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「これが貴方の世界の推移と人が科学への道を歩んだ経緯です」
そう締め括ると一呼吸置いてから羊の涙を貯めているバケツの様子を見に行く。どうやらまだ溜まっていなかったようでバケツはそのままにしてこちらに戻ってきた。
あの禊がいつ終わるのか気になり今何杯目か聞くと今のバケツが満杯になったら禊は完了だと教えてくれた。
「次は主人についてですが、ここまでで何か質問はありませんか?」
「多分何となくですが理解は出来たと思います。ですが、ちょっと頭が追いつかないというか…信じられないわけではないんです。」
そう、ここ最近の出来事でオカルト的な物は信じないと言う訳には行かなかった。だが、それでも神話や御伽噺のような壮大な話にどう理解すればいいのか実感がわかないのだ。
「あ、そうだ。さっきの話で平和的に領域がそうではない領域との戦で負けて消えたり飲み込まれたのは分かりました。あの戦いで全ての領域が存在なくなってしまったのですか?」
「いいえ、今も存在している領域はありますよ。目をつけられたのは大規模な領域でしたから、小規模な領域は無事でした。あとはあの戦いの中、魂の状態で住人に保護された主人が眠っている休眠状態のような領域があります。肉体は取り返せないまま地球が出来てしまいましたからね。そうやって魂を留めておいているようです。」
「なるほど…」
そうか、全ての領域が飲み込まれてしまった訳じゃないんだな。
「貴方が主人として過ごすうちにそういう領域に出逢うこともあるでしょう。ではそろそろ次に参ります。急ぎ足で申し訳有りませんが、あとは羊に聞いてください。」
「わかりました。」
(他の領域か、どんな感じなんだろう?少し楽しみだな)
いつか出逢うかも知れないその領域を想像していると次の話が始まった。
「さて、次は‘主人’が何故存在するようになったかです。主人が現れる前は神や人という名称が無いただ何かが存在しているだけの状態でしたが、その何かは自らの存在とは?と疑問を持ちます。その答えを見い出す為に主人を作り、領域を作る力を与え、自由に発展させました。これが主人の存在するようになった理由です。」
お、この説明は短くて分かりやすいな。
でもそうなると…
「神様ですら領域で産まれたのですか?」
「そうですよ。ただ当時は神という名称ではありませんでしたけれどね。神という名は今の貴方方の世界でつけられたものです。」
なるほど、…マジか。
だけどそうするとさっきに話に少し矛盾があるような気がする。
「じゃあ、神界に居たり領域に降りれなかった神というのは…?」
「お気付きになりましたか?ふふ、領域を充実させて行く内にその領域のエネルギーがごく稀に自我を持つことがあります。そしてそのエネルギーは独り立ちするかのように領域を離れ、旅をし、自身のエネルギーを高め自我を確固たる物にします。そうした存在が神界を作りそこに住まうようになったのですよ。さっきチラッと出た仙人も似たようなモノです。」
「マジっすか?」
「マジっすよ」
(…領域ぱねぇ。)
宮司さんの返しに驚きながら衝撃の事実を知る。
主人ってとんでもないこと出来るんだな…。
そんな事まで出来たんなら何かの疑問も解けたんだろうな。どんなこたえだったんだろう?
「何かの疑問の答えって何だったんですか?」
「それは分かりません。最初はそばで見守っていたようですがいつしか姿を現さなくなったと伝えられています。もちろん探したとは思いますが見つからなかったのでしょうね」
「神まで産んだのに?」
「神まで産んだのに…です。」
何という事だ。疑問の答えどころか存在すら疑問になってしまった。答えが見つかってどこかで満足している事を祈ろう。
「これである程度の前提はお話しできたと思います。あとは領域で…(非常に不安ではありますが)…羊と一緒に実践しながら試行錯誤して下さい」
「今妙な間があったような…?」
「出発はあのバケツが満杯になってから貴方が沐浴してからすぐになります。出来るだけ沢山沐浴をして下さい。なんならお呼びするまでずっと中にいて貰っても構いません。…では、私は用事がありますのでこれで」
俺の疑問をまくしたてる用に遮り宮司は去って行く。
(絶対誤魔化したわ)
いつの間にか目を覚ました羊の涙がバケツに落ちる音が響く音を聞きながら、痛みは少ないながらぎこちない動きしか出来ない体を動かし池へと向かう。
(とりあえず中で寝よう)
そうして俺は宮司に呼ばれるまでここで寝る事にした。