10番目の神獣
転移した場所は草木が1つも生えていない荒野だった。
「ここは…?」
「アンディを拐った犯人がいる…いや、アンディの使い魔が居る世界だ」
赤く染まる空はどこか人工的で、まるでプラネタリウムの夕日バージョンのようだ。
「っ!エラ!!」
3mはあろう物凄く巨大な大鷲がぐったりして横たわっていた。大鷲はぐったりしてはいるが、目だった怪我はない。ただただ疲弊しているだけである。
ウリエラが乗り物を駆使して高速で駆け寄る。大鷲はもう飛べる力もないのだろうが、疲弊しながらも高速で近寄ってきた物体からその身で守っていたものを庇うようにして羽で包み、高速で迫ったウリエラを威嚇した。しかし、ウリエラだと分かると一鳴きし、包んでいたものをウリエラに見せるように差し出した。
「アンディ!」
ウリエラがアンディと呼んだ男の子は外傷はないが、意識がない。ウリエラが生きているかどうか確認するため、魔法をかけたうえで脈拍と、瞳孔を確認。それでやっと、生きていると確証を得たようだ。最初の魔法ですでに生存判定がでていたのだろうが、それほどにアンディが大切な存在なのだろう。
「ヴァーンさん、またお願いできますか!?」
「ああ、すぐに」
セラスに座標設定して転移。アンディの容態を見る。
「ふむ…どうやら魔力不足に加え、縦移動か横移動、もしくはそのどちらもを高速でやったことによる重力の負荷で気絶しているだけのようだ」
「うむ。命に別状はないのじゃ。ただ酸素が足りておらんゆえ、魔法で少しだけ手を加えさせてもらうのじゃ」
ミレイユがアンディと、アンディ以上に疲弊していたエラに魔法をかける。それを見ていたウリエラが感嘆の声を漏らしていた。
「きれい…」
「これで良いのじゃ。あとは安静に――む」
「ワォン!!」
空間の歪みを検知。それは優雅に着地し、機械的な声を発してアンディに標的を絞った。
「コードA102、ゲーテ、ヴィナ、ヴォーツェルト」
心臓部からアメジスト色の魔素を漏らした少女の姿をしたなにか。だが、それは一瞬で形を崩し、背中に加速機を生やしてアンディへと急接近する。
「なんだこいつ!?エラが疲弊してた原因はこいつだな!?」
ウリエラがアンディを庇うように抱き込む。エラも背後に庇って。
そのウリエラを背後に、俺は襲撃者を迎え撃つ。
「くっ、重い!」
星刻剣で突進を受け止めたが、数十センチほど背後に押されてしまった。だが、これで相手の動きを止められた。
その間にフェンとコッペリアが攻撃を加える。ミレイユにはもしものためにウリエラ達とセラスを守ってもらっている。キュリスアドは何をしでかすかわからないので待機だ。リウスはまだ戦闘経験が浅いため同じく待機。
この少女型ロボット、暫定神獣なだけあってかなり強い。いまの俺が耐えようとして耐えて数十センチ背後に押されたのだ。それほどにスピードが乗っていたということであり、それから逃げていたエラは大したものだろう。
名前『リヒト』
位『最高位』
種族『???:アルヴマーシ』
権限『耐久力10』『耐性10』『筋力10』『体法8』『空間魔法9』
上位権限『機械仕掛け』『完全耐性』『自浄作用』『馬力10』『魔素吸引』『魔素分解炉』
特殊権限『被造物』『選定』『故障』
権能『10番目の神獣』『使徒』『主神の加護』
やはり神獣か。機械は獣なのか?という疑問はさておき、このリヒトという神獣はどうやら物理特化型のようだ。
特殊権限にある『故障』が気になる。どうにかして動きを止め、詳しく見てあげたいものだが。…まあ、俺は機械はぜんぜん詳しくないのだけど。
「ミレイユ、こいつは周囲の魔素を取り込んで動いているみたいだ。周囲の魔素をすっからかんにすればもしかしたら動きが止まるかもしれない」
「了解なのじゃ。全員を連れて離れるのじゃ」
さて、魔力を全て吸収し終えるまでにやられなければいいんだけど。
ミレイユが全員を地中に埋め、高速で退避させる。今回は効率よく魔素を吸収するためにミレイユ達の魔力を吸収はしていない。それゆえ、こっちは心もとない耐久力で短期戦だ。リヒトにはばれてはないと思うから、じっくり時間をかけて料理してほしいものだが。
リヒトがアンディを追う体勢をとる。それにすぐさま反応し俺は身体強化をフルにかけた上での全力で阻止する。小太刀が弾かれる。まあ大方予想していた事だから問題なし、本命はその後の星刻剣だ。
星刻剣がリヒトの左腕を切断した。さすがに、リヴィアみたいな反則級な権限ではないみたいだ。
「――エラーコード2、ガンドゥ。コード21、ヴィア」
リヒトがやっと、俺を見る。やっと俺を自分を害せる存在だと認識したようだ。
「オープンコード32、フェシモ、オープンコードパーツ2、リヒト」
リヒトがそう唱えた瞬間、リヒトの前方に2mほどもある機械仕掛けの大剣と、左腕が降ってきた。リヒトは右手で左腕を掴むと、破損してつかえなくなった左腕上腕部を肩からパージして、新しい左腕をくっつけた。
「おいおい、そんなんありかよ…」
リヒトは加速機を吹かし、高速で接近する途中で大剣を引き抜き、その反動で高速回転して斬り着けてきた。
「粋な使い方すぎだろ加速機!」
星刻剣の刃で受け止める。流石切れ味抜群の俺の尻尾だ。斬り込んできたリヒトの大剣のほうを切ってやった。しかし、それで安心したのもつかの間、続くリヒトの脚で俺は蹴り飛ばされた。
「ぐっ」
顔面を蹴られたが大きくのけぞってダメージを最小限にできたのは良かったものの、相手は機械だということを忘れていた。…いや、機械という理由だけでは、予測外の事にたいしてはエラーを繰り返すだけだ。リヒトは神獣。機械ではあるが、ただの機械ではない。それを前提にしていないと、やられる。
「アタックコード4、ヴォーパルト」
リヒトが地面すれすれのところを飛び蹴りしてくる。明らかに罠だ。上に飛んで避けても、左右に転がって避けても追撃がくる。ならば!
「おら!」
俺も全力で前方へ飛んで攻撃をする。しかし、ある程度は予測していたのか難なくかわされてしまった。だが、そんなものはこっちも予測済み。むしろ避けて貰わないと困っていたところだ。
「替えの部品あんだろおら!下半身貰うぞ!」
避けたところを尻尾で追撃。これも予測されていたことだろう。だが。
「エラーコード4、ジーヴァ――エラー、エラー、エラー、エラー、エラー、エラー、エラー、エラー…」
上半身と下半身の切れ目から、アメジスト色の魔素が吹き出る。そのせいか、心臓からの魔素の漏れの勢いがなくなる。
追撃に回した尻尾の長さを3mほど長くしたのだ。これはさすがに予測できなかったろう。予測できていたとしたら、無闇に近づきさえしないはずだ。
これで内臓する魔素の量を格段に減らせたわけだ。そして、それを吸収してしまえばあとは…
「オープンコードパーツ1、リヒト」
リヒトがおぼつかない動きで、新しい体に頭部を移植した。古い方の体は魂が抜けたように崩折れ、リヒトは古い方の上半身と下半身を異空間にしまった。どうやら頭部が着いているほうだけを動かせるみたいだ。
そんな新しい体でも、内臓魔素量はそれほど多くない。古い方から移しかえても大量に漏れ出たから無いに等しい。さらに、空間から補充しようにも既にここいら一帯に魔素はほとんど残ってない。よって、リヒトは体を一新したのはいいが、その体を動かすエネルギーが不足していることによって体を動かせない状態にある。
「エラーコード1、エラーコード23、アールスヴァーン、カインディスターヴァ」
さて、上手いこと立ち回れたみたいだ。リヒトにスリープモードかなんかあればいいんだけど。




