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「では、これから主人の力教室を始めますー。」
アイツも居なくなり、しばらくは安全そうなので早速訓練をする為の説明が暖炉の前で始まった。
俺が仔猫の入ったバスケットを腹に抱き、ことほぎの話を聞く。
「主人の力は『想像できるは創造できる』です。先程お使いになった探るという力は主人の持つ直感的な物でこれは想像と言うよりは慣れになります。慣れれば触れなくても領域内はもちろん領域付近でも異変を感じる事が出来るようになりますー。」
「ほほー!なんだかゲームみたいだな!」
「その通りですー。詳しい事は割愛ですが、地球にあるゲームに対し宮司さんはその様子を『まるでかつての自分達懐かしんでいるような創造ですね』と言っていましたー。」
「昔を懐かしむ創造…ねぇ」
きっと地球の経緯の時に聞いた時の事だな。
「まぁ、それはそれとしてー。取り急ぎ主人さまは肉体を取り戻すのを最優先としてその力を高めて頂きますー。大丈夫、ゲーム好きの主人さまならあっという間ですー。」
ことほぎがそう言うと毛の中から飛び出すように粉の入った瓶が5本出てきた。
「まずはこれを手に持って中の粉を好きな形にして下さいー。蓋は開けちゃダメですよー?形が出来たら色をつけて下さいー。全部出来たら教えて下さいませー。」
「これ全部?」
「はい、そうですー。全ての瓶の中身がちゃんとした形を保ち、色もしっかりついていればOKですー。余裕があったら動かしてみてもいいですよー。」
瓶がふよふよと俺の方へ向かってくる。
瓶の大きさは500mlペットボトルくらい。
材質はガラスっぽくてコルク栓でしっかりと栓がされている。中に入っている粉は片栗粉のように細やかで振るとサラサラと動く。色は透明で、時折シャボン玉のように色が動く。
「これを?これで?固めるの?このまま?」
「『俺は出来る!』の精神で頑張って下さいー。では、おやすみなさいー。」
「お、おい!」
「zzz」
腹の中の仔猫もいつのまにか寝ていて、起きているのは俺一人。少し寂しい。
「意識を集中って言ってもなぁ…」
猫の時の様にしてみたが、エネルギー的な物がさっぱり分からない。せめて何かコレが粉だ!みたいな標があればいいんだがなぁ。
ブツブツと独り言を言いながら瓶を振ったり転がしてみたりしたがいい案が一向に浮かばない。
瓶握り目を瞑る。
粉が段々と形作られる様を想像する。
(何を形作る?)
「ニャーニャー」
仔猫の声が聞こえる。目を開けて確認すると、どうやら起こしてしまったようでまた後ろ足で立とうとしている。
何度失敗しようともどういう訳か後ろ足で立とうとする事を諦めない仔猫。
どう考えて普通の仔猫じゃないのだが、微笑ましくてついついにやけてしまう。
「そうだ、せっかくだからお前をイメージしよう。」
脳裏に仔猫をイメージして粉が形作る所をイメージする。
細部は難しいしいので取り敢えずはデフォルメな仔猫で行こう。
なんとなく脳内で形作れた所で目を開ける。
「駄目か」
全く変化なかった。
やっぱり粉にもエネルギーが欲しいなぁ。
「ニャーニャー…」
心なしか仔猫の声に元気が無くなって来た様な気がして、もう一度探るように仔猫のエネルギーにアクセスする。
「やばい、仔猫のご飯なんてないぞ!」
かなり空腹である事が感じられたので慌ててことほぎに声をかける。
「ことほぎ!ことほぎ!起きて!仔猫がなんか食べられるのない!?」
ムニャムニャと目覚めて瓶を見つめ「やだー、全然出来てないじゃないですやぁー」と再び眠りに入ろうとすることほぎ。
そんなことほぎを引き止め仔猫の餌的なミルクなどないか確認する。
「ここにはリンゴしかないですよー。でも、きっと大丈夫ですー。与えてみてくださいー。」
そしてやっぱりそのまま眠りに入ってしまった。
仕方がないので仔猫を抱えながらりんごの木のところまで行く。幸いベットを浮かせた状態で立てば楽に手が届く位置にあったので一個取ってバスケットの中に入れる。
念の為もう一個とってバスケットに入れようとすると仔猫がりんごに抱きつき齧り付こうとしている姿があった。
「やっぱり普通の猫じゃないんだな」
頑張ってりんごに齧り付こうとするが、歯のない仔猫はりんごの皮に阻まれそれが出来ない。
皮を切ってあげる事が出来ればうまく食べれるかもしれない。
台所に向かいキッチンをあさって包丁を探すが見つからない。というか、調理器具や食器類すらない。
「引っ越ししたてって感じだな。」
そんな感想を呟きながらどうしようかと悩む。握力で握りつぶして与えようともしてみたがりんごがちょっとへこむだけだった。あとは自分で齧ってそれを与えるという手段だが、やろうとしたら嫌そうな仔猫の雰囲気を感じてやめた。
(仔猫だけど意外と知性は高いのかもな)
言葉には出さず心でそう呟き、りんごをどうするか考えた所で閃く。
早速閃きを実践すべくことほぎの側に行きその角にりんごを突き立てる。
「あばばばばば!」
一瞬りんごを通して角から電撃が流れる。
ことほぎは目覚めない。
りんごはちょっと焼きリンゴ風になってしまったが大きく穴が開いた事で割りやすくなった。おれは多分無事。
電気の刺激に思わず「あばば」なんて言ってしまったが。意外とこの体は丈夫なのかもしれない。
焼きリンゴ風のりんごを割って仔猫に与える。
最初はフンフンと嗅いでいたが意を決したように齧るとあとは夢中で齧り付きながら食べてた。