コッペリア
2話同時です。
さて、人形師の友人と一緒によく人形作りをしていた俺だ。コッペリアはせっかく俺の人形になったわけだ早速、俺好みの人形にしよう。
というわけですぐに作業に取りかかる。
「え、えっ」
戸惑う声は聞き入れず、俺は必要な道具を創造し、人形の瞳に熱い吐息を吹きかける。――もちろん、結露させて雑な汚れを落とすためである。
「えっ、ちょっと、お待ち下さい!」
「しーっ!おとなしく」
「はう」
なるほど精巧に出来た人形だ。髪質も人間のそれに近い。人間と同じようなケアをしてあげれば髪はすぐに艶やかな輝きを取り戻し、ツヤツヤの金髪へと戻ることだろう。
汚れた服を剥ぐ。軽く抵抗されたが知らん。俺はもうご主人様なわけだし、言うことを聞いてもらいたいものだ。左腕だけの抵抗力じゃ、俺の無理やりの力に勝てるはずもなく。か細い声を出すだけで、人形の服はすぐに没収できた。シャワーヘッドを取り出し、人形遊びしていたキュリスアドに軽くでこぴんして正気に戻してぬるま湯を出してもらい、ミレイユが愛用してるシャンプーとリンスとトリートメントを勝手に人形に使わせてもらう。やはり、くすんだ汚れが取れて輝かんばかりの金髪へと戻った人形。大変素材が良い。俺を騙る俺もこればかりは良い仕事をしたと誉めてやろう。
俺は適当に温風を生み出して人形の髪を乾かしてやった。ブラシもミレイユ愛用のお高いやつ。俺やキュリスが勝手に使えば小言を言うミレイユだが、今は何も言わずに黙認して人形遊びをしている。
キュリキュリと良い音を発てる。少しばかり右目を拝借させていただいて、軽く磨いただけでルビーのような輝きに。というかこれはむしろ…ルビーなのでは?鑑定士としての経験がそう判断している。この深い赤は、そう簡単に生み出せるものではない。
さて、問題は無くなっていた左目だ。と、そこで俺は妙案を思い付いた。せっかく綺麗な赤い右目なのだ。左目も合わせて赤い瞳にするのもいいが、せっかくならヘテロクロミアにして際立たせてもいいかもしれん。そこで考え付いたのが、俺の鱗を加工して左目にしてあげるという案だ。俺の鱗は深く紫懸かった青、瑠璃色だ。ルビーの深い赤によく似合うことだろう。
と、俺はどこの鱗にするかを考えた。某モンスターハンティングゲームでは逆鱗がレアな素材だが、まず逆鱗ってどこだ?と考えて、俺は肌を撫でてみて、考えるのをやめた。全く抜ける気がしねえ。
なら次は玉か?玉なのか?俺の玉は…いいのか?玉でいいのか?
と、考えたところで、コロンと、手の内に何かが転がり込んでくる感覚がした。ん?と手を広げてみると、そこには深い瑠璃色の石ころが、ちょうど良い大きさで。やるやん俺と思いながら、早速白目をつけて加工、人形の左目に装着…と、その前に内側をお掃除お掃除。
「ひ、ひどい辱しめです!おやめくださいご主人様!視界を奪うなんて卑怯です!!」
「ぐへへ、よいではないかよいではないか」
そして新しくした左目を綺麗にした右目共々装着。長い睫毛を震わせながら、人形は目を輝かせた。
「せ、世界が…世界が輝いて見えますっ!!」
うんうん。顔が良くなっただけでもかなり変わったな。次は胴体だ。
俺はひび割れを魔力で補修し、懇切丁寧に磨く。汚れが取れて艶やかになったところで、魔力を含ませた塗料で全身を塗ってあげる。
ああ、そういえば、と。
「右腕はどこにやった?」
「えと…気づいたらなくて…」
「あの右腕は?」
「権限で出したもので…私の右腕ではないのです」
「そかそか」
俺は異空間から粘土を取り出す。その粘土はいつか、惑星をこねて作った粘土だ。良い機会だから四肢を一新しよう。…いや、全身を一新するか?…よしそれでいこう。
と、俺はいままでの作業のことも省みず、すまんの、と一言ことわって、人形の頭部を残して胴体を粉砕して粘土に混ぜてこねこね。戸惑いの悲鳴があがったがすまんすまんと繰り返して整形。神々の炎を使って数週間で出来上がった胴体と四肢は魔力を含み、人形とは思えないほど人間に近い質感になった。まぁ、もちろん材質は粘土なので手触りは硬いが。
「ほい、これ新しい体ね」
「あ、はい」
と、頭と新しく作った体を合体。問題なく動くことを確認して、喜びの舞いを踊ってる人形の頭部をがっしりと掴み…
「覚えた?覚えたね?自分の体ってこと覚えたね?」
「あ、はい。ありがとうございますご主人さ――」
奪取。またも戸惑いの悲鳴が上がるがまぁまぁとなだめて瞳を取り外して頭部を粉砕、粘土に混ぜてこねこね。体の手足がバタバタしているのでとりあえず大丈夫ということを確認して胴体を紐で吊り下げて、安全を確保。瞳は大切に保管して、頭部作りに専念。どういう顔にするかと考える。そして浮かんだのは、人形を拾ったものの顔。キュリスの笑顔だった。
よし、これでいこう。と、俺はキュリスを熱い椅子に座らせじっとさせる。そして出来上がった人形の顔は、キュリスとアドにそっくりのもの。三姉弟妹として造ろうと思い至ったのだ。
輝く毛は粘土に混ぜながら魔力へと分解して、髪の毛がある場所と眉毛がある場所、睫毛がある場所に混ぜる。そして神々の炎を使って数週間。瞳を嵌めて、すでにぷらーんと脱力した体に合体。ぴくん、と指先が動き、瞳に輝きが宿り、全身に力が戻ったようだった。
「ご主人様!もう怒りまし――」
「はいはいおけおけ。ちょっっとばかし頭に魔力込めて?」
「あ、はい」
ふんーーーーと息を込めて頭に魔力を宿らせる人形。すると、みるみると伸びていく髪の毛と眉、そして太く長い睫毛。それは艶やかどころか、光源となるほどに金色に輝いていた。さっすが俺と自画自賛。わあと可愛らしい声を上げて自分の髪を撫でる人形を瞬時に解体。しかめっ面に涙のようなものを滲ませた頭部は後回しに、胴体から塗装に入る。二重、三重、四重、五重にも魔力を含ませた塗料を重ね、人間のような血管が透き通る乳白色の肌を生み出した。
球体関節にわりとフェチズムがあると感じている俺はもちろん、球体関節を隠すような野暮ったいことはせず、むしろ球体関節を際立たせるように塗装を重ねていく。
最後に頭部だ。自在に毛を伸ばせるということは分かっているので、塗装に邪魔な毛は丸刈りに。諦めた顔をしている人形には申し訳ないが、顔面だけでなく頭皮にも丁寧な塗装を施すと約束することで許してもらおう。
胴体と同じように、塗装を施す。そして、頬には薄いピンクの頬紅を。まぶたには鋭いシャドウを描き、化粧を終える。
仕上げに耳に穴を開け小さく形を整え、高めの鼻には小さい穴を二つ。薄く開かせた口に喉を通し、舌と歯を掘って赤い塗料を歯につかないようビニールを噛ませながら含ませ、飲ませる。深い赤みを帯びた口内に満足した俺は最後に、唇に深紅の口紅を塗り、人形の体を組み立てた。
「どうだ?調子は」
「…はい。過程は散々でしたが、まるで生まれ変わったかのように…いえ、本当に生まれ変わって、信じられないほどに好調です」
「そうか、それはよかった。最後に…プレゼントだ。リウス」
「はい!」
人形の体の焼きに入る前に、リウスに頼んでおいた代物。これまたミレイユお気にの着物を解体してリウスに繕って貰った、人形専用のメイド服だ。ミレイユが何も言わないため快く解体させてもらった。
「これを…こうやって。ほら、もういいよ」
「着付けもしていただいて…本当に、どうお詫びしたらいいか」
「欲しいのは詫びじゃない。俺が欲しいのは、君の次の言葉だよ」
と、俺は満を持して、ここで人形の全身が見えるような鏡を取り出し、人形へと見せた。
「っ!?ぁぇ…」
人形は初めて、感激の表情を。そして、感嘆の声を漏らした。
鏡に写るは精緻精巧の人形。創造神アルスによって生み出され、名工である俺によって作り直された『13番目の神獣』、至高の傑作コッペリア。
さぁ、どうだ。それが生まれ変わったお前の姿だ、コッペリア。俺はお前に詫びて欲しいんじゃない。お前が言うべき言葉は…?
「…ありがとう、ございます、ご主人様。これほどの生まれ変わりを果たし、私コッペリアは、とても感激しております」
「そう、詫びじゃない。俺は君に喜んで欲しかったんだ」
俺を騙る俺がコッペリアを捨てた責任なんてものを果たそうとは思っちゃいない。俺は俺が新しい主人だと、そう『願い』、『望んだ』この人形を、俺にふさわしいよう『コッペリア』に生まれ変わらせたのだ。
「…創造主アルス様。私コッペリアはいままでの悪行を深く反省すると共に、このような出会いを賜って頂けた幸運を我が創造主アルス様へ最大限の感謝と、贖罪の機会を独断で頂くこと、そして新たなるご主人様へ仕える許しを得たいと………。申し訳ございません。私コッペリアは己の役割が――」
「許す」
「――え?」
「許すよ。俺が許す。コッペリア。君は、あんなにボロボロになってまで、創造神アルスとやらの命に従っていたんだ。どんな命令で君が苦しんでいたのかは、俺には分からない。俺は星神話に描かれる創造神アルスではないから。でも、そんな創造神アルスを疑いながらも忠義を尽くして、命令に従って、ボロボロになっていた君を俺は知っている。星神話の創造神アルスは知らないだろうが、君が最後の最後に頼った俺は知ってる。だから俺が許す。星神話の創造神アルスが文句を言ってきたって、どんな権利があってそんなことが言えるんだとぶん殴って、コッペリアは俺のもんだと、俺のコッペリアなんだと言ってやる。コッペリア。君は俺についてきてくれるかい?」
「っ!!…はい……はい!!私コッペリアは、新しいご主人様の下で精一杯働きたいと…そう、強く願います!!」
その時、コッペリアの胸が輝いて、小さな鍵を生み出した。人形の形をした、不思議な鍵。これが神獣の鍵だろうか。どうやら俺の体内に吸収できるようで、俺はその鍵を体内に取り入れた。
「よろしくお願いします、ご主人様。もしよろしければ、お名前を伺ってもよろしいでしょうか」
ふむん?と俺はニヒルな笑みを浮かべる。それはまさしく、凝ったいたずらを思い付いた大きな少年のような笑み。
コッペリアがどんな顔をするかわくわくしながら、俺は自分の名前をコッペリアに告げる。
「俺の名前はヴァーン。龍格はヴァーン、そして、神格はアルス。天地開闢の創造神、アルスだよ、コッペリア」
「ふえ?」
期待通りの魔抜けた顔を晒したコッペリアに満足しながら、俺は格好をつけてコッペリアの誘惑にかかっているミレイユの意識を取り戻すべく、ミレイユの青筋が浮かんだこめかみを軽く小突く。
「ほら、もういくぞミレイユ」
「…妾が…」
「ん?」
「妾が大切にしておったもんをおとん!!許さんのじゃ!!」
「えっぐふっへぇ」
最後まで締まらないなぁ…と、俺はミレイユのマジパンチをくらいながらふっと意識の灯火を消すのだった…。
押しに弱い金髪西洋人形…いいですよね。




