っぽい気がする。
きっと何事も無かったかのように戻ってきてことほぎの毛を編み出すだろう。
俺はと言うとそのひと騒動でなんか疲れたので瓶を片手に休憩中。瓶の上の方を持ち中身を混ぜるように底側を左右に振り覗き込む。
「一体どういう仕組みなんだろうなぁ?」
人を振りその力に逆らう事なくサラサラと中で動く粉。
そう言えばいつもは目を瞑っているからどんな動きで形作られているのか分からない。
ふと気になって振るのを一旦やめ、目を瞑らずに形が作れるか試してみる。
「おぉ〜…」
さっきまでサラサラと動いていた粉がまるで意思を持ったように動き出す。
イメージしていたのは難易度が低いと思った砂漠なのだが、まずはサーッと整地されたかの様になだらかになり、そこからちょっとした丘だったり風の跡の様な模様だったりと形が整えられていく。
粉が動かなくなった時には綺麗な砂漠が完成していた。
「あとはこれに色がつけば完成なんだけどなぁ。」
一体何が悪いのかと先程と同じ要領で強めに瓶を振り形を崩しまた同じ砂漠を作る。同じものを何度も作っては崩す。
「こうやって何度も崩すのを眺めていると海で作った砂城を思い出すな。」
ベットに横たわり瓶を見ながら当時を思い出す。
あの頃はまだ干潮とか知らなくて作った城が次の日になったら波で崩されてすごいショックを受けたんだっけ。。
「懐かしいなぁ。」
そんな事を言いながら当時の砂城と崩した波を思い出す。
すると目の前で粉が動き出し今思い出したままの風景を再現した。しかも色付きで波が引いては押し返すのを繰り返している。耳を近づけるとさざ波の音まで聞こえる。
「こ、こんな事って…」
驚きのあまり言葉を失い思考が停止する。