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「私はあのケモノ(災獣)のようなものに喰われ吸収されたはずでした。なぜこの場にこうしていられるのかは私にも分かりません。」


不思議そうに話す黒虎。

喰われたと言うのに意外とケロっと話している。俺とは大違いだ。きっと肝っ玉が据わってるとはこう言う感じなんだろうな。

そう思っていると今度は目を瞑って話し出した。


「私は普段、流れ者として基本的に一人で領域を転々とし、世話になる領域の‘淀み’を浄化する事を生業としています。最近は特にたちの悪い淀みの発生が多く、浄化作業に時間がかかる頻度も高くなりました。私が喰われたあの日もそう言ったタチの悪い淀みの浄化中だったんです。」


目を瞑って思い出すように話す姿はどこか悔しそうで悲しそうな顔をしている。


「その日はたまたま私ともう一人従者として契約したばかりの獣人(けものびと)と共に浄化のための術式を展開していました。すると血生臭い匂いが辺りを覆い始め、多数の呻き声と動物の鳴き声が木霊し…気付くと私はアレに飲まれ力を吸収されて意識を失いました。獣人は…わかりません。あとは主人様に救い出してもらったという訳です。」


そう締めくくり深呼吸して目を開ける。

少し目が赤いのはきっと気のせいじゃない。

獣人というのが何か分からないがきっと大事な存在だったのだろう。

なんて声を掛けようか悩んでいると、ことほぎが大きなあくびをしながらこちらに歩いてきた。


「主人さまー、砂は完成しましたかー?」


空気を読んでるのか読んでいないのか緊張感に欠けるその仕草に少しだけ空気が軽くなった気がした。


「おまっ!?…はぁ、砂はまだだよ。それよりことほぎ、この人は…」

「ことほぎ様、長髪の黒虎と申します。この度は主人様と共にお救い下さいましてありがとうございます。」


俺がことほぎに説明しようとすると黒虎は椅子から立ち上がり、頭を下げて挨拶をする。


「救った……??」


ことほぎは事態がうまく飲み込めていないのか、予想外の第三者がいる事にすっかり固まってしまっている。

まぁ、寝てたしな。

俺はそんなことほぎにさっき聞いた話を簡単に伝え、りんごをあげたら仔猫が黒虎に成長(?)した事を説明した。


「ほぇー、もしかすると黒虎は自然発生派なのですかー?」

「よくお分かりになりますね。その通りです。」

「自然発生派?」


黒虎とことほぎはさも当然と言うように話しているが、俺はさっぱり意味がわからない。

自然発生派?自然発生ってあのアリストテレスとかそういう感じの??

いやぁ、無い無い。

…無いよな?


「主人様は意外に感じますか?出会う方々にもよく意外だと言われるのですよ。確かに自分でも自然発生の割には良く出来ているなと思います。」

「え?待って、よく出来ている?自然発生?あの自然発生??」

「主人さまー、この世界には自然発生で生まれた者と領域の住人から産まれた者がいますー。自然発生派は本能的な者が多いのですが、その分戦闘力・生存力が高く自己防衛本能に長けている者が多いのですー。」


黒虎の反応に俺の理解が追いついていないのを察したことほぎが説明してくれる。


マジかよ。有りかよ。

アリストテレスすげぇ。


俺が驚いていると更に補足するように『その割には黒虎は理性的なんですよねー』と感心するように頷きながら黒虎を眺める。

そして頭の上に電球の出現させ光らせたと思うとそのまま目をキラキラさせて黒虎に話しかけ、


「主人さまは今、お勉強しないといけないのに黒虎が飲まれたアレに肉を奪われているので急いで奪還しなくてはいけないんですー。良かったら手を貸してくれませんかー?」


と勧誘しだした。

唐突なことほぎの勧誘とカミングアウトに『肉を!?』とかなり驚いたように目を開いたが、すぐに納得したような顔になり二つ返事で了承してくれた。


「えっ!?そんなあっさりいいんですか??」


俺としてはしっかり者っぽい黒虎が手伝ってくれると言うのは非常に心強い。よくわからない世界にうっかり羊のことほぎと二人だけだと本当に不安しかなかったから。。。

でも、いくら()()と因縁が出来たと言ってもずっとあちこちを旅していたのに俺たちの事情に巻き込んでいいんだろうか?


「もちろんですよ。獣人も気になりますし。それに主人様は無意識だったみたいですが、私がここまで戻れたのは主人様のエネルギーを分けてくれたからなんですよ?恩を返させて下さい。」


全然気付いてなかった。一体いつそんな事を??

俺が首を捻りながらそのタイミングを思い出そうとすると、黒虎が答えを誘導するように話かけてくる。


「主人様、りんごの木は全ての領域でシンボルツリーとしてしか存在しません。りんごの木を見れば領域が分かるといっても過言では無いほど主人と領域と密接的な関係性があります。」

「あ!もしかしてあのりんご!??」

「そうです。あのりんごを手ずから私に与えてくれた事と主人様が瞑想されていた際に漏れ出ていたエネルギーで一種の儀式のような形になったみたいです。」


つい大きな声で叫んでしまったが、黒虎は嫌な顔はせずそのまま説明してくれた。

やっぱりあのりんごかぁ。瞑想は多分あのエネルギーを意識してた時だと思うけれど漏れ出るとか…ちょっと意味わからないな。


俺がまたそうやって思い返していると、ことほぎがどうして肉が無くなったかを説明していた。自分に都合の悪い所はうまく誤魔化して『最長でも2ヶ月以内なんですー』と悲壮感溢れる表情で訴えていた。

それを聞いていた黒虎はとても真剣な面持ちで頷き、


「任せてください。少しハードになりますが、肉を取り返す位までならなんとかなると思います。」


そう言って眼光鋭く俺を見つめ、『よろしいですか?まず主人の力とは…』と早速訓練が始められた。

明けましておめでとうとございます。

今年もよろしくお願い申し上げます。

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