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口兄

毎度の2話同時です。


今回は少し趣向を凝らしてみまして。いつもの主観的な"ヴァーン"に代わり、語り手は"誰か"となります。

ある冒険者のパーティーがいたのです。大陸中に名が知れてる、高名の。その冒険者のパーティーはですね、インヴィクルという悪い連中を懲らしめる旅をしておりまして。インヴィクルがどんな悪いことをしているのか、ですか?そんなものは知りません。見たことがないですから。しかし、噂によると人間を人間として扱わないような…いえ、生き物を生き物とも扱わないような非道なことを沢山やっていたという話です。そのインヴィクルが潜んでいる館がありまして。まぁ、これも噂なんですけども。その館に迷い込んだ旅人を監禁しては悪事を働いているというわけですよ。

当然、冒険者のパーティー…まぁ、でこぼこのパーティーでしたから、分かりやすくでこぼこパーティーと言いましょう。当然、そのでこぼこパーティーはインヴィクルを懲らしめるのが仕事ですから、来たわけですよ。噂の館にね。

その道中でパーティーの一員が道端で、汚れた人形を拾ったわけです。その人形はですね、なんとも、不気味なもので。右目しかなくて、腕も左だけ。脚はどちらも膝から下がなく、さらに薄汚れている。しかしどうにもその人形が魅力的に思えたようで、そのままポケットに隠して館に持っていってしまったのです。

そうとは知らずにでこぼこパーティーは館に入ったのです。それが…恐怖の始まりだったってことですね。

館はそれほど大きくない二階建ての洋館でして、20部屋も無いような。内側が庭になっているドーナツ型で、四角形の。しかし、隠し通路や隠し部屋とか沢山ありそうな、そんな館です。館よりも高い雑木林にギリギリのところで囲まれているものですから明かりなんかは全く入ってこなくて。館には伸びた(つる)が館を包み込むように複雑に絡まって、なんとも不気味な雰囲気があるのです。なにかの鳥でしょうか。ホーツクホーツクと鳴き声もして、不気味な雰囲気はいっそう増して。でこぼこパーティーの一人がすっかり怯えきってしまったわけです。

そんななかででこぼこパーティーは館の中へと入りました。館の中は冷えきっていて、明かりが一つもない。時分は夜でしたから、頼りになるのは月明かりだけ。しかし周りの木々で月明かりも入ってこない。館の中は真っ暗なのです。全ての窓から雑木林がよく見えて、松明なんか焚いてしまったら敵に位置をバラしちまうだけというもので、頼りになるのは己の目だけ。幸いでこぼこパーティーの全員が夜目の効く良い目を持ってまして、不便ではなかったようです。私にはそんな目はありませんから、羨ましいですよね。

さて。でこぼこパーティーはとりあえず危険がないか館を一周しまして。どうやらインヴィクルが潜んでいるって噂は尾ひれだったと分かったのですが、実際に人が出入りしていた痕跡はあったみたいです。さて次だ。次のインヴィクルの拠点を潰しに行こう。そう、パーティーのリーダーが言ったのですが、そこでやっと気づいたのです。パーティーメンバーが二人、ふっ…と、消えていることに。

不思議なことでして。それほど大きな館でもないですし、部屋もそれほど多いわけでもない。複雑な道なわけでもないですし、むしろシンプルな一本道。少しだけ隠し通路と隠し部屋はありますが迷うものでもない。窓は全て締め切っているので、窓から出ていったということもない。さらに不気味なことに、パーティーの一員の左手には人形の右腕が握られていたのです。そう、館の道中で人形を拾ってた一員です。代わりに持ってきてたはずの人形も消えていて。パーティーリーダーからすればまるで、消えた人形がパーティーメンバーを連れ去ってしまったような、そんな感じです。消えてしまったメンバーを放って行くことはできませんし、やっぱり、館を詳しく調べていくことになったのです。

冷えた風が服の隙間を通り抜けていく。風通しは良いみたいで、窓がヒューヒューガタガタ言うんです。ヒューヒュー、ガタガタガタ、ヒューヒュー、ガタガタガタ…って。冷えた空気のせいでしょうか。雷雨も来てしまって、雷の光が窓枠の影を作るんです。ザーザー、ヒューヒュー、ガタガタ、ゴロゴロゴーン。にぎやかなわけです。

ヒタヒタと館を進んでいく。古ぼけた館ですから、歩く度に床が(きし)んでギシギシギイギイ言うのです。…半分進んだ頃でしょうか。雷が落ちた瞬間の光で、窓に…映ったのです。パーティーの皆さんは暗闇に慣れた目で光ったものを見たものですから、それが何かはわかっていない。しかし、おぞましい何かが映ったような気がして。そのせいかどうか、急に肩が重くなったような感じがして、これはいけないと。早いとこ消えてしまったメンバーを見つけて出ていってしまおうと、早足になるのです。

気付けば一周していまして。再び館の玄関に戻ったパーティーのリーダーがふと、気づいたのです。あれ、一人いない。人形を拾ったメンバーがいないのです。最初の二人と同じように、まるで煙になったかのようにふっ…と、消えていたのです。静まる空気。増す冷感。カタカタカタ。窓枠が発てる音がどうにも、なにかの笑い声のような気がして。

残るは二人。パーティーリーダーと、パーティー結成からずっと組んできた相棒だけ。そこでふと、リーダーが気づいてしまうのです。相棒の左手に、人形の右腕が握られていることに。言ってしまうかどうか迷ったリーダーですが、結局、言ってしまいました。その右腕を捨てろ、と。そこで不思議なことに、相棒はやっと、自分が人形の右腕を握っていたことを自覚したようなのです。なんじゃこれは、と。自覚したら一瞬。まるで消えたパーティーメンバーのように、右腕は消されてしまいました…。

これはおかしい、と二人になったパーティーは、今度はくまなく探して見るのです。埃が積もった部屋。壁の木目。仕掛け扉の奥や隠し通路の境目。くまなく探して探して、気づけばまた玄関。そしてやっぱり、気づくのです。自分が一人になっていることに。他の消えたメンバーのようにふっ…と。煙が風に撒かれるように、消えてるのです。相棒は変ないたずらをする(たち)じゃありませんでしたし、むしろ居なくなるときは一声かけるような、気配りができる性格で。そんな相棒が消えたリーダーはここでやっと、危機感を覚えるのです。メンバー全員が単独で英雄と呼ばれるような力を持った人たちでしたから、危機感はそれほどなかったのです。しかし、数々の修羅場を共に越えた相棒がふっと消えたときにやっと、リーダーは危機感を覚えたのですね。

今度は一人で、もっと詳しく見て回るのです。室内も隅々まで、詳しく。埃が積もった様子だけでなく、埃の構造。壁の木目だけでなく、材木の構成。仕掛け扉の奥だけでなく、その先。隠し通路の境目だけでなく、音の反響の仕方まで。隅々まで調べるのですよ。そこでふと気づくのです。確かに、他の旅人が侵入した痕跡はある。門から館の扉に続く道の雑草が、切られていましたから。さらに、通路に足跡があったり、あまり埃が積もってなかった。しかし、気づけばそれはもう、おかしいどころではない。室内に、旅人がいた痕跡が無いのですよ。雨風をしのげる場所を求めただけで通路で満足し、室内を使わないまま出ていったとは思えません。もし他の同じ境遇の客がいて、そんな状況でもう一人の客が通路で寝ていたら。そう考えると必ず一つか二つ、部屋が使われていた痕跡がないといけません。しかしないのです。部屋の埃はすべて均一に積もっているのですよ。つまり、旅人は通路を歩いただけで用を済ました。もしくは、あまり考えられないことですが、通路や玄関で寝た。…それか、通路を歩いてる間にふっ…と、消えた。恐ろしいことに、それはすべての旅人がそうなった、ということなのです。だって、すべての部屋が同じように埃が積もっているなら、すべての部屋が使われていない。つまり、すべての旅人は一人も部屋を使えていない、ということでしたから。

五回目です。五回目の玄関ですよ。残ったリーダーはもう一度、部屋を見て回りました。やはり最初見たときと変わった様子はなにもない。埃は一定に積もっているし、木目にも細胞の組み合わせにも、仕掛け扉の奥にも隠し通路の反響にも変わりがない。六回目の玄関。そこでなにか引っ掛かるような…なにかが、なにかが違うような。そこではっと気づいたのです。


……なぜ、調べるために入った室内の埃が一定に積もっているんだ?


…と。おかしいですよね。いくらなんでもおかしいです。歩けば埃は潰れます。調べるために埃はどけます。扉を開けた分だけ埃は盛り上がります。それが全て、元通りになるのです。この館になにか、特殊な力を働かせている。そう思われれば、おかしなことなんて他にも沢山、出てくるのです。

七回目の玄関。相変わらずうんともすんとも言わずに閉じた扉。そこで気づくのです。ヒューヒュー吹く風。これは、なんだと。だって、全ての窓は締め切っているものですから、風がはいるわけもありません。やっぱり館の扉は閉じたまま。すきま風があるのでしたら、埃が一定に積もっているわけがない。つまり、風が入る余地なんてあるはずないのです。しかし風は吹いている。冷えに冷えた、凍えるように冷たい風がヒュー…ヒューって、吹いている。おかしいです。あるはずの無い風が、吹いている。これは誰かが起こしているんだと思ったリーダーは風上へと向かったのです。そこにパーティーメンバーを連れ去った敵がいるんだと。そう、思って。

八回目の玄関。そう、気づけば玄関に戻ってきてしまっていたのです。風上はあっても風の発生源がない。つまりは、風は四角い通路を走り回るように延々と吹いているというわけです。普通ならあり得ない。しかし原因もわからない。とうとう手詰まりか…と、そうあきらめかけたときに、巡りに巡っていた考えが止んだせいですかね。頭が空っぽになる瞬間、ふと頭に浮かんだのです。そう、それは不思議な現象と同じように。なぜ、なぜ。


…なぜ、明かりもはいれないように近く高くそびえる雑木林に囲まれている館に、雷の光が入ってくるんだ?


…と。時分はすでに昼を回っていてもいいほどに時間をかけて詳しく探し回っていたはずです。いくら深い暗雲だって、太陽の明かりを全く通さないことはないですよね。その光が全く館に入ってきていないのです。しかし雷の光だけはやけに明るくよく通る。しかも、そう。思えば、この館を外から見たとき。この館には長く長く、複雑に、全体を包むように、蔓が絡まっているはずなのです。しかし雷はその蔓の影を作らない。窓枠だけの影を…いえ、そもそも。そもそもの話、窓から蔓は見えない。どの窓からも、雑木林だけが見えてくる。おかしいです。…いや、おかしいってものじゃないです。そもそも、雷の光が入ってくるのがおかしいのです。雑木林は館に近くて、光も通さないのですから。

リーダーはそこで、雑木林が見える窓を壊して回りました。壊して見えた景色は、窓から見える景色と同じ。それでも壊して回ったのです。結果、全ての窓を壊して、九回目の玄関。おかしい。おかしいと思ったでしょう。


なぜ、全ての窓が壊れる?


…と。なにも壊せる壊せないという話じゃありません。全ての窓がなぜ、雑木林を映しているのかと。そういう話です。だって、館の構造は説明した通り、ドーナツ型です。ドーナツの外側である部屋の窓に雑木林が見えるのは分かります。ですが内側である通路の窓にまで雑木林が映っているのはありえません。反対側には、庭か、同じ館が見えるはずです。庭に雑木林があるのだとしても、館に入る前に見えたはずです。だって、二階建てですから、建物はそう高くはない。木を隠せるほど建物は高くないのですから。

いっそう、不気味さを増した館。そこでふと、視界の橋に転がっているなにかに気づいたのですよ。それは小さい……人形の右腕。相棒が消したはずの、人形の右腕だったのです。それを拾ったリーダーはどうにも。今度は、消えたメンバーの真似をしてみようと思ったのですよ。でこぼこパーティーのメンバーはリーダー以外、全員が子どものような身長だったので。だからリーダーも姿勢を低くして館を最初と同じように歩いて回ろうと、そう思ったわけです。十回目の玄関。十周目にしてやっと、変わったものがありました。玄関です。…いえ、そこは玄関などではなく、ただの通路。戻ってきたはずの玄関はただの通路だったのです。その瞬間、リーダーの耳元でぼそ…と、囁いたわけですよ。館ではないと気づいた瞬間から、ヒューヒュー、ガタガタ、ゴロゴロゴーンというにぎやかな音は無くて。キーンとするような耳鳴りのするところに、やけに敏感になっている聴覚のその時に、ぼそ…と、こう、耳元で囁いたのです。


次はあなたの番よ…って――

季節外れすぎる。

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