13
宮司に送られた俺はまたあの黒い空間に立っていた。
前回と違い今回は俺はベットに乗っていてことほぎがいる。
ぴょんぴょんと小さく跳ねながら先を進む様はまるでヤギのようだ。
「なぁ、この黒い空間は一体なんなんだ?」
「ここは黒界と呼ばれていますー。領域でもなんでもない場所をまとめてそう呼んでいるんですよー」
なんでもない場所かぁ。黒いから黒界とは単純なんだな。
そんな事を思いながら進む。
領域は普通に歩くと3分とかからなかった。
こんなに近かったのかとちょっとショックを受けながらあの不思議な空間の中へ進む。
「これが領域かぁ…」
入った感じ特に何か変化が起きたわけでは無い。
強いて言うなら時折和風を感じるくらいだろうか。
「主人さま、ようこそ私達の領域へー」
領域の中に入ると羊はこちらを向いて言い、「ようやく…ようやく言えましたー!!」と喜びで体を震わせてた。
…一体誰のせいでそんな事になったと言うのか。俺は怒りと不安で体が震えそうだよ。
領域の中は前見た通り、家と木と井戸そして池があった。あとは草地と家の玄関から伸びる小石で出来た小道が有るくらいで何というか必要最低限という感じだ。
羊によると井戸は今、枯れており、池の水は張ってはいるものの決して綺麗とは言えないので手を触れないほうがよいとの事だった。気になっていた林檎はとても美味しらしく体が元に戻ったらたくさん食べると良いですよと言われた。
…そうだった。この体の間は飲食が不要というか不可らしく。目覚めてから一度も何も口に出来ていない。厳密に言えば、洞窟みたいな部屋にあった池の中身のエーテルとかって奴を口に入れただけだ。
そんな感じでベットに乗ったまま領域の庭のような場所を案内された。ついでにトラウマ克服のため恐る恐る俺が喰われた場所も見てみたが黒い空間には血のシミすらなく綺麗でちょっと拍子抜けした。
その後、外は今のところこれくらいと言って家の中に入る。
玄関は日本式ではなく海外のように靴を脱ぐ場所がない。あえて言うならバリアフリー。
正面には滝のような噴水?があり、左右に扉がある。
ふむ、ここは靴を脱ぐか脱がざるべきか。少し悩んだがそもそも今はベットに乗ったまま移動しているので考える必要はない事に気付く。
ことほぎに玄関で足を拭いてから入るように言うと、「私はいつもちょっとだけ浮いているので足はよごれていませんよー」と言う事でそのまま通路へと移動。
「中は多分自分で見てもらった方が早いと思いますので、まずは自由にご覧になって下さいー。終わったらお声がけくださいー。」
そう言って左側にある部屋へと入っていった。
早速家の中を見て回る。
中の作りは近代的だがどことなくマナ伝説というゲームに出てくる家に似ている。なんとなく全体的暖かい雰囲気を感じるんだよな。
まず、ことほぎの入っていった部屋を見るとダイニングキッチンのあるリビングダイニングだった。
流石にテレビはなかったが代わりのようにロッキングチェアーと暖炉がある。火はついていなかったがその前に丸まるように眠ることほぎがいた。
暖炉に向かって右手の壁には並ぶように扉二つと二階に続く階段がある。まずは扉の方から確認しようと左側の扉を開ける。
「こ、これは…!!!」
そこにあったのはなんとトイレだった。
しかもウォッシュレット!!!
とりあえず水を流してみるときちんと流れる。
「どうなっているんだ?まぁ、嬉しいからいいか。」
段々と考えることを放棄している気がしないでも無いが、気にしたら負けだ。次行こう!
テンションが上がり次の扉を開く。
「な、なんという…!!!」
そこは脱衣所だった。
しかし、問題はそこではない。さらにその奥、磨りガラスの向こうに透けて見えるのは…
ドキドキしながらさらに奥へ…
「露天風呂万歳!しかも掛け…流…し?」
透きガラスの奥、そこには岩をくり抜いたかのような浴槽にカッポーンと言う音とともに流れ落ちる湯があった。
鹿威しだ。
鹿威しに入りきらなかった湯はそのまま滑り台を流れるように浴槽へ入る。果たして鹿威しの必要はあるのだろうか?
浴槽から溢れ出そうな湯はきちんと外へ流れ出る場所があり、地面へと消えて行く仕様のようだった。
これは温泉かな?硫黄の匂いはしないがそう言う温泉もあるし、あとでことほぎに聞いてみよう。
お次は二階。
客室と思われる部屋が二つと書斎っぽい部屋が一つあった。書斎っぽい方の部屋には本棚とアンティークっぽい机と椅子、そして王様っぽい天蓋ベットがあった。多分ここが俺にとってメインの寝室になるんだろう。
すでにベットはある為どうしようかと思ったが、幸い天井が高い為、天蓋ベットon空飛ぶベットにしても違和感なく寝転がる事が出来た。
二階の探検も終わり階段を降りて玄関に向かう。
さっきは左の部屋の入ったが右にも部屋があったのでそっちにも向かう。
「ここは応接室かな?」
低めのテーブルを挟むように長椅子が置かれている。
この部屋の家具もアンティークっぽい。
なんかオシャンティ。
ここには奥に続くガラス壁とガラス扉があり、扉を開けなくても様子を見る事ができる。小さいが温室のようになっていて中心にはティータイムを楽しめるようなテーブルセットがある。
それ以上は何もなかったので暖炉の前にいることほぎの所まで戻る事にした。
序文に黒海に関する話を入れました。