館
さて、これでインヴィクルの迅速な壊滅の他にも目的が出来たわけで。リヴィアがいる冥府がある冥界。まぁ、冥界へと繋がる門と、その鍵があると星神話に書かれているわけだが、正直、ピンポイントで目的の鍵を手にいれ目的の門を見つけられるわけはないと考えている。
鍵が37個。門が7つ。最短でリヴィアのとこに行ける確率は259分の1。現実的ではない。しかも鍵も門も世界各地に散らばっているというし、門に至ってはそのまま門という感じでそこらに置いてありはしないだろう。その上、俺は鍵の化身たる神獣すら見かけていない。
うーむ。と、俺が悩んでいると、リウスのあ!という声が聞こえた。またなにか変なものでも見つけたのだろうか。
「なにこれ?汚れて壊れた人形?」
キュリスが道端に落ちていたそれを広い上げた。見た目は古代の土偶のような人形ではなく、近代の西洋人形のようだ。しかし汚れが目立ち、金髪は輝きを失って鈍い色に成り果てていて、服は破けてボロボロ。右目はくすんだ赤色だが、ヘテロクロミアでもなければ左もそうであるはずの瞳は眼孔に嵌まっていない。右腕は肩から外れていて無く、脚は膝から下が折れて無くなってしまっている。見る者が見たら何かあると叫んでしまうほどに不気味な人形だった。
現にアドが怯えて俺の尻尾を抱えて隠れてしまっている。しかし女性陣は…女児陣?はあまりそういうのは無いようだった。しかしまぁ、汚れて汚いのには変わり無い。今は汚れて壊れた人形よりも、インヴィクルとリヴィアを優先しなければ。
「キュリス、ばっちいからもとあったところに戻してきなさい」
「えー、かわいそうなのに。ねーリウス?」
「う、うん…」
リウスは落ち着くと利口な少女に戻るようだった。しかし感情が高ぶると無茶苦茶で猪突猛進になるのは知っている。しかもいまはその行動力にさらに、力を持ってしまっている。責任を持って監督しなければならない。
「だめです戻してきなさい。目的地にもあとちょっとで着きそうなんだから」
「はーい。でもそろそろ新しい遊び道具があってもいいと思うんだけどなー?」
「どうせまた壊すじゃろう。次は絶対と言われ、それならばと丹精込めて作った鞠を数分で壊してからに」
「まだ言うの!?謝ったじゃん!ものすっっっっっごーーーーーーく謝ったじゃん!!」
キュリスは何度かミレイユに丈夫なおもちゃ、玩具を要求していて、そのことごとくを数分で壊している。最初は呆れた様子で仕方がない、と再度新しいのを作ってあげていたミレイユも次第に苛立って、今回はとうとう怒ってしまったのだった。
流石にミレイユ。自制心によって手を出すとまではいかなかったが、軽く地割れして溶岩が覗き、アドが抑えなければ噴火さえしていたところだった。キュリスもキュリスで自分が丁寧に扱ってないのが悪いというのは分かっているのだがミレイユの怒りにそこまで怒ることないじゃんとキレて、背筋どころか雲すら凍るほどの修羅場となった。冷気に触れてテンションだだ下がりのアドを戻すために温かいものをあげて、行きすぎてハイテンションになってしまわなければ近くにあったいくつかの国が滅んでいたかもしれない。
「ま、今度俺からお手玉とかそもそも壊れる要素がない遊びを教えてあげるよ。気配消す特訓ちゃんと続けて完璧に龍気を消せるようになったらかくれんぼとかもできるな」
どうやらリウス曰く、俺らは龍気という独特な気配を垂れ流しているようだった。俺に魔力を流している弊害っぽい。だから魔物が近くに寄ってこないのかと納得したが、魔物が避けるような気。他の生物になにか変な悪影響とかを与えないか心配なため、頑張って抑えるかコントロールしてみようというわけで特訓しているわけだ。そして数々の武術を体験して触れてきた俺にとって気というものは意識してしまえば流れを変えられるもの。真っ先に龍気を消すことに成功した俺はコツをミレイユキュリスアドに教えているというわけである。ま、これも流石ミレイユという感じで、要は龍脈の流れを変えるのと同じじゃろとかなんとか言って、ミレイユはいまはもう垂れ流している感じは全くなく、あと少しで完全に遮断できるところまで来ている。
ちなみに龍気と龍玉からあふれでる魔力は全くの別物のようで、人間で言えば体臭と血液に例えられる。かなり違うということがわかるだろう。龍気が体臭、魔力が血液だ。
そうこうしているうちに俺らは目的地である古びたある館へと着いた。この館はインヴィクルが迷い込んだ旅人や冒険者などを拐っていると噂されているのだ。
「こ、こわ…」
「大丈夫か?どうしてもだめならペルイムと異空間で遊んでててもいいけど」
「だ、大丈夫…キュリスが危ないから」
ペルイムとはムスペルヘイムの愛称というか略称だ。異空間の子どもたちに大変慕われているムスペルヘイム。しかし名前がながい!かわいくない!ということでペルイムという名前になった。大丈夫なんかあいつ…と心配して聞いてみたところ、好きなように呼ばせておけばいいとか言っていたがわりと気に入ってる様子。こいつ本当に子どもが好きなんだな、と全面的に子どもたちを任せるようになった。
俺らは館の門を開け、敷地内へと入る。庭は荒れて雑草が生い茂っているが、古ぼけた館の入り口である立て付けの悪そうな扉へ続く道は、流石、迷った旅人を飲み込んでいると言っていいだろう、誘導されるように、歩ける道があった。
俺らはその道を通り、扉に手をかけて引いた。ギギギと音を発てて開く扉。案外力は要らず、すんなり館の中へと入れようになった。俺は最後に館へと入り、全員の様子を確認する。
俺の尻尾を持ちながらおずおずとキュリスの背後に隠れるアド。対し堂々とした佇まいでリウスの手を握るキュリス。手を握り返しているリウスはわーと声をあげて今にも落ちてきそうな巨大なシャンデリアを眺めている。ミレイユはいつも通りに俺の隣に控えている。
扉がバタンと閉まる。光源がないため真っ暗になる室内。だが夜目の効くこのメンバーなら問題無し。むしろ目に優しいためこっちのほうがいいくらいだった。しかしまぁ、雰囲気はある。わざわざ閉めるまでもなかっただろう。アドも怖がってるし。
「アドが怖がってるから別に閉めなくても良かったよ、ミレイユ。せめて光源を確保してから――」
「妾は閉めておらんぞ」
「――そうか…」
なるほど、自動ドアだったか。殊勝なことだ。わざわざ刻印で扉を自動ドア化するなんて。魔力補充はおそらく、扉に触れたときの手から、微弱に漏れでる魔力を吸って補充したんだろうな。うん。
「さ、さて。入り口で固まっててもどうしようもない。とりあえず探索してみよう。みんなで」
こういう場所の探索で別れるのは悪手だ。最悪と言ってもいい。視界が悪い。仕掛けや罠がたくさんあるっぽい。そう言った場所で雑な罠を集団で突破できるほどの力量があるなら、別れないほうがいい。もしくは、全員で一通り一周して見回ってから散会して探索だ。情報を共有する手段と身に危険が迫ったときに知らせる手段、そして身の安全を確保してから、が条件になってくるが。
して、視界良好。リウス以外は身を守るどころか世界を滅ぼせる力持ち。連絡手段はないが力で押せばなんとかなるこのメンツ。館を一通り見てきて、入り口に戻ったのにかかった時間は半日もなかったほどだった。
「ふむ…人の影はないが気配はするのじゃ。確かに、何度か人が入った痕跡がある。しかしインヴィクルの残滓はなさそうじゃった。どうやら噂には尾ひれが着いていたようじゃな」
「そうか…そんじゃ次のインヴィクルの拠点にいくか」
と俺は扉を小太刀で切ろうとした。しかしそこで、キュリスの止めが入った。
「まって!……ヴァーン、私の…その、……人形、しらない?」
「え、人形?人形ってもしかして、数時間前に拾ってたあれ?」
「そう。ポケットにいれてたんだけど…」
「持ってきちゃってたのか…まぁ、別に怒るほどのもんじゃないからいいんだけどね?でもあれ、そんなに気に入ったのか?」
「うん。リウスも綺麗にしてあげて、治してあげたいって」
「そうか…ん?そういえばキュリス、そのリウスは?ずっと手を繋いでたはずだけど」
「…あれ?アドもいない。リウスと一緒に、ずっとそばにいたはずなんだけどな…」
顔をしかめて不思議そうに周囲を見回すキュリスの左手には、リウスの手の代わりと言わんばかりに人形の薄汚れた右腕が握られていた。
それに嫌な予感を覚えた俺はあえてそれを指摘せず、足早にリウスとアドを探そうと再び館の奥へと戻るのだった。




