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第24話 海

 とっくの昔に足が痛くなってきている。歩き続けているがゆえの疲れに加え、筋肉痛やストレスなども原因なのだろうか。だがこの危険地帯を潜り抜けたいとの思いが、そして過度な疲労の蓄積がそれを感じさせなくなっているのだろうか。


 それでも明らかに一日当たりの歩く距離は短くなっていた。いくら感覚的な負担はないと言っても、確実に体は負担を感じていたのである。それでもついにその時が来たのである。


「あれ? この匂い」


 わずかに漂ってきた風を感じ取った水波が辺りの匂いをかぐ。


「なにかおいしそうな匂いでもありましたか?」


 日没までもうしばらくはあるとはいえ、さすがに歩き続けで空腹なのであろう葛城もあたりの匂いをかぐ。だがそれに気付いたのは葛城の鼻ではなく、浦賀の耳であった。


「これは……波の音?」


「あっ、やっぱり。じゃあこれって潮の香り⁉」


 浦賀と水波が顔を合わせる。


 2人はそれに気づいたように山道を駆けあがる……が、10メートルほどいったあたりでお互いに膝に手を突いて一休み。さすがにそんな元気はもう残っていないのである。


「山を越えきっていないのに風と匂いが来るなんて。そんなに海に近づいてるのかな?」


「えっと、敷島さん? 皆さんが目指している目的地ってどれくらいで……」


 少し考え込む敷島に嵩佐木が問う。彼女はついこの間合流したばかり。そもそも目的地までの距離も時間も、他4人と違って把握はしていないのである。


「ひとまず海まで着いたから、あと1日、2日あれば。もし戦線を押し返しているならば明日。でももし……」


 そこまで言って敷島は口を閉じる。最前線が自分たちの方へと近づいてきてくれているのなら、友軍の存在はかなり近いことになるだろう。だが逆に遠のいているのだとするならば、必要な日数はさらに増えることとなるだろう。


「車があれば決して遠くないけど、いろいろ問題もあるしな……」


 実際のところ、MT車の場合はクラッチのつなぎ方やシフトチェンジを上手くしなければ、エンストやエンジンブレーキなどが起きてしまう。一方で現在の主流となっているAT車であれば、極論しかるべきギアに入れてしまえばあとはアクセルを踏むだけでOKである。その点では車は運転するだけなら難しくはない。あくまで『運転するだけ』それも『安全』を考慮しなければである。


 そもそもエンジンを掛けるための車のカギは手に入るのか。掛けたところで故障はないか。動かせたとして、爆撃の受けての障害物・破損のある道路を走ることはできるか。そして敵最前線を車のように大きな音を出すモノで駆け抜けて大丈夫なのか。そうしたことが『問題』なのである。


「まぁ、最後の手段としてはあり……かな」


 もしそれをするとき、それは安全性を無視してのハイリスク・ハイリターンの行動となるだろう。それでもこの場に置かれていること自体がハイリスクなのである。リターンがあるのならば、今更多少のリスクなどとやかく言ってられない点はある。


 と、そこで水波が手を振り敷島・葛城・嵩佐木の3人に叫ぶ。


「みんなぁ~。海が見えたよ」


「まっ、ひとまず海を喜ぼうかな?」


 近くにいる葛城や嵩佐木がわずかに気付く程度。そんな小さな笑みを浮かべて正面を向く。もしここから見えた先の海、そこに自衛隊・海上保安庁・在日米軍、それらの艦船が見つかれば本日の救援ですら視野に入るのである。


 その期待とともに超えた山の先。敷島の目の前に広がる海は、ひとまず今のところは船1つない穏やかな海であった。


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