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第22話 戦闘開始

「くそっ。マジかよ」


「水波さんっ」


 先行していた浦賀と嵩佐木も足を止めて振り返る。自らの命を賭けた局面であるからこそ、ここは彼女を見捨てて逃げるのが最善手である。だがその一方で、これまで一緒に逃亡旅をしてきた『仲間』を見捨てることに抵抗を感じる。


 ここで攻撃的なことをしない限り彼女が殺されるとは考え難い。もし捕まえた先から殺していくような奴らが相手ならば、そこの学校が収容所となっている理由が不明だからだ。生きてさえいれば助けられる余地は残るが、一方でその収容所で生き残ることができるか、生き残れたとしても行方が分かるかは不明となる。つまりここで見捨てれば、彼女を助けられる可能性は極端に低くなる。


 浦賀が足を止めて戸惑っていると、水波と敵の後ろから近づいてくる影が見える。なにせこれだけ大騒ぎになったのだ。増援が来るのも想定に容易い。このままでは3人まとめて一網打尽。それを悟った水波は涙を目に意を決する。


「逃げて。2人だけでも逃げてっ」


 その叫びを聞いた2人は助けたい思いを殺しながら一歩後ろに下がった。


 その時だった。水波の腕を掴んでいた敵の後頭部に硬い棒のようなものが振り下ろされ、敵が腕を離してしまった。


「チッ。さすがに映画みたいにいかねぇか」


「敷島っ」


 月影で映ったその顔は浦賀の見知った者だった。


「手間かけさせんなよ。だから逃げようって言ったんだ」


 反撃とばかりに敵から顔を一発殴られた敷島は一旦距離を取る。しかしそんな彼に対し敵は銃のようなものを向ける。


「おいおい、マジかよ。これは拳銃パチってくればよかったか?」


「必要、ありませんっ」


 するとその敵のさらに背後。勢いよく突っ込んできた葛城が敵の首に何かを突き立てる。先の敷島の一撃で弱くなっていた防具をかいくぐったそれは、間違いなく敵の意識を削ぎ取った。


「ほら、逃げろ、逃げろ」


「行きましょう。水波さん」


「は、はい」


 敷島・葛城に連れられて水波も戦線を離脱。その様子を見て浦賀・嵩佐木の2人も住宅地を抜けて山へ駆け込む。多くの住民が捕らえられた学校に背を向け、後ろ髪惹かれる思いをしながらも、これほどの危険を何度も犯すわけにはいかなかったのである。


―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――


「ったく、お前らは……」


 呆れる敷島に浦賀は問う。


「敷島。どうして」


「葛城がリークしてきた」


 葛城は「ごめんなさい」と頭を下げる。


「ほんと危なかった。こいつをパチってよかった」


「それは?」


「警棒。近くで事故ってたパトカーから取ってきた。拳銃とかあればよかったけど、どうせ使い方分からないし見つからなかった。もう1台を調べたらもしかしたかもしれんが、急に騒がしくなってそれどころじゃなさそうだったしな」


 敷島はまだどこかで使えるかもと、パトカーから盗んできた警棒をカバンにしまう。


「それより葛城。大丈夫か」


「なんとか。最初は手が震えてたけど……うん」


 敷島が気を遣う葛城。彼の顔を見てみると、粘性のある緑色の液体がついていた。これは人間のものとは違うようだが、いわゆる返り血であろうか。彼が先ほど敵に突き立てたそれは、そこらで拾った料理用の包丁。相手がまっとうな地球人ではないとはいえ、普通の高校生が殺人を犯すことなど緊急時ともいえる今回限りにしたいものである。


「ほら。早く逃げるぞ。本当はここで一晩野宿する予定だったけど、あまり一か所に留まると追手が来るかもしれない。夜の山を歩くなんて愚策中の愚策中のもうひとつ愚策くらいなんだがな」


「ごめん……」


「ごめんなさい」


「ごめんなさい。私のせいで」


 浦賀・水波・嵩佐木の謝罪に、何も返さず素っ気ない態度をとりつつ荷物をまとめる敷島。一見すれば彼らの不用意な行動に唖然としているようにも見えるが、見限っていれば助けに来てはいないだろう。一応、まだ『仲間』だと思ってくれているということか……

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