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怠惰な天才と勤勉な凡才

このままずるずるはよくないと思うのでなんとか時間作ってちょくちょく更新していきます


「ウリエラ、君って奴は…いい加減自分で動くことを覚えよう?」

「いいの。私にはあなたがいるんだから、アンディ。それより早く新しい紙、持ってきて」

「また新しい魔法理論かい?僕が数ヶ月寝る間も惜しんでやっと理解した君の新しい理論の次に、またすぐに新しい理論を出されたとなってはやるせないよ」

「今度はそれを否定する理論だから、そうね」

「僕の努力!?」


紙を渡せばまるで腹を空かせた兎のように吸収していくウリエラ。しかし実際には、その可愛らしさとは裏腹に、その紙に時代が変わるほどの魔法理論を書き連ねていっているのだから恐ろしい。

なにがどうして魔法の発現に必要な魔素とやらを発見して、なにがどうやってそれが有限だと思い至り…そしていま、なにがどうこうしてそれがほぼ無限に生成されていると思うのか、アンディにはわからない。

それを聞いたところ、ウリエラもよくわかんないで論文を書いているのだと言う。ただ、閃いて。ただ、辻褄が合う。ただ、それだけで書いているのだと。

アンディは思う。

理解はできた。魔法を使うための魔素なるものが空気のように人体にも必要なもので、これが欠ければ人は死ぬということも理解できた。この魔素なるものはこの星で生成され、生物が消費するだけの一方通行のものだということも理解できた。

ただ、なぜ魔素なるものの存在を確信できたのかがわからない。

いや、魔素なるものがあるということの証明はされていて、その論文は半年かけて理解はしている。

けど、見えない上に、質量すらないものの存在をどうやって確信できるのかがわからない。賢者が証明した空気や原子なるものはなるほど、質量があって、現象が起これば増減するからわかる。密閉空間で現象を起こしても質量が増減しない理屈も何日もかけて理解した。

けどやっぱり、魔素なるものの存在を確信できることに納得できない。空気や原子は明らかに減っていたり増えていたり重さがあったから納得できた。けど魔素にはそれらがない。理解はできるけど、納得できる材料がない。

これだから天才ってやつは…と、アンディはため息をつきながら、ウリエラに紙を渡していくのだった。




彼は自覚しているのだろうか。そう、ウリエラは論文のことを頭の片隅に押しやり、アンディのことを考える。

彼は自分のことを馬鹿だなんだと卑下しているが、ウリエラはそう思っていない。馬鹿は私の論文に書いてあることを見ても、理解できない。理解しようとさえしない。それが馬鹿と言う人種である。けれど彼は、どれだけ時間がかかったとしても理解しようとする。そして、最終的に理解する。自称天才の他の馬鹿たちとは違い、私が書いた論文を、理解できなければデタラメだとは言わずに理解するまで読んで、最終的に理解する。自称天才達は、彼を馬鹿だアホだと好き勝手言っている。けれど、その自称天才達自身の天才の定義でいえば、自称天才達自身が馬鹿であり、アンディこそが天才なのだ。

そう、彼は天才だ。紛うことなき天才だ。私が認める、努力の天才である。




彼女と僕が暮らすここ、『蜥蜴の尻尾園』には、彼女と僕、それと雑事をこなしてくれるゴーレムしかいない。ゴーレムは優秀だ。土魔法で生み出してしまえば、込めた魔力が切れるまで働き続ける。簡単な命令を術式に組み込めば、いちいち命令を出さなくても決まった動きをしてくれるから雑事は全てゴーレムに任せている。

僕の役割は、ウリエラが書き上げた論文を『銀造りの屋敷』へと提出すること。『銀造りの屋敷』にはその論文を、世界に広める役割がある。あとは、そうだな。週に1回1日の頻度で、僕は国を見て回ることになっている。ウリエラと一緒に研究していた魔法師達の弟子が勝手に住み着いて、そこから魔法師が集まって勝手に国となったこのブラクティシア魔法師連盟国だから、内政はからっきしである。だから一応、国のことを見て回って、必要なことがあればそれを国のルールとして決める。


「それじゃウリエラ、僕はそろそろ行くよ?」

「ええ、行ってらっしゃい」

「ちゃんと人間らしい生活をするんだよ?服をちゃんと着て、ご飯もちゃんと食べること」

「はいはい、それ何回も聞いてるわ」

「何回も言っているのに聞いてくれないじゃんか。…体はちゃんと洗うのに、服を着るのを面倒がるのはなんでなんだ?」

「…バカ」

「そりゃ僕は馬鹿だけど」

「そういうことじゃないわ。いいからはやく行ってらっしゃい」

「はーい」


少し追い出された感じがして不服だが、そういえば、と僕は1つ、用を思い出す。この国は魔法師の国だが、魔法の研究者も多くはないがいるにはいる。そのなかには、ウリエラみたいに研究に没頭してしまって、何日も体を洗ってない、ご飯らしいご飯を食べてない、邪魔だからと服を着ない。そんな人が結構いるらしい。それはそれはよろしくない。国の品位を保つためにも、人間としての最低限度の生活はすることをルールにしないといけない。

早速『銀造りの屋敷』に行き、『銀造りの屋敷』を纏める魔法師のところへと向かう。


「おお!アンディ、またなにか妙案が?」

「ええ、老師。妙案というわけではないのですが、国民に必要最低限、文明人とまではいかないまでも、人間らしい生活を営んでもらいたいと思いまして」

「ふむん、というと?」


僕が老師と言って慕うこの方は、ナタス老師と言って、ウリエラの研究仲間で、闇魔法のことを研究している。そのなかでも、闇魔法の権威と言っても良いほどの研究者だ。闇魔法とは不思議なもので、影を薄くするなどのどこに使うの?という魔法から、相手からの認識を無くす、や相手の思考を誘導するなどの直接精神にかかる凶悪な魔法まで、使えるんだか使えないんだかわからない奥深い魔法なのだ。

ナタス老師は僕の相談によくのってくれるから、遠慮なく話を切り出せる。


「この集まりも、どうやら外からは国として見られているようで。ならば、最低限の国としての威厳を保ちたいと思い、研究者の方々に少なくとも人間らしくはいてほしいわけですよ。服を着るとか、体を拭くとか、ご飯を食べるとかくらいは」

「なるほど本音は?」

「ウリエラに服を着てほしいです…」

「正直でよろしい」


はっはっは、ホッホッホと二人で笑い会う。ナタス老師はユーモアもある気の良い老人なのだ。


「若者の柔軟な視点にはよく感服させられる。まったく、羨ましい限りだよ。さて、その案はこちらで検討しておく。アンディはこれから定期国遊かね?」

「はい、そうです。またなにか新しい発見ができればなと」

「そうかい、若い柔軟な視点で新しい発見ができることを私も願っているよ。ああ、そうだアンディ、これを持っていきなさい。新しい魔道具の試作品だ」

「ありがとうございます。それでは老師、行ってきます」


渡された試作品は、どうやら周囲の強い感情に反応してその感情を発したものの位置を知らせるというもの。感情を感知するというところまで進んでいるのか、闇魔法の研究は。流石だなと老師を讃えつつ、僕は自分の使い魔に乗って空を飛んで国を回る。

使い魔というのは、獣や魔物に自分の魔力のパターンを覚えさせて、そのパターンで言うことを聞かせるというものだ。ただ、言うことを聞かせるといっても使い魔との信頼関係を築いていかないといけないため、関係で言えば主従というよりもパートナーや親友のようなものだ。僕の使い魔は、大型の鷲を手懐けたもので、数年前に『蜥蜴の尻尾園』の庭先に大きい卵が落ちてたのを僕が拾って育てたのだ。僕が真心込めて育てている卵を見てウリエラが目玉焼きが食べたいと言っていたときは冗談言わないでと言ってたけど、いざ産まれてからは焼き鳥が食べたいと言い出して笑ってしまった。


「エラ、今日は南側へ行こう」

「キュエィ!」


いつもの心良い返事で大きな翼を羽ばたかせる僕の使い魔、エラ。しばらく空を進んでいくと、空からなにかが落ちてきた。


「ん?エラ、あれは…?」

「キュィ!」

「んっ、急に速度上げてどうし…人か!?あれは!!」


なにも言わずに速度を上げるエラは僕のことをよく理解している。

見ると、どうやら物理法則に則った自由落下ではなく、魔理法則に則った落下だということが伺える。あれは…魔力係数3魔法係数4の大地魔法か…?それに加えて魔力係数1魔法係数1の物理魔法か…ひとまずは安定しているようで、焦って突っ込む必要は無いな。


「エラ、急ぐ必要はないよ。僕の大地魔法と物理魔法で十分対処できる」

「キュェィ」


魔理法則で言えば、魔力係数が大きいほうが干渉を優先される。僕の推定最大魔力量は5。大地魔法と物理魔法でぎりぎり干渉できる。

僕は落ちていく人にかかっている魔法に干渉し、乗っ取る。そしてエラがタイミングを合わせ、僕は落ちていく人をキャッチした。


「ふぅ…僕の少ない魔力量で干渉できる具合の魔法でよかった。エラもありがとう」

「キュィ」

「それで…この子は?」


見た目は10歳くらいの女の子。黒髪だけど、肌は白い…どの人種だ?目鼻立ちは整っている。呼吸は正常…脈拍も正常。服は…どこのものだ?素材は軽いし上質だけど、重ねに重ねてヒラヒラしている。僕の知識にはないな…。まあ起きてから聞けばいいか。


「とりあえず下に降ろそう。エラ、あの開けた丘に降りてくれないかい?」

「キュエィ!」


休憩がてら開けた丘に降り立ち、少女を楽なところに寝かせたあと、僕は昼食を入れてる弁当を開けて食べる。エラは新鮮なお肉じゃないと嫌なのか狩りに出掛けたから、一人黙々と食べてることになる。少し寂しい。

エラも戻ってきたところで昼食を食べ終え、少しだけ眠気が出てきた。エラも先ほどの激しい動きが疲れに繋がっているのか、少しだけ眠いようだ。ちょうど良いから、魔物の侵入を知らせる警鐘の魔道具を置いて昼寝をしよう。




「…ん?少し寝すぎたかな…エラ?」

「キュィ」


エラに足蹴にされて起こされる。寝ぼけた頭ながらも、そうだ、少女は…と、周囲を見回して見つけた少女は立っていた。エラが僕を守るように少女と僕との間に体を入れてその少女を見据えている。僕は状況をよく理解できないまま、とりあえず少女に声をかけようとした瞬間、少女は虚ろな目で僕を見て、僕にもわからない言葉で何かを言う。


「エラーコードF3125477、ロイツォ、メフェ、ゲーイルマートゥ、カーツァ、クァルテ、ゾ、アールスヴァーン」


少女が何かを言い終えた瞬間、僕たちは何処か別の世界へと誘われていた。

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