コッペリアの鍵
2話同時です
「調子、戻ってきたか?」
「はい、ヴァーン様のおかげです」
コッペリアの不調は魔力切れなだけだったようだ。しかし、いまでも魔力の吸引が止まらぬコッペリア。作った時より内包する魔力が大きくなっているくせに、まだまだ吸い取っている。それだけ容量が大きくなってるってことだな。
ちなみにコッペリアには悪いが、アルスではなくヴァーンと呼んでもらうようにした。アルスはあくまでも神様の名前。竜人である俺はヴァーンで通っている。キュリスからもヴァーンと呼ばれているため、ヴァーンで統一だ。
「それで、どこらへんだ?コッペリア」
「残り1キロメートルほどです」
コッペリアを創ってから十日。いま俺らがいるのはゲール大陸の南西に連なる山々の谷底。なぜこんなとこにいるのかと言うと、俺のこんな一言がきっかけだった。
『――そういえばコッペリア。君は創造神アルスに作られた神獣だろ?鍵もほら、こうやってここにあるわけだし。自分に合う鍵穴が何処にあるかわからんか?』
『――あ、アルス様は門の解放をお望みなのですね。分かりますよ』
コッペリアの体を検査してすぐあとのことである。ちなみにコッペリアの検査は、彼女に下着のような検査着を創って着せてあげて、やりました。なんか逆にイケないことをしてる気がしてならなかったです。脚部の球体関節が覗くようにしたらラインが際どくなっちゃって…まぁ、本人がそれで満足して、落ち着いていたから俺から言えることはないんだけど。
そんな彼女はいま、ミレイユを膝に乗っけてその髪をブラッシングしている。身長が153cmほどあるコッペリア。その身長は最大2mほどまで伸ばせることを確認した。どうやら俺に仕えたいという願いから、雑用ができないことがないようにそんな能力を身につけたようだ。
しかし俺たち龍種のように服を吸収して自分の体に合わせるように着るということができないため、服はフリーサイズのワンピース。ミレイユが吸収もせず大切にとっておいていた服を加工して作った、コッペリアに最初にプレゼントした服であるメイド服は身長150~160cmくらいまでは着れるように加工し直した。…コッペリアが自分で。さすがの俺も服作りとデザインは外部…というか沙梛に任せていたため、自作するのに自信がなかった。最初リウスに任せたのもそのためである。
ちなみにキュリスもアドもまだ服を吸収できる段階にない。吸収して着るということができるのはミレイユだけだ。俺でもできない。
そして連山の一角の頂上付近にて。
「…これか?」
「はい!これです」
「…これ、か…?」
「はい!これ、です!」
役にたてたのが嬉しいのか、キュリスの満面の笑みほどに深い笑みを浮かべてるコッペリア。どうやら大地魔法で無意識的に表情を作れるようだ。だがしかし、それは置いといて…コッペリアが差し出してきたものは、これが本当に鍵穴…というか、門、なのか?と疑問を懐かざるを得ないものだった。
「だって、これ…葉っぱだぞ…?」
「葉っぱじゃな」
「葉っぱ」
「葉っぱだね」
「葉っぱ」
「はい、葉っぱです!」
ミレイユも、キュリスもアドも、リウスから見ても葉っぱ。どうせならコッペリアも葉っぱと言っている。これが門?冗談だろ?
「どうやら…ふふ。おかしいですね。あっ!ごめんなさい。創造神様を嘲笑してるわけではないんです!しかし、ご自身で創られたはずのものに首をかしげているのを見ると、おかしくて」
「確かにそうじゃな。間抜けにも程があるのじゃ」
「いえ!そこまではっ」
「もっと言っていいのじゃ人形」
この数日でミレイユはすっかりコッペリアになついて、コッペリアの味方だ。過半数を下回ってた常識人枠の新たな候補として親近感でも懐いているのだろうか。キュリスは滅茶苦茶だし、アドはキュリス第一だし、リウスもリウスで、あれでいて結構無鉄砲。…いやはじめから分かっていたことか?最近やけに行動力も力も増して、キュリスにそそのかされて二人してよくミレイユに怒られてる。
余談だが、好調のリウスに対し、リウスの幼なじみである男の子はあの村でリウスが連れ去られたことを俺たちに伝えたあと、すぐにまた意識を失って未だに目を覚まさない。本格的に優秀な医者兼孤児院かなんかに預けたほうがいいだろうという方向で話を進めている。
「こほん。話を戻しますね?どうやらその葉っぱは鍵穴であって門ではないようです」
「穴っつったって…穴なんかないぞ?」
「うーん…とりあえず鍵をさしてみましょう」
言われた通りに葉っぱに鍵をさしてみた。すると、鍵はサーッと、風に吹かれるサラサラの砂のように葉っぱに溶けていくではないか。
一番奥までさしたという感覚が伝わってきた。そこで俺は、手を捻ってみる。
「……。なにかを開いてる手応えはあるんだがはて、なにも開かんぞ」
「そうですか……あっ!!」
「なにか思い当たることが?」
持ち主であるコッペリアじゃないと開かないとか。葉っぱが生えていた木にぶっささないといけないとか。
そう予想してた俺に、コッペリアは意識にもなかったようなことを言った。
「もしかしてそれ、私の館の鍵ではありませんか?」
「…まぁ、コッペリアが持ってた鍵なんだからその線もあるかもしれないけど…でも館回ってたときは隠し扉も含めて全ての扉は開いたぞ?」
「思い出してください、ヴァーン様。1つ、行ってない場所はありませんか?」
「行ってない場所?」
言われて俺は、記憶を探ってみる。ミレイユたちを探すため館内の全ての場所をくまなく探したはずだ。姿勢を低くしたあとのあの通路はよく分からないが、最初の館はそりゃもう、文字通り埃の目まで見て回っていた。そんな俺が、行ってない場所…行ってない場所……館の範囲内のくせに、行ってない場所…あっ!!
「中庭!!」
「はい!私の館には中庭へと続く扉がないのです。普段私は人形園にてじっとしているだけなので気にしたことはあまりないのですが、中庭が開かれているくせに中庭にはいけないようになっているのです」
「よし、確認しよう!キュリスアドリウス!移動するぞ!」
木登りをして遊んでいたキュリス達を呼び戻し、俺らはコッペリアの館へと誘われた。
ちなみにいまのコッペリアの館はおどろおどろしい形相の成りを潜め、荒れた庭も立て付けの悪かった扉も埃が積もった部屋も全て綺麗に一新して、内装も変えている。コッペリアの異界なので、コッペリアの一存で清潔さは保たれるのだがせっかくだからとコッペリア従者の人形達が内装を変えたのだった。
そんな館に入りコッペリア従者の人形達に出迎えられ、俺らは中庭に接する壁に近づいた。
「適当なとこにぶっさしていけばいいかな?」
「私にはなんとも…」
「まぁ、とりあえず試してみるか」
と、壁に葉っぱをくっつけて鍵をさしてみた。すると、カチッという良い音が鳴ったあとに、目の前の壁が消え失せ扉となりそして…
「これは…人形園?」
「え、なにこれ人形園の鍵穴だったの?」
「そのようですね…期待させてしまって申し訳ございません」
「いやいや、もともと鍵が自分に対応する門の場所がわかるってとこで半信半疑だったし。防犯もなにもないからね。コッペリア従者の人形達もあんなに喜んでるんだから悪い気はしてないよ。人形園と館の行き来が面倒だったんだろ?」
「…はい…それはそうですが…あれ?人形園にあのような扉は…?」
と、確かに。人形園の壁にもうひとつ、前まではなかった扉ができていた。今度はその扉の鍵を、手に持つコッペリアの鍵で開け、開く。すると広がったのは、広い森林と浅いが魚が泳ぐほどの小川が見える、自然いっぱいの渓谷だった。
「なんだこれ。中庭どころじゃないぞ」
「渓谷…ですね」
「わぁ!!綺麗!リウスあの木に登ってみましょ!」
「うん」
「あっ、まってよキュリス僕もいくからー!」
意外にもしっかりした自然。ミレイユが問題なしとばかりにくつろぎに入るほどだから、その自然は保証されたも同然だ。
コッペリア、ミレイユを連れて少し探索してみる。どうやらここはわりとしっかり生態系の基盤が整っていて、野鳥も昆虫も魚も獣もいる。ただそのどれもが温厚な性格のようで、肉食の動物は分解生物だけと言いきれるほどだ。安全も保障されているため、気軽に散歩ができるというものだった。
「ここは…子供達がのびのびと遊べる空間として活用できそうですね」
コッペパンのお姉ちゃんと、この十日間でもう既に子供達に慕われているコッペリア。コッペリアは料理が上手く、またその作業もそれはもう、機械仕掛けのように速いため彼女一人のおかげで料理部の負担が格段に減った。
料理部とは、俺が異空間で匿っている人物達のために料理をする集団である。最初は俺一人だけだったのだが、ぽつぽつと立候補者が増えていまは百人を越える大所帯。しかし匿っている人物の数も既に千人を越えているため、まだまだ人手が足りないのである。そんななかで救世主のように登場したコッペリア。彼女はその容姿から、女性の割合が特に多い料理部の中で、男性のハートを鷲掴みにしているどころか女性のハートもえぐってしまっている。
そんなコッペリアが一番得意とする料理がコッペパンだ。そのコッペパンを子どもの空間へ運んで行った時に、コッペリアという名前もあわさってコッペパンのお姉ちゃんという名前が定着したようだ。




