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第30話 フロントライン

「「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ」」」


 野郎っぽい声2つと、女子が出していい声じゃない黄色い声が2つ。それを車内に響かせながら駐車場から車が飛び出す。


「ちょっ、敷島。もう少し安全運転を」


「無茶言わないでくれよ。無免許なんだから」


 叫ぶ水波に真剣な顔の敷島が答える。


 彼がやっているのはせいぜいギアを「D」に入れてアクセルを踏みハンドルを握るだけである。ブレーキなんてほぼほぼ使っていないし、ライトや方向指示器の使い方なんて知るわけもない。知っていても使う理由がないが、そもそも無免許の高校生なんてそんなものなのである。


「で、でもよかった。ガソリンあるみたいで」


 気を紛らわすように助手席でつぶやくのは浦賀。それを聞いた敷島は確かにとほほ笑む。


「まったくだ。残り燃料も『E』を差しているし、まだまだありそうだ。いけるぞ‼」


 意気揚々とはしゃぐ男子高生2人。その後ろの席で年下の葛城がふと気づく。


「あれ? 『E』って確か、『empty』の頭文字じゃ……」


「それどういう意味?」


 敷島が問うと同じく後部座席に乗る嵩佐木が答える。


「『空』です」


「「空じゃねぇか‼」」


 ガス欠寸前である。


「くそ。そうなるともはや減速している余裕はない。しっかり捕まってろ」


「「「いやぁぁぁぁぁぁぁ」」」


 敷島が勢いよくハンドルを切った車は交差点でドリフト(と言う名のスリップ)をしながら右折。次第に遠くから聞こえる音が大きくなっていることからして、戦闘エリアへと近づいていると見える。するとその時である。遠くに大きな車両が見えてきた。


「浦賀。見えるか」


「う~んと……」


 浦賀は双眼鏡を取り出し眺めてみる。


「黒いような緑のような車。大きい鉄砲が付いてる。こっちに向けてるっ。撃たれるんじゃ……」


「服装は?」


「め、迷彩服?」


「行ける」


 その瞬間に敷島が確信を得る。


「このまま突っ込む。浦賀、ハンドル任せた」


「はい⁉」


 敷島が手を離すと同時に助手席から浦賀が手を伸ばしてハンドルを掴む。


「水波。ライト」


「は、はい」


 浦賀のリュックからライトを取り出した水波は敷島に渡す。


「こんな明るい時にライトなんてどうすんの?」


「見てろって」


 彼はライトを点灯して遠くに向けると、手をかざして光を遮ったり照らしたり。一定のリズムを刻んではいるが何をしているか分からないように見えたが、よくよく聞いてみると敷島が小さな声で呟いている。


「とん、とん、とん。つー、つー、つー。とん、とん、とん」


 これは世界共通で使われるもの。


 モールス信号で意味は『SOS』


 もしも敷島の予想通りの存在がそこにいるのなら……


「頼む。明るいけども、まだ完全に日が昇りきっていないことに賭ける。伝わってくれ」


 その彼の願いが通じたのか砲の旋回が止まった。決してそれはこちらに標的を捉えたことではなく、自分たちを『要救助者』と見てくれたから。


 しかし彼らは忘れている。なぜ彼らの仲間たちは自分たちに砲を向けていたのか。それは遠目には自分たちが敵である可能性があったから。だがしかし可能性はもうひとつ。


 その砲が火を噴いていないにも関わらず、5人の乗った車の近くで何かが爆発。無免許の2人が運転しているだけあって簡単にバランスを崩した車が簡単に横転してしまう。


「チッ。誤った。運が良すぎた」


「し、敷島。どうしたんだよ」


 5人はすぐさま万が一に備えて忘れないでおいたシートベルトを外す。そんな中で敷島が舌打ちしながらガラスの割れた窓から外に出る。


「走れ。ここはもうとっくの昔に最前線だ」


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