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「…もう無理。」
ベットに沈みながら膝を抱えるように横たわっている俺。
あれからかれこれ一週間ほど経っただろうか?
ただひたすらに瞑想をさせられ、俺の中の奥の方にあったエネルギーの扱いをとにかく最低限でも覚えるようにと特訓をさせられていた。
「主人様、そろそろ休憩は終わりです。さぁ、頑張って下さい。」
「え?もう??まだ休みたいんだけど…」
「まだ一瓶も完成していませんよー!」
黒虎の休憩終了の声にまだ休みたいと伝える俺。
そんな俺に目を背けたい現実を突きつけてくることほぎ。
普段あんなにボケボケなくせにこういう時だけはしっかりと乗っかってくる。それでも俺は反抗することはできない。
なにしろあれから一週間も経とうというのに最初に出されたお題が一つも出来ていないのだ。
「そうですよ、主人様にはリミットも有るのですからあんまりゆっくりしていると消滅してしまいますよ?」
「うぅ…」
反抗はしないがベットに潜り抵抗する俺。
消滅は嫌だが今はもう少し休みたい。
「ことほぎ様、アレを…」
そんなベットから出ない俺に業を煮やした黒虎が何事かことほぎに呟く。その瞬間ことほぎが戦闘モードになり…
「あばばばばばばっ!!!!?」
ベットに強烈な電流が流れる。
一体何事かと見てみればことほぎが電気を纏わせた角をベットにくっつけていた。
「おまっ!一体何をっ!?」
ことほぎが角を離し電流が途切れた瞬間ことほぎに突っ込む。
「主人様、まだこちらでお休みになられますか?」
するとそれに重ねるように黒い笑みで黒虎が俺に問いかけてきた。その脇では俺の突っ込みが聞こえていない風の顔をしたことほぎが角に電気を纏わせビリビリと鳴らしている。
一体いつの間にこんな技を覚えたんだ…?
「い、今出ます!」
沈ませていた体を急いでベットの上へと浮かばせる。
幸い修行自体はベットの上でいいのですぐに瞑想の体勢を整える事が出来た。
「さぁ、続きと参りましょうか。始めの頃よりはかなり制御が出来るようになっていますから頑張って下さい。」
「頑張って下さいー!」
ことほぎと黒虎の声援を受けながら瞑想を開始する。
意識が飲まれそうになる度にエネルギーが漏れていると黒虎から指摘が入る。その指摘で漏れているエネルギー抑え込むよう意識をするが、そもそも意識が飲まれないように必死なのでなかなか難しい。
それでも黒虎の言葉の通り始めの頃よりはかなり上達している感はある。
「いい感じです。その調子で瓶を意識して下さい。」
こうやってどちらも上手くいっている間はことほぎからのお題である瓶の中の砂の形と色を完成させなきゃいけない。
エネルギーの塊に接触し意識を保ちつつ漏れないように意識し、なおかつ瓶の中をイメージする。
この三つ同時進行が物凄〜く難しくて…。神経が自分の魂ごと擦り切れているんじゃないのかな?って思えるほど疲れるのだ。
黒虎によると本来であれば主人はこのエネルギーを主人の力として苦もなく扱えるらしい。しかし、俺には『肉』が無いためにエネルギーが漏れやすくなっており、それが難しい状況になっている。その為手探りながらもこの方法で修行を続けるのが良いだろうとの事だった。
また、この他にエネルギーこと力の扱いを覚えるためには近隣の領域にある淀みでその力を発揮する事が手っ取り早いのだが、残念な事にここはかなりの辺境との事でそれも出来ない。
どのくらいの辺境かと言うとあちこちの量を渡り歩いた黒虎でも此処が何処なのか分からないくらいの辺境なのだそうだ。
(あぁ、このまま沈んで眠りたい)
擦り切れる神経に心の底から休みたいと考えてしまう。
いつもならその瞬間エネルギーが漏れたり瓶への意識が疎かになってしまい黒虎からの鋭い指摘が入るのだが、今回はまだ入ってこない。
(これも上達してる証なのかな?)
雑念を抱く余裕が出来た事に安堵する。
すると
「〜〜〜〜…っ!」
「すぴー…んががががっ」
声にならない切迫したような声?が聞こえたような気がした。その後に聞こえたのは間違いなくことほぎの寝息といびきだろう。あいつはこうやって俺が修行している間にも寝てるからな。
(羨ましい…俺も寝たい…)
そうやってベットとことほぎの睡眠へ軽く嫉妬しながら瞑想を続ける。
ここまで雑念を抱いても黒虎からは何の指摘もこない。何となく今日はいけそうな気がすると瓶の完成を意識し目指そうとしたその時、
「そこまでです!今日はここまでにしましょう。」
唐突に黒虎からの終了の合図が入る。
不思議に思いながら目を開けるとそこにはベットで眠ることほぎによく似た姿が瓶の中に完成していた。