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それぞれの一日

「セラス…流石に買いすぎやしないか?」

「仕方がないじゃない。こんな遠い場所、ヴァーン以外とじゃ気軽に行けないわ」

「まあ、そりゃそうだけど…」


30着以上は買っているのではなかろうか。セラスは少しでも良いと思ったものを見つけるとすぐに俺に目線で訴えて買わせるのだ。しかもひどいのは、私は買って欲しいなんて言ってないわよが一言目に来ることだ。

まったく…年頃の娘の気持ちはさっぱりわからんな。とはいえ、楽しそうな顔をしているから別にこれはこれで良い気はしているけどね。


「セラス、流石に時間をかけすぎた。いい加減ミレイユ達と合流するぞ」




「ふむ、奴隷かの。人間とはなんとも不思議なものじゃ。同種でも身分に差があるというのは妾達龍種も同じじゃが、同じ力、同じ魂、似通った運命なのにそのなかでも身分に差がある」

「はっはっは!!君たち、ここら辺じゃ見ない人種っぽいけど、奴隷を知らないのかい?」

「うむ。妾達には不要なものじゃからな。要らぬ上に財産を消費するものをわざわざ買う必要もないじゃろう」

「へぇ…君たち、見たところ子供だけのようだけど、大人は?」

「いまは居らんのじゃ」

「ふむ…」


奴隷商人がミレイユ達を観察する。


(身なりは良い、か…いや、むしろ上質なものだ。宝石や貴金属の装飾品の類いを身に付けていないから詳細はわからないが、この子らの着る服の全てが絹と見た。絹はこの大陸では普及していないから、遠いところから来た旅行者、それもかなりの大金持ちの子供たちだな?ふふふ…これは売れるぞ…!!)


奴隷商人は、これを好機と見た。


「君たち、ちょっとこっちに来てもらえるかな?道案内を紹介するよ」

「要らんのじゃ」

「いや、要るね。このでかい大陸じゃ、ちっぽけな町なんか探そうとして探せるものじゃない。いいから着いておいで」

「ふむ…一理ある、か」


ミレイユは奴隷商人に着いていくことにした。




フェンに少しだけ大きくなってもらい、10日分の食糧をフェンに運んでもらうコッペリア。フェンに申し訳なく思いながらも、流石に、少女の姿である自分が山のようにある10日分の食糧を担いで歩くと目立ちすぎる。

コッペリアは空間魔法を使えず、フェンは空間魔法の権限は2までしか使えない。空間魔法の権限の2といったら、空間をほんの数センチ歪ませることしかできない。しかも自身の周囲までだ。戦闘中はこれだけで十分効果的な場面があるが、荷物を運ぶという場面においては全くの役立たずだ。フェンに引いてもらうために必要のない馬車を買うというのも無駄だし…と、そこまで考えてフェンに運んでもらおうと考えたのだ。

と、そこで声がかかる。


「お!お嬢さん!いいリンゴ大量に買ってるねえ!ジュースにでもするつもりかい?」


コッペリアはとっさに身構えてしまったが、声をかけてきたおじさんがコッペリアを見ていなくて、フェンに運んでもらっている荷物のリンゴを見ていたことから、いままでの輩とは違うことを悟った。


「はい!それもいいですが、パイにしたら子供達が喜ぶかなと思って」

「そりゃぁいい!そしたらこっちのブドウもどうだい?日持ちはしないが今日が食べ頃だ。アップルパイにブドウジュース。いい組み合わせだろう?」

「そうですね…んん~…んーーー…」

「クォン!」

「んー…そうですね。子供の笑顔には代えられません。ブドウ、買います!」

「よし来た!そのまま食べてもよし、ジュースにしてもよし、干してパンに入れるのもよし!サナー(太陽)の恵みを受けて育った美味しいブドウだよ!」

「そうしましたら、半分ください」

「半分!?」

「はい、半分です。そのブドウが美味しいことは見ればわかりますから。あ、あと隣のパイナップルと梨も一緒に。パイナップルのほうは全部、梨はブドウと同じで半分買います。あ、端の桃も美味しそう…桃も追加で。全部お願いします」

「クゥン…」

「大丈夫ですよ、子供達はみんな果物が大好きですから。これくらい、一日一回、少しずつわけても数百人いればすぐに消えますよ、フェン」

「も、もしかしてお嬢さん、その使い魔の犬が持ってる荷物全部、食糧なのかい…?」

「はい、そうです」


と、そこで果物屋の店主がやっとコッペリアの顔をまじまじと見た。

コッペリアの被り物は、ミレイユが作った素材をヴァーンが裁縫したものだ。ヴァーンは裁縫がそれほど得意ではないのだが、コッペリアが作って欲しそうな目で見てくるので、まぁできなくはない裁縫を旅の暇な時間を使って作っていたのだ。

付与されている権限は『認識阻害3』。意識しないと認識できないレベルである。『認識阻害1』は一瞬見間違える程度。『認識阻害10』は完全に見えない程度である。

今回は、これだけ会話しているから、店主もコッペリアの顔を認識することができた。そしてそれは、いままでの店主も同じく。


「そんなに買って、孤児院でも…って、お嬢さん、えらくべっぴんだな…」

「ありがとうございます。創造主が器用な方でしたので」

「はぁ…」


この一件を機に、港町ドントには大きな使い魔の犬を連れた女神か天使か、想像を絶するほど美しい女性が訪れた店には商売繁盛の祝福が与えられるという噂がまことしやかに流れたという。

まぁ、実際にはフェンの鼻がよく効いていただけだけど。その店の仕入れるものがもともとよかっただけだけど。




ミレイユ、コッペリアと念話して合流地点を知らせ、セラスを引き連れて待機する。

と、そこでしばらくして来たのは、なにかとてつもなく、それこそ俺とセラスが買ったものの数倍はありそうなほどに荷物を抱えたフェンとコッペリアだった。遠目から見ると山が動いているように見える。どんだけ買い込んだんだ…


「お待たせいたしましたヴァーン様。10日分の食材を買ってきたのですが、少々買いすぎてしまいました」


それにしたって買いすぎだろ…20日分くらいはあるぞ…


「牛肉10頭分、豚肉13頭分、鶏肉30羽分、蛇肉40匹分、鹿肉4頭分、羊肉3頭分、馬肉10頭分…肉だけでこんなに…」

「フェンが教えてくれました」

「ワオン」

「なるほど…だから量が多いくせに偏りがあるんだな…」


それに、肉だけじゃないどころか野菜は肉の2倍の量がある。改めて言おう。まじで山が動いてきてるのかと思った。これに果物まで足されるんだから。

そんな大量の食材をなんとか異空間に詰め込み、ミレイユ達を待った。

それから数分後。ミレイユ達…と知らない男が一緒に歩いてきた。


「…っと、誰?」

「奴隷じゃ」

「え、買ったの?」

「貸し出しなのじゃ」

「あ…そう…」


見ればわりと上質な服を着て、所作の優雅で育ちが良いのがわかる。奴隷?奴隷ってなんだっけ?


「どこで借りたの」

「奴隷商と会ってじゃな。なぜかは知らぬが道案内は必要じゃろうと押されて借りさせられたのじゃ」

「なんだその押し売り。てか道案内て、ミレイユ地龍なんだから必要なくない?」

「おとんは表皮についた細菌を認識できるかの?」

「無理じゃないけど」

「同じじゃよ」

「なるほど…」


無理じゃない。無理じゃないけど…面倒だからやりたくない。まあ、そういうことだった。


「まあ道案内としての力は実証済みなのじゃ。なかなか優秀なやつじゃぞ」

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