第6話 3つの選択肢
防空壕に入った時はその日のうちに出られると思っていた。だがなかなか爆発音は収まらないし、何より穴倉から出るのが怖かった。結果としてかれこれ防空壕に篭って3日。中にある災害用備蓄を消費しながらここに寝泊りしていると、気付けば外から聞こえていた爆発音もしなくなっていた。しかしそれだけ篭っていてもあの爺さんは、そしてじいさん以外も誰もここへ来ることはなかった。敵も、そして味方も。
「ねぇ。私たち、いつまでここにいればいいの?」
水波のふとした一言は、皆が共通で持っている疑問であった。
ひとまずここにいれば安全なのかもしれない。しかしここはあくまでも防空壕で、周りはとにかく木が覆い茂っているのみの山。トイレくらいはまだなんとかなったが、それ以外の生活環境が整っているとは言えない。加えて災害用備蓄であろう食糧・水等も、量はあるが無尽蔵というわけでもない。携帯端末は基地局が停止しているのか、そもそも山だからか圏外となっており、そもそもバッテリーも切れる寸前だ。なんなら運悪く充電を忘れて家を出ていた浦賀については、2日目の時点で、バッテリー切れにて電源が落ちている。
「ここにいれば誰か助けに来てくれる? 警察は? 消防は? 自衛隊は?」
「福岡はほぼ完全に落ちて、九州全土に戦火拡大中。北部は関門海峡にて防衛ラインを構築している……あくまで昨日の夜の情報だけど」
敷島はこちらもバッテリーの切れたラジオを小突く。情報源はそれでほぼ失われた。
もしいずれ自衛隊なり、同盟国アメリカ軍なり、はたまた国連軍なり。なんでもいいが助けにきてくれるなら、ここで待つことも一案である。しかしもし来てくれないなら自力で保護してもらいにいかなくては、物資的にも体力的にもジリ貧である。物資が尽きた時、体力が磨耗した時に動いてはもう手遅れなのである。
「浦賀。一応、自力脱出も考えて情報整理しとく?」
「それのほうがいい……かも」
提案した敷島は、防空壕中央に置かれた机に地図を広げる。九州全土の書かれた地図ではあるが、さすがに災害備蓄には市内規模程度のハザードマップくらいしかないため、これは敷島が自ら裏紙に書き込んだものである。
「敷島。今のところの情報は?」
「九州全土に戦火は拡大中。島嶼もやられてるとは聞いてないけど……」
浦賀に言われた敷島は九州全体に斜線を引く。その様子に水波や葛城も首を突っ込んで地図を見つめる。
「で、自衛隊は関門海峡で防衛ラインを引いた。ここ」
と、山口県と福岡県の間にある関門海峡にマークを書き込む。
「じゃあ逃げるとすればここってこと?」
そう言いながら水波は敷島に問う。しかし彼は険しい表情。
「確かにここなら味方である自衛隊に保護してもらえる可能性は高い。けど、最前線なだけに敵の数も多い。つまり敵中突破の必要性がある……」
「そっか……」
落ち込む水波の一方で葛城が顔を上げる。
「敷島さん。他に支援を得られる場所はないんですか?」
「情報は入ってこなかったけど……ここはもしかすると」
そう言って丸をしたのは長崎県中央部の海沿い。
「ここは? 何があるんです?」
「長崎県佐世保市。海上自衛隊佐世保基地。加えて在日アメリカ海軍基地」
「アメリカ軍がいる?」
「可能性はある。でもここに軍がいるってことは最前線化している可能性もあるし、ということは……」
「敵中突破の必要が……」
できれば自分たちを保護して欲しい。しかし『軍』に保護してもらうためには、ほぼほぼ敵中突破する必要性が出てくる。リターンを取ろうと思えばリスクを得なければならない状況だ。
「もうひとつ手段があるとすれば、自力で海を越える方法。船なりなんなりを自力で調達してな。もっとも船の動かし方なんて知らんけど」
「一応、聞いておくとすると逃げる先は?」
「九州を一気に南下して鹿児島から沖縄方面に逃げるか、大分から四国へ離脱する。または関門海峡を迂回して本州へ渡るか、五島列島や対馬に渡るか……運が良ければ海自や海保に拾ってもらえるかもしれないけど」
これはこれで敵中突破のリスクは低いが、自力で船を動かす必要性が出てくる。それができるか否かが不明である点はある種のリスクだろう。
「ということは手段は3つ」
浦賀は三本の指を立てる。
「1つ目、ここに留まって助けが来るのを待つ。2つ目、関門海峡を渡る、もしくは長崎を目指して保護を求める。3つ目、自力で海を越える」
「そういうこと。どうするかね……」
浦賀はただ悩む。交通機関が停止していると思われる現状では徒歩で脱出を行うしかない。機動能力に制約がかかっているからこそ、ダメだったからと言ってすぐに他の手段に変更することは難しいのである。




