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「主人様、こんにちは、お加減はいかがですか?」


目の前に立つ笑顔の人外に恐怖が湧く。

それでも恐怖に飲み込まれずなんとか踏み止まれたのは、相手が女性である事と感謝、親愛の情を感じた事、そして何より見覚えのある特徴を備えていたからだろう。


「主人様?」


なんとか踏みとどまったものの固まったまま返事を返せない俺に少し不安げに顔を傾けるようにして言葉を掛けてくる。

その人外は以前あった事のある猫又のように服は着ておらず、所々被毛に覆われていてそういうデザインの服を着ていると言われたら納得できる感じだ。

可愛いか綺麗かと聞かれたら綺麗系。

女性としては比較的長身な部類に入るであろうその体は細身で少し日焼けしたような肌色だ。髪は長くボリュームのあるロングヘアで黒髪なのに黒のメッシュが入っているのが不思議と分かる。そして頭部に黒髪からはみ出るように見える耳、猫のような金に黒い瞳の目。


「もしかして、さっきの仔猫??」


質問された事も忘れ質問に質問で返す。

すると人外の顔がパァッと輝くように笑顔となる。


どうしよう、素敵!


「はい、そうです。先程はお救いくださいましてありがとうございます。」

「お、おう?」

「私、流れ者で『名』は持ち合わせてはおりませんが、長髪の黒虎(ながかみのこくこ)と呼ばれております。このご恩は魂が消えても忘れません。」


先程の恐怖は何処へやら。

黒虎と名乗る目の前の女性の眩しさにドギマギしてしまう。


(こんなステキな女性との初対面がアニマル柄のパジャマ姿だなんて…)


「え、えーっと、救った?流れ者?よくわからないけど黒虎さんは敵じゃない…んですよね?」


自分の姿の残念さを理解する事は出来るが、なんだか良く事情が飲み込めない。

仔猫が猫になって猫がケモミミになるとか、一気に変化しすじゃない?まだまだ若いつもりだけど、おじさんついていけないよ?


「黒虎でよろしいですよ。もちろんです。災獣ならいざ知らず、流れ者でも礼儀は心得ているつもりです。お疑いでしたらどうぞ心ゆくまでご検分下さい。」

「え!?いや、いいよ、大丈夫!」


『ご検分』の言葉に何故か動揺が隠せない。

きっと心臓があったらDTかと疑われそうなくらい激しく脈打っていたことだろう。

今だけは脈がなくて良かったと思う。


「そうですか?気になったらいつでもして下さいね。」


ダメだ。

妄想が止まらない。

俺は今2度目の思春期でも迎えているのだろうか?

未完成の体と言えば未完成だしあり得なくもないか?


「ところで主人様、この領域は生まれたばかりのようにお見受けしますが、ファミリアはことほぎ様だけですか?」

「ファミリア?」


明らかに怪しい挙動の俺を不思議な物を見るような目で見ながら聞きなれない言葉を口にする。


「ファミリアとは主人が自らの領域に住む者に名を与え家族となった者達の事です。この姿に戻れる前に聞こえてた声はお二人だけのように聞こえたのでそうなのかなと思いまして。」

「なるほど、それでしたら確かにことほぎだけですね。というか、この領域にはことほぎと俺しかいないです。」


出来るだけ冷静になれるよう意識しながら質問に答える。

すると黒虎は少し神妙な顔をしてりんごの木を見上げる。

風に吹かれてなびく髪が鬣にようで気高さと美しさを引き出しているように見える。

その姿に思わず見とれそうになったが、聞いとかなければならない事を思い出し声をかける。


「黒虎さん、あの、救って貰ったと言ってましたよね?それってどういう事ですか?流れ者とか仔猫だった事とか、あの化け物から出てきたっていうのが凄く気になるんですが?」

「黒虎でいいんですよ?正式な名ではないのでよほどのことが無い限り呼び捨てがちょうどいいんです。ご質問の件は少し長くなりますので、中でご説明させて頂いてもいいですか?」


再度黒虎と呼んで欲しいと言い中に家に入る事を提案してくる黒虎。神妙な顔も気になるし、またいつともアイツが来るとも知れないので俺としては異論はない。

早速家の中に入りダイニングルームにある椅子に腰をかける。

なんとなく慣れた様子で家の中を歩く黒虎の姿はまるで野良猫が他人の家に堂々と出入る様子を思い起こさせる。


(姿だけじゃなきゃ意外と習性も猫っぽいのかな。名前に虎ってついてるけど。)


一応寝ていることほぎを起こそうとしたが、吹き出しに( ˘ω˘)スヤァ…という顔文字を出して起こすなアピールしてきたので起こすのは諦めた。

黒虎はそれを見て「器用なものですね」と呆れながら感心していた。


「すみません、本当はお茶でもお出し出来れば良いのですけれどまだ何もなくて…」


ことほぎを起こすのを諦め席に着きながらそう詫び、先程の話を促す。


「いえ、気にしないで下さい。猫舌なのであまりお茶は得意では無いので。」


(あ、やっぱり猫舌なんだ)


猫的特徴に勝手な親近感を持ちつつ黒虎の話を聞く。


「実は…」


そう言って話がはじまった。



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