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「ここは…」


気付くと俺は闇の中にいた。

暗くて何も見えない訳じゃないから、闇というには正しくないかも知れない。その証拠に自分自身はよく見える。ただ、光源がどこにあるのか全く分からず体のどの部分を見ても明るさは均一で陰影すらない。

どういう構造になっているのか分からないが、上も下も自分が宙に浮かんでいるのかと思えるほど周囲は真っ黒だ。そして、耳がキンとしそうな程の静寂に包まれたここは暑い訳でも寒い訳でもなかった。

実感としてあるのは自分がここにいるという事とここには地面がありその上に立っているという事くらいだろうか。


どうしてこんな所にいるんだ?

確か、マスクして目隠しされていい匂いがして眠くなって…


「…あのまま寝てしまったのか?」


あまりの静寂に独りごちた声は響く訳でもくぐもる訳でもなくただ黒に呑まれていく。


「まさかあの後すぐに…」


最悪の予感がよぎる。

もしかするとあの宮司もここにとも思ったが、過去のパターンを振り返り恐らくここには自分だけだと思い直す。

不思議と絶望感や不安は湧かなかった。

出来るだけ音を出さないように呼吸にも気を遣いながら姿勢を低くしもう一度周囲を見渡す。

地面に置いた手のからは冷たくも暑くもなく、ガラスのように凹凸のない床であるということくらいしか分からない。

ゆっくり、ゆっくりと視線と体を動かして周りを観察しているとふと違和感に気づく。


「…?向こうに見えるのは光か?うっすらと何かが見えるような…??」


最初に見渡した時には気付かなかったが、慎重に見渡すと一部黒が薄く見えるような場所があった。

こんな場所にある違和感なんてろくでもない場所の証なんじゃないかと思いつつも、当てずっぽうに歩くのも躊躇われる。しばらく悩んだが、とりあえずは匍匐前進でゆっくりと近づいて見ることにした。


「これはいつ辿り着けるか分からないな」


一度もした事がない匍匐前進は思っていたよりも全く進まない。映画などで見たのを思い出し、体をグネグネさせて肘を使って頑張っているがなんか違う感がする。…多分グリップの効かない靴のせいだろう。

全く進まない有様にちょっと焦れて来た俺はハイハイの様な姿勢へと変更し進む事にした。


膝と腕が少し痛くなってきた頃、ようやく目的地である違和感が何であるか見えるくらいになった。

それはドーム状になっている光だった。なんで光っているのか、光源があるのかはまだ遠いのでよく見えないが光の中に何かがあるようだ。

少し暖かさを感じるような光にホッとしながら、安心は出来ないと気を引き締めて今までよりも周囲に気を配りながらより慎重に進む。幸いなことに今までの道もそうだったがあの場所へも平坦で障害物もなさそうなので体力的にも余裕を持って辿り着けそうだ。


これがドラキュンクエストやファイニャルファンタジアだったら絶対にすごい武器があるんだろうなと思う展開に胸が少し熱くなる。


そんな現実逃避をしながら慎重に進んだ甲斐があってか何も起こらず、何にも見つからず、息を切らすこともなく無事に光の中が見える位置にまで近づく事ができた。

そこには赤い屋根の小さな家があり、脇には大きめの一本の木とRPGで見るようなベージュっぽい淡い色の石で出来た井戸がある。木には林檎のような赤い実がいくつかなっているようだ。

光の中には草木が生えた場所が広がっており、ここでは感じないが時折風が吹いているのか木や草が揺れているのが分かった。


「井戸の中には絶対入らないと行けないな」


思わずそう呟きながら進もうとするが『何故ここにこんな場所があるのか』という疑問が頭を埋め始め、体を動かすことが出来ない。

これがゲームだったらなんの躊躇いもなく中にはいるだろう。むしろこの黒い空間の端っこを探して隅々まで歩いてからこの場所に入る余裕すら見せる事すらできる。

でも、これは自分の命がかかってる。現実かどうかは別としてもセーブが出来ない以上ロードもないこんな状況で無闇に進む事は出来なかった。


目の前の長閑にも思える場所を見てどれくらい経っただろうか。切迫した状況が身に迫るのを感じながら、それでも先に進めない自分に焦り始める。


「トイレに行きたい」


尿意…避けられない生理現象にかなり追い詰められてきた。体勢を変えてここでするか?いや、立ったら何のためにここまでこの体勢出来たのか分からなくなる。いっそこの体勢で?しかしそれだとビショビショになる。

足をモジモジさせながらどうしようかと頭の中でいっぱいになっていた俺は気付かなかった。

近づいて来るポタポタと落ちる雫の音とその気配に。

背後に迫った生臭い匂いと気配に気付いた時にはもう遅かった。

…振り返った時それは居た。



ソレは猫の頭を持っていた。

ソレは鳥の頭を持っていた。

ソレは兎の頭を持っていた。

ソレは犬の頭を持っていた。

ソレは猿の…

ソレは鼠の…

ソレは…

ソレは……


ソレはあらゆる動物の頭部を持っていた。

そしてそれら全ての手足を持ち、尾を持ち、翼を持っていた。

もはや肉塊のようなソレと血生臭い匂いに吐き気が込み上げる。全ての目がこちらを見つめ、目を細め…口角をあげ笑みを浮かべる。

それは無くしたと思ったオモチャが見つかったような嬉しそうな、そしてどこか嗜虐的な笑み。


なんて人間的な笑みなんだろうと思った。

動物が笑って見える顔は人間の笑顔とは別の物だと思ってた。それって違ったんだな。


あまりの事に呆けてしまい、場違いな思考に走ってしまう。そんな動けない俺を見てソレはゆっくりと近づいて来る。

目の前まで迫ってきたソレは一際大きな口を大きく開き…


柊蓮人…俺は死んだ。


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