ヴァーナ
「はっ!?ここはどこ?私は誰…?」
「お目覚めですか?アルス様。ここは私コッペリアが所有する異界、人形園です、アルス様。ふふ、アルス様…アルス様。ふふふ」
「こやつ、おとんが寝ていた一日の間ずっと看病しておったのじゃ。悪いのはおとんなのじゃから放っておけと言ったのじゃが聞かなくての」
「私のためにやって頂いたことなので」
そんなに意識を手放してたのか俺は…まぁ、ミレイユの渾身の一撃は文字通り、惑星がぶつかってくるほどの質量を持っている。ミレイユは重量級幼女なのだ――
「いでっ!?」
「またなにか失礼なことを考えておったじゃろう」
「む、ミレイユ様。私コッペリアは、いくらミレイユ様がアルス様と気が置けない間柄だからと、足蹴にするのは良くないと思うのです!」
「ま、ミレイユが本気で俺を殴ってれば意識が飛ぶくらいじゃ済まなかっただろうから、手加減はしてくれてるんだろうけどね」
戦闘時はもちろん本気。ただ、力任せに攻撃すればわりと真面目にアルヴテリアが崩壊しかねない。戦闘時は俺が多めにミレイユキュリスアドの力を吸い取ることでうまくバランスを調整しているのだった。そう考えると俺の燃費が悪すぎるという話なのだが…それほど神位の維持に莫大な龍力を消費するということだ。
さてさて、体を一新したコッペリア。少しは権限のほうも上がっているのかな?
名前『コッペリア』
位『最高位』
種族『???:アルヴドーライクシス(???)』
権限『耐久力10』『耐性10』『筋力5』『魅了?』『運動力魔法4』『大地魔法5』『万能魔法7』『人形』
上位権限『人形の長』『完全耐性』『魅惑』
特殊権限『被造物』『コッペリア』『奉仕』『使用人』『希望』『愛しさの惑い』『魔眼:魅』
権能『13番目の神獣』『使徒』『主神の加護』『神形』『神器』
おん。やっぱり耐久力は格段に上がっているのな。新しい権限、若しくは権能で気になるのは『神形』と『神器』か。『神形』…神を模した形あるものか。人形の神バージョンだと思えばいいのかな?『神器』…神降ろしができる?降ろせる神の位は器となる素体の位に依存…か。ちょっと試しにやってもらうか。
「コッペリア。ちょっと気になるから、『神器』の権能を使ってみてもらっていい?」
「はい!――権能解放『神器』」
なんだ…急にコッペリアが神々しく発光しだしたぞ…
そしてコッペリアは発光したまま、美しい髪を揺らして…口を開いた。
「あなたがアルスヴァーンですね?初めまして」
「あ、はい。初めまし…て?」
誰だ?誰を降ろした?てか神の意識までも体に宿すのか?コッペリアが人形だから問題ないのか…??
「超克の神、アルスヴァーン。私は天地開闢の祖。名は…そうですね。ヴァーナと言いましょう」
「ヴァーナ…さん?」
「ヴァーナで結構です。その代わり、私もあなたをアルス…いえ、ヴァーンと呼ばせて頂きます。いいですね?」
「構いませんが…」
なんだろう。すごく上位の存在な気がする。わざわざ俺に似た偽名を使う理由も分からない。ただ、警戒する必要もない気がする…不思議な存在だ。
「前々からあなたと話をしてみたかったのですよ。ただあまり長話できるような器でもないので、ちょっとした世間話程度ですが…しかし、良い器を作りましたね。他の神々を押し退けてまで降りてきた甲斐があるというものです」
「はあ…」
それからというもの、ヴァーナさんからは神界とやらの話、天使と悪魔の話、ルシファーをはじめとする熾天使、智天使の武勇伝などなど。俺からは人間だった頃の話を数時間くらいした。キュリスたちは開始十分くらいでもう飽きて子ども用の異空間で遊んでいる。
話して分かったことと言えば、ヴァーナさんはどうやら神位3以上の高位の存在だということ。ウリエルが言っていたのだ。終焉戦争で指揮権があるのは、指揮に特化したような特別な神でもない限り神位が3以上でなければならないと。そしてヴァーナさんはどうやら結構前からいる神様なようでもあった。数えきれないほどの終焉戦争で指揮をした経験があると言っていたことで予想した。
そんなお話会はもうお開き。ヴァーナさんが満足して帰る…というところで。
「ああ、そういえばヴァーン。器のこの子の負担になるので、これからは神々にも自重するように自ら降りるのではなくて力を貸すだけに留めるようお触れを出しておきますね。ただそれでも、器が上質なものですから予期せぬ引力で引っ張り出されることもあるでしょう。そうならないために、器のこの子には十分、力加減を教えてあげてくださいね」
「了解」
「それと、最後にもうひとつ。これが本題です」
「ん?」
「ウリエルに注意してください。あの子は生まれた時から、一人で悩みを抱えて暴走してしまう子でしたから…」
ウリエルに注意?ウリエルって、あのウリエル?どういうことだ?
「それって?」
「あなたは決められた運命を拓く力を持っている。それがどういうことを意味するかをよく考えてくださいね。私からはこれ以上、言えることはありません。あの子は勘が鋭いですから…ただ、その勘を働かせすぎてしまうのがあの子の悪い所です。それでは、私はこれにて。またいつか、ゆっくり話せることを願っていますよ、ヴァーン――」
そう言って、ヴァーナの気配がコッペリアから消えた。直立した状態から急に脱力するもんだから、コッペリアの体が膝から崩折れそうになる。しかしせっかく丹精込めて作ったコッペリアをそんなことで汚したくはないため、俺はコッペリアの肩を支えてあげた。
まぁ、俺が意識を失ってる間に看ていてくれていたというわけだから、これくらいやって当然である。
「んぅ…?……はっ!?も、申し訳ございませんアルス様!仕える身でありながら!」
「いやいや、別にいいんだけど…それより体に異変は?」
「…少し、動きづらい、でしょうか?」
「そうか。それじゃ早速見せてくれ」
「えっ、あ、あの、あのっ!!ま、まってください」
「俺が作った体なんだ。俺が見たほうが早い」
「そういう問題ではなく、あっ」
暴れる体を押さえつけ、乳白色の肌をじっと見つめる。と、ここで気づく。
「あれ?コッペリア。涙なんて流せるのか?」
「…はい。アルス様が作られたこの体になってからは涙も流せるようになったようです」
「ほん。感情があるのか?」
「はい。申し上げにくいのですが、最初に芽生えた感情は憎しみでした。しかし…しかし!!次に芽生えた感情は戸惑い、その次に芽生えた感情は羞恥だと断言できますっ!!」
「そうか」
「そうかっ!?」
質感は人間のものに近いコッペリア。しかし当然、素材は粘土。肌触りは人形の…人形の?あれ?
「コッペリア、お前こんなにすべすべしてたか?」
「それはおそらく、アルス様が重ね塗りされた塗料のおかげではないでしょうか…って、どこをさわっているのですかっ!!」
「どこって、脚部の関節部の確認を――いっつぁっ!!」
ミレイユに叩かれた。頭をスパコンて、いい音鳴らして。てかミレイユ。気にしてなかったが、異空間に行ったわけではなかったのか。
「おとん!!いい加減にするのじゃ!!」
「え、え?な、なにが?」
「はぁ…無自覚かの……よいか?おとん。端から見れば、今のおとんはいたい気な婦女子を凌辱せんとする獣そのものじゃ」
「え?まじで?」
え、だってコッペリアは人形で、俺が作って、動きづらいっていうから直そうとしてるんだよ?局部があるわけでもないし…
「よいかおとん。そこの人形は人形である以前に淑女じゃ。作成者であるおとんからすれば難しいかもしれんが、そこの人形の扱いは人間の女子と同じようにするのじゃ」
「い、いえ!そこまでは…」
「そもそも!お主のその甘やかしのせいでもあるのじゃ人形!」
ああ…懐かしい。子どもの頃こうやって、よく母ちゃんに怒られてたなぁ…。
コッペリアが加わったことで、より賑やかになった日常。その中に早く、沙梛と香奈を加えてやりたいと、そう強く思って…ミレイユにはたかれた。




