第9話 帰ってきたこの場所
敵はいなかった。空を何かが飛んでいることもなかった。
だが本当に何もなかった。
見慣れた住宅街も、商店も。そして人の気配も。
ありとあらゆるところが廃墟となった大空襲の後。
しかし4人の中に悲愴感はなかった。むしろあったのは現実を受け入れられない思いだ。
「まさかここまでとは……」
「これはもう何もない、な。寄るだけ無駄、か」
浦賀のつぶやきに敷島が呼応する。本当はそれぞれの家に寄って行くことを想定していた。だがこれだけの状況である。浦賀の家だってすでに壊滅していることは確認済みであるし、他の場所だって同じようなものであろう。ならば危険を冒してまで家に戻るくらいならば、このまま目的地である関門海峡まで向かうべきであろう。もっともこれから行く旅路に比べれば、家に寄るくらいは誤差であろうが。
だがふと浦賀の足が止まった。
「どうしたの?」
あまりに急だったため、後ろから彼の背中に突っ込む水波。彼女の問いに浦賀は一言。
「みんな。1か所だけ付き合ってほしい」
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周りを見渡せば廃墟、廃墟、また廃墟。見慣れた雰囲気とはまったく異なっているが、それでもなんとなく目的地の場所は分かる。廃墟と言ってもそれなりに住宅地の残骸からそれらしさは見えるのである。
そんな中、浦賀がやってきたのは……
「ここってもしかして」
「あそこですね」
水波と葛城の気付きに浦賀は頷くが敷島は分からない様子。
というのもあの時ここには敷島はいなかったのだ。
「誰もいない……か」
彼は黒焦げになった軽トラックに近づくと中を覗き込む。燃えたガソリンの臭いが鼻をつんざくが、それよりも気になることがあったのだ。
「水波。ここは?」
そんな中、状況の分からない敷島は水波に問う。
「ここは、私が敵に襲われた場所です。それと」
「鵜来のおじいさんが、自分たちを逃がすために足止めしてくれた場所です」
「ここが、か」
だいたいの事情は改めて聞いていた。だがこの場所に来るのは初めてだ。
「浦賀。何かあった?」
「何もない。本当に何もない」
水波の質問にあえて2度答えた浦賀。彼のその言葉にはじいさんの生死を示す一切の情報がなかったことへの落胆感と同時に、死亡を決定づける『遺体』の存在がなかったことへのかすかな可能性がこもっていた。
「浦賀。ひとつ質問いい?」
「どうした、敷島?」
「ここで鵜来さんに足止めしてもらったんだよな」
「そうだけど?」
「ふ~ん」
敷島は意味ありげに相槌を打ち、辺りを見回した。




