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昼休み後はきちんと優先的に樹蔭君の案件をこなしてなんとか溜まっていた分の内の期限が短いものは何とか処理する事ができた。朝に溜まっていた量を確認した時にはしばらく残業が続くかと思ったが、思っていたよりも簡単なものが多く激務と言えるような状況にはならずに済んだ。もしかしたら何かしらの配慮があったのかもしれない。もしそうならとてもいい職場だと思う。

本当のところはどうであれ、とりあえず樹蔭君との待ち合わせ場所に向かう。待ち合わせ時間は少し遅めに設定したので余裕で到着する事ができた。


「樹蔭君お待たせ」

「あ、先輩、意外と早かったんすね、そこの店に予約入れてあるんですが少し早くても大丈夫だと思うんで早速入りましょう」


そう言って近くの居酒屋に向かっていく。

看板には「さかなや」と書いてある。確かここは地元の魚屋が酒好きが高じて酒と魚が旨い店として最近オープンしたんだっけか。社内の口コミによると元々美味い魚多いと評判だっただけに刺身は勿論、酒盗や塩辛といったものも美味いと評判だ。酒も勿論いいらしく、特に大辛口からワインのような甘口の日本酒を取り揃えているのがポイントが高いとの事だった。

刺身は大好きだし、酒は得意と言えるほど強くはないが色々と選んで飲んだりするのは好きなので近いうちにこようと思っていたので気分が上がる。

中に入ると結構な人で混雑しており待ちの客もまぁまぁいるようだ。今日の昼に行く事が決まったのによく予約が取れたな。


少し早いにもかかわらず席は用意出来ているとのことですぐに通して貰えた。どうやら予約していたのは個室らしく、4人くらいは座れそうな掘りごたつのある小上がり的な所に案内された。照明は暖色系のちょっと薄暗い感じでテーブルの横には色んな苔盆栽が置かれて…いや、よく見ると苔盆栽を利用したジオラマのようなものが置かれている。よく見る苔で出来た小高い丘のような場所には変わった角のをした羊が一匹置かれ、ヤシの木みたいな苔?の下ではミニサイズの兵隊達がBBQしている風景が作られていた。


「先輩は飲み物何にします?」


苔ジオラマ?に見入っていると樹蔭君が店員から渡されたドリンクメニューをこちらに渡しながらそう聞いてくる。見てみると聞いていた通り日本酒が多い。ザッと見ただけで40以上はありそうだ。それぞれにどういう酒かがわかりやすく書いてあり、酒に詳しくない俺でも割と簡単に好みの酒を見つける事ができそうだ。


「俺はとりあえずビールで」

「分かりました。じゃ、ビール二つお願いします」

「はい、ビールお二つですね、すぐお通しと一緒にお持ち致しますね」


本当は適当に辛口を選んでみたかったが、いかんせん酒に強くない俺は後悔しないようビールを飲みながらじっくり選んでから頼む事にした。

品が届くまでに何か話そうと思ったら本当にすぐにお通しとビールが来た。お通しを渡される際にはお通しの紹介がされ、イワシのつみれのお吸い物、イカととびっこの和え物と菊のおひたし、それから漬けマグロのサラダという事だった。漬けマグロの方は芹と茎わさびで和えているそうで自慢の一品らしい。


「じゃ、先輩、乾杯しましょ、退院おめでとうございます!」

「あぁ、ありがとう、近いうちにここに来たいと思っていたから余計に嬉しいよ」

「そうなんですか?それなら良かったです。最近できたばっかなんで当日予約は難しいかなと思ってたんですけど、ちょうど直前にキャンセルが出たみたいで運良く取れたんですよ」


日頃の行いっすかね、はははと言いながらお互いにメニューを見ながら何を食べるか決める。甘党はお酒が苦手という話を聞く事が多かったので樹蔭君もそうかと思ったが意外にも大の酒好きなのだそうだ。休日に釣りに行ったりしては自宅で釣った魚を肴にしてちょっといいお酒を飲んで過ごすのが好きらしい。


お互い何が食べたいか決まったのでそれらプラス店員さんのオススメであるメニューも合わせて頼んだ。それらが来るまでお通しを肴にしながらあーでもないこーでもないと雑談を交わし、頼んだメニューが届いて新しく頼んだ酒も美味しく飲み盛り上がってきた頃本題のように樹蔭君が少し暗い顔で切り出してきた。


「俺、先輩が通り魔に襲われたって聞いて凄い心配してたんす。ネットで変な噂が広まった後あんな事があって、笹野さんも様子がおかしくなって、、、そしたら先輩まで通り魔に襲われて面会謝絶って聞いて。」


樹蔭君は泣き上戸なのだろうか?少し涙目になりながらそう言ってきた。いや、きっと本当に心配してくれていたのだろう。ここまで心配されるなんて電話の一本でも入れれば良かった。申し訳ない事をしたな。


「噂?面会謝絶は俺も知らなかったんだ。ちょっと不安定だったみたいでさ、病院が気を利かしてくれたんだと思う。確かにあの出来事があった後だと色々考えてしまうよな、心配かけてすまなかった。」


そう言えば昼はスルーしてしまったが面会謝絶になってたんだっけか。平日だったから誰も面会に来ないと思っていたらそういう事だったんだな。あれ?家族への連絡とかどうなってたんだ?ちょっと、あとで実家に電話してみよう。


「いいんです、笹野さんは分からないままですけど、先輩は少し人が変わったみたいに元気みたいですし、本当に良かったって思ってます。…でも」

「…でも?」

「あの出来事に関してはネットでは噂になってても社内でも学生時代の友人も県内外に問わず誰も話題にしないんすよ?」

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