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家の中を見終わりことほぎの側に行く。眠っているのを起こすのは気が引けたが、声をかけるよう言われたので一応声をかける。
ムニャムニャと目を覚ましたことほぎと目があった瞬間、ゾクっとした冷たい気配を感じる。
「っ!?」
気配に気づくのと同時にことほぎの瞳が猫のように縦長になる。
「主人さま、主人さまを食べた奴が領域のそばに来ています。中に入る事はまず出来ないと思いますが、私が様子を見て参りますので家からは出ないようにして下さい。」
「…あいつが!?」
いつもと違う口調も気にならないほど恐怖に飲み込まれそうになる。
「主人さま、気をしっかりお持ち下さい。ここは領域。意志の世界です。意志が恐怖に染まれば恐怖に染まり意志が失われれば領域も失われます。」
「意志の世界…」
俺の呟きにことほぎは頷き玄関から外へ出て行った。
「意志の世界…」
確かめるようにもう一度呟く。
「俺は…」
どうしたいんだ?
何がしたいんだ?
へんてこな説明ばかりで何を一体どうしろと?
分かっているのは…
「死にたくない…」
もう二度と死にたくない。
またいつかあの穏やかな日々を過ごしたい。
その時だ。
バリリリッ!!!
外が一瞬明るくなり大きな音が響く。
その光と音にハッとなり、ことほぎがアイツと戦っている事を察する。
何度も苦渋を舐めさせられたあの間抜けな羊が、自分の主人であるいうだけで…
俺はまだ何もしちゃいないのに…。
恐怖は抜け切らない。
でも、ここで行かなきゃ男が廃る気がする。
「でもやっぱり怖い…」
本当は格好良く出て行きたいが、こちとら残機ゼロな上に装備無しの状態。
せめて装備品だけでも確保してから向かいたい。
そこでまずは暖炉に向かい火かき棒を手にする。
「次は防具…」
バリ!バリリリッ!
再び光と音がした。
早く防具を見つけなくては…!
人は慌てると冷静な判断が出来なくなるというが俺は違うぞ!
それどころか閃いちゃったもんね!
「まずはこのベットに沈み込む。」
ふぁー、気持ちいい…
このまま寝てしまいたいが状況がそれを許さない。
「次はこの状態ではしごを登るように直立を意識する。」
段々と上部が持ち上がり下部が…
「下がらない…?」
バ〜ラ〜マ〜ウント〜♪
脳内で電動ベットの曲が流れる。
いっそこのまま?…駄目だ駄目だ!
このまま向かっても攻撃が届く前に足を持っていかれてしまう。
「直立…直立…」
呪文のように唱えながら懸命に意識する。
「出来た!よし行くぞ!!」
右手に火かき棒を持ちアーマー代わりのベットも装着した。勢い良く玄関から出ようとしたがあることに気づく。
「出れない。」
何という事だ。
縦になった事で高さ的に玄関から出れなくなってしまった。
外ではこの間も光と音が繰り返されている。
「くそっ!」
これ以上は時間はかけられない。
ベットを横に戻し空飛ぶ絨毯スタイルで外に出る。
バリリッ!!
その途端、目の前に光が落ち音がなる。
足元には黒焦げの草とシューッっと音が聞こえそうな煙が発生していた。
慌ててそのまま後退し家に入り直す。
「てっきりことほぎの攻撃かと思ったんだけどな」
もう少し早かったら丸焦げになっていたかもしれない。
「………」
今までのことほぎの所業が脳裏を掠め、その可能性に一気に焦りがきえる。
(様子を見てから外に出てもいいか)
ガラス張りの様なあの温室ならよく見えるだろうとそこへ移動する。幸い戦いはそこから見える場所で行われている様で温室に入る前からことほぎと肉塊の様なアイツがいた。
「あ〜…」
案の定、攻撃をしていたのはことほぎだった。
ことほぎが踊るように身を踊らせ角を光らせて、先程から繰り返しされている光と音を発生させていた。
「雷みたいだなとは思ってはいたけど本当に雷だったんだな」
角が光ったかと思うと上の方から複数の雷が降ってきて草地の上に落ちる。
ランダムで落ちているようで場所は不特定だ。
だが、黒い空間には落ちない。
さっき俺に当たりそうだった雷は間違いなくあれだろう。
「当たらなくてよかった。」
万が一当たっていたらどうなっていた事か…
踊ることほぎと雷をアイツがどう感じているかは分からない。
一応、アイツはまだ黒い空間の中で敷地のある場所には入れていない。
まるで見えない何かに阻まれているかのように、そこに留まっている。
おそらくあそこが領域と黒い空間の境目なのだろう。
「入ってこれないのはいいんだけど…」
この構図、なんだろう。
ことほぎが入ってこれないのアイツに対して煽っているように見える。
「…!」
アイツと目があった。
どの目と合ったのかは分からない。
なんとなくそう直感した。
そしてそれを裏付けるようにアイツの全ての目が月目になり口角を上げる。
(あの時見た顔と一緒だ)
そして大人しかった先ほど迄とは打って変わって、激しく境目の見えない壁に体当たりをしだす。
体当たりをする度にアイツのものと思われる血飛沫が上がり黒い空間に落ちていく。境目のお陰でその血も中には入ってこない。
ことほぎはと言うと、アイツが体当たりをし始めたのに驚いて家の中に戻ろうとし、その時に温室から俺が見ているのに気付いてもう一度アイツに向かって雷を出し始めた。
「私は負けないですよ!ここを守るんです!!」
そう言って雷を出す姿はとても頼もしい。一向に当たる気配はないが…。
このままでは拉致が開かない。そう思った時アイツが境目にぶつかった拍子に少し大きめの何かが領域に転がり、そしてソレは雷で打たれた。
ことほぎの動きが止まる。
驚きで動けなくなったらしい。俺の方を見た後ソレを見つめている。俺も気になるのでソレの様子を見る。
ソレは黒コゲになり動く気配がない。炭化したところがそよ風で崩れていく。
その様をアイツがどう捉えたか分からない。
分からないが炭化したソレを見ている間にアイツは消えていた。