第29話 一本のカギに賭ける運命
真っ暗だった空も明け始め、ビルの谷間から覗く東の空には明るい太陽が見える。浦賀が気にしていた火災については特に延焼してくるなんてこともなく、そもそも火事自体があったのかも不明であり、結局のところは取り越し苦労であったともいえるだろう。
それでも当番として最後の見張りを任せられた敷島は屋上へと登る。すると彼の耳にかすかな『音』が飛び込んできた。
「これは……」
機械音。そして小さな爆発音。
彼の頭がひとつの可能性を導き出す。
今まで山中を突っ切るルートを取っていたことも理由にはあるが、ほぼほぼ敵との邂逅を果たすことはなかった。なんなら浦賀らが無茶をしたことによるあの1回くらいのもである。そしてそれは同時に『戦闘行為』に巡り合うことがなかったことも意味する。もしもこの音が敵と味方のフロントラインが近いことを示すものであるならば……
彼は浦賀から借りた双眼鏡を構える。もしヘリコプターや航空機でも見えればそれの裏付けもできただろうが、あいにく周りは背の高いビルばかりである。それほど高くないビルに陣取ったことが裏目に出たようである。
だがその可能性が出た以上はその足は止まらない。
敷島はただちに階段を駆け下り皆の眠る部屋へと急ぐ。
そしてドアを開けた先。そこにはどこからか見つけてきた毛布にくるまり、汚れた床の上に横になる少年少女4名。彼ら彼女らも床と同じくらい汚れており、それがここまでの旅路の厳しさを物語る。しかしその旅も今日で終わりを告げるかもしれない。
「起きろぉぉぉ」
その声を聞いて嵩佐木・葛城の2名はそこそこゆっくりと、そして途中で睡眠を寸断させた水波、さらにさきほど寝たばかりの浦賀は特に眠そうに体を起こす。
「なにもう……起きるの早いんじゃない?」
大欠伸をする水波。が、敷島の次なる言葉に皆の目がしっかり冴える。
「助かるかもしれないぞ。急ごう」
「「「え?」」」
これほど以上ないほどに驚きの声が重なる。ほとんど説明もなく、敷島は昨夜のうちに見つけて置いた10本程度の車のカギをすべて上着のポケットに突っ込み先を行く。そして各員もいつでも逃げられるようにと準備を終わらせておいた荷物を持ち彼に続く。できれば朝食くらいはとって、これからに備えたいところであったがそれどころではない。いや、むしろ助かるかもしれないという希望の前には空腹など些細な事である。
「敷島。どういうことだよ」
「浦賀の昨夜気付いた焦げ臭さ……あれは火薬の匂いの可能性がある。つまりこの近くで戦闘が行われている」
追いついた敷島に問う浦賀。先を行っていた彼は既にビルの横にある駐車場まで来ており、窓ガラスこそ割れている物の車体自体は無傷そうに見える車にカギを刺し始める。
「くそっ。これじゃない」
敷島は一本一本試しつつ、そして開かなかったカギはその場に投げ捨てる。それをもしかしたら別の車に使えるかもと拾う律儀な水波。しかしそれは徒労に終わる。
「開いた」
8本目のカギでようやく開く。
「敷島。運転の仕方は?」
「親の運転を横から見てたくらい……あとはせいぜいゲーセンのレースゲーム」
助手席に乗りこみつつ問う浦賀に敷島が答える。なんとも不安なところであるが、そもそも高校生に車の運転を期待する方が間違いなのである。敷島が慣れない手つきでエンジンをかけようとする間に、後部座席に葛城・嵩佐木・水波が乗り込み準備万端。
「かかるか……かかってくれ」
思いを込めながら回したカギ。彼の思いへのそしてその答えは、エンジンルームから響く激しい音と、動き出す車のタイヤが教えてくれた。




