12
宮司に蹴り起こされまだ眠いのかフラフラと起き上がる羊。どういう現象なのか頭の上に吹き出しが出てその中にzzzと書かれている。
(まだ眠いアピールか?)
その吹き出しを掴み握り潰すように消す宮司。
(俺が夢の中なのか?)
漫画チックな展開に思わず自分を疑ってしまう。
なんとか目を覚まし俺と空飛ぶベットに気付いた羊は驚いたように目をパチクリさせて飛び上が…あ、尻尾を宮司に掴まれて地面に引き落とされた。
「ど…どうして…?」
頭を上げ悲しみと驚きの様子を隠す事なく疑問を口にする。その後力尽きたようにガクッとするがもう俺にも通用しないぞ。
「それはこちらのセリフです。貴方、今何をしようとしましたか?以前自分がしでかした事を忘れたんじゃないでしょうね?」
「…!!わ、忘れてないですー!忘れてないですよー!!」
(…絶対忘れてたな)
アレは絶対飛び上がって俺の所に来ようとしてたな。宮司が止めなかったらまた腹に穴が空いてたかもしれない。
そんなひと騒動もありつつも着々と準備が整っていく。と言っても羊は身一つ、俺はベットに乗りながら鞄一つ用意するだけ。何かを準備するというよりは羊が宮司に超キツく言い含められ、それを羊が復唱する姿を見るだけだった。
(不安しかねぇ)
+++++++
++++
++
それからしばらくして無事出発の準備が整った羊は瞳をキラキラさせながらこちらに向かって来て跪くように前脚を折り畳み頭を下げる。後ろでは疲れた雰囲気の宮司が心配そうに様子を見ている。
「私、主人様と繋がりを持てた事を誇りに思いますー。これより主人様と領域の発展にお力になれるよう頑張らせて頂きますー。つきましてはよりお力になれるよう名前を頂戴出来ましたら幸いに存じますー」
「名前?」
「はいー!主人様との繋がりを強くし私の力をさらにお役に立てやすくすることが出来ますー!」
跪いたまま顔を上げ、先程と同じくキラキラした瞳でこちらを見つめてくる。
「ひつj…」
うっかり羊と名付けようとするとキラキラした瞳に涙が浮かび悲壮な表情になる。宮司は後ろで苦笑いながら拝むように手を合わせてお願いの形を取っている。
これはちゃんと考えてあげないといけないパターンだな。
「名前かぁ、ちょっと待ってくれ。今考える」
羊がダメならジョーンとかプーラーとかエリープとか…駄目だ羊から離れられない。
そうだ!確か麒麟になる可能性が高いって言ってた!
それなら和っぽい名前がいいな。
「ことほぎ」
「……!!!」
「正直これからに対して不安要素しかないんだけど、少しでも良い始まりにしたいと思うんだ」
「ありがとうございますー!ありがとうございますー!!精一杯頑張りますー!!」
そのままの姿勢で嬉しさ満開の笑顔で涙を流しながら喜びをあらわす羊…じゃなくてことほぎ。後ろからは宮司が拍手をしながら嬉しそうに歩いてくる。
「良かったですね。ことほぎ。しっかり努めなさい。」
感慨深そうに言いながらことほぎの頭を撫でると、こちらに向き直り姿勢を正す。
「主人様、この仔の事をよろしくお願い致します。繋がりを持ちお力添えになれる日を夢見ていた仔です。普段が絶望的に駄目でもいざとなったらとても力強い仔でございます。」
「えぇっと、不安が拭いきれないんですが、一緒に頑張ります?」
宮司からの急な主人様呼びに戸惑い、普段が絶望的に駄目という言葉に妙な納得感を覚える俺。
正直まだ何をしたらいいか分からないし、どうしたらいいのかもわからない。領域についてから説明されると言われていたので聞けないままなのだ。
「主人様、領域は良くも悪くも意志の世界。全ては貴方様次第です。地球で産まれた主人は今のところ貴方様だけですが他の主人も産まれる可能性もございます。そして恐らく昇華の終わっていない地球産まれの主人の領域は生まれ故郷である地球にも影響します。…自分を強く持つ事です。応援しています。」
そう言い終えると紙のついた棒を取り出し一振りする。
風が巻き起こり俺とことほぎを包み込む。
嗅いだことのある香りで周囲が満たされ風がだんだんと強くなり堪らず目を閉じる。
「いいですか?意志の力は作る力。地球の経緯と本来の主人の経緯。それから変遷期。事態は貴方様が思うより複雑な状態です。準備は怠らぬ事です」
風の向こうからだんだん小さくなって行く宮司の声が聞こえる。聞こえるのは風の音だけとなってから少しして香りが消え風が弱くなり、やがて風が止んだ。
目を開けるとそこは見たことのある黒い空間。
俺は相変わらずベットに乗ったままでことほぎは俺を見上げている。心なしか毛がいつも見るよりもふわふわだ。
風がドライヤー効果でも生んだのかな?
「さぁ、主人様!ここからは私がご案内いたしますー!!」
宮司にキツく言い含められた効果か小さくピョンピョンと飛び跳ねながら俺の周りをグルグル回り、「こちらですー」と言いながら俺の前を跳ねて行く。
そんなことほぎの後をベットに乗ったままでついて行ったが、ここに来て喰われたことを思い出し気が気じゃなかった。